明年の日本経済を展望する(H25.12.17)
―『世界日報』2013年12月17日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【アベノミクスで明け暮れした今年の日本経済】
 今年の日本経済は、アベノミクスの第一の矢(異次元金融緩和)と第二の矢(財政出動)で明け、第三の矢(成長戦略)の策定で暮れようとしている。明年の日本経済はこの延長線でどうなって行くのであろうか。

【13年度は記録的高成長になる】
 2013年度上期の日本経済は、順調な回復軌道を辿った。上期の実質GDPは前年比プラス1・8%の上昇、このうち7~9月期だけとると実にプラス2・4%の大幅上昇となっている。下期も、後に述べる理由により回復は続くと見られるので、13年度の成長率は日銀政策委員たちの見通しのようにプラス2・6%からプラス3・0%に達するであろう。この成長率は、日本経済が「失われた15年」に陥った1997年度以降、2番目の高さである。最高は2010年度の3・4%であるが、この年はリーマン・ショックによる世界的大不況で、日本経済は08年度マイナス3・7%、09年度マイナス2・0%と2年連続して大幅に落ち込んだ反動で一時的にリバウンドした異常値である。これを除くと、13年度の成長率は失われた15年間に一度も記録したことのない高さに達することになる。

【幸運に恵まれたアベノミクス】
 しかし、この高成長を全部アベノミクスの第一の矢(異次元金融緩和)と第二の矢(財政出動)によると見るのは、二つの理由で過大評価である。
 第一に、日本経済は10年10~12月期から11年4~6月期までの3四半期連続マイナス成長(11年3月には東日本大震災発生)をスタートとして景気後退に陥っていたが、この景気循環は12年暮れを底に自律的な回復に転じていた。アベノミクスの第一と第二の矢は、幸運にも景気の自律反転に便乗できたのである。

【14年4月の消費税率引き上げはアベノミクスにとって大きなリスク】
 第二に、13年度下期の日本経済は、14年4月の消費増税前の駆け込み需要によって、家計消費と住宅投資が大きく伸び、成長率を押し上げるであろう。しかし、消費増税はアベノミクスとは関係ない。むしろ、アベノミクスの第二の矢(財政出動)とは矛盾する。従って、消費増税に伴う買い急ぎで13年度下期の成長率が高まることは、アベノミクスの功績に数えるわけにはいかない。
 むしろ、買い急ぎの反動で、14年4~6月期の成長率がマイナスとなった後、7~9月期以降の成長復元力が十分にあるかどうかが、アベノミクスに問われている。

【本年度の5.5兆円の補正予算は力不足】
 3%ポイントの消費税率引き上げは8兆円の増税となるが、平年度化していない14年度には5・1兆円の増税になると言われている。政府は、この景気抑制効果を帳消しにするため、5・5兆円の経済対策を決定し、14年度上期に集中的に執行する補正予算を組もうとしている。しかし、二つの点でこの対策は十分とは思えない。
 第一に5・5兆円の財源は、税の自然増収と既往予算の使い残しである。つまり放っておけば、財政の引き揚げ超過(黒字)となって経済を抑制する分を吐き出すだけである。国債を増発して支出を拡大し、財政の支払い超過(赤字)を拡大した前年度の13兆円補正予算よりも、経済の拡張効果ははるかに小さい。

【前年度の13兆円補正予算の執行終了は「財政の崖」】
 第二に13兆円補正予算の執行は13年10~12月期にピークを迎え、先細りとなる。これは一種の「財政の崖」である。13年度の成長を支えた公共投資は、14年度にはマイナスに転じるであろう。これは、アベノミクスの第二の矢の逆噴射である。これに気がつけば、アベノミクスを支持しているクルーグマン教授などは、「財政再建至上主義」として批判に転じるのではないか。

【「異次元金融緩和」はまだ力を発揮していない】
 第一の矢の「異次元金融緩和」は、14年度中も続くが、落ち込んだ成長の復元力として十分に働くであろうか。これまでのところ、日銀の国債大量購入によってマネタリ―ベースの残高は前年比5割も増えているが、増加額の95%は日銀当座預金に滞留していて、経済の活性化に回っていない。銀行貸出残高は前年比2%しか増えていない。内部保留が十分にあっても設備投資やベアを実行しない企業は、銀行貸出のアベイラビリティ上昇には見向きもしないからだ。

【消費増税後の成長復元力は第3の矢「成長戦略」に懸る】
 結局、14年度の成長復元力を担う力は、第三の矢の成長戦略と海外経済の立ち直りによる輸出数量の増加しかないであろう。消費税率引き上げに伴い、14年度の消費者物価は3%以上上昇するであろうが、これを上回るベアが実現するとは思えないので、実質可処分所得は減少し、家計の消費増加は期待しがたい。
 年内に公表され、14年度に実行される成長戦略には、国家戦略特区を設立して医療、都市再生・まちづくり、農業、歴史的建築物の活用、教育、雇用の6分野で規制改革、構造改革を実現し、成功すれば日本全体に広げようという構想がある。このうち、医療、農業、教育、雇用には、既得権益に守られたいわゆる「盤岩規制」があるが、もしこれらの規制に風穴を開ける改革ができるならば、長期的に日本の成長を支えるビジネス・チャンスが拡がり、来年度の成長復元力を支える設備投資が盛り上がってくると期待されるが、果たしてどうなるであろうか。