日本経済は消費増税に耐えうるか(H25.10.13)
―『世界日報』2013年10月13日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

 4~6月期国内総生産(GDP)統計の2次速報値と、9月調査「日銀短観」の公表を受けて、安倍晋三首相は明年4月から消費税率を3ポイント引き上げて8%とすることを決断した。

【本年度は2%台後半の高成長の見込み】
 4~6月期の実質GDP成長率の2次速報値は、企業の設備投資と在庫投資が上方修正されたことを主因に、1次速報値の2・6%(年率、以下同じ)から3・8%へ高まった。同時に、1~3月期の成長率も3・8%から4・1%に再修正された。この結果、本年度の成長率は、7~9月期以降3四半期が仮にゼロ成長であっても、1・6%になる。実際はそのように弱い筈はなく、消費増税前の駆け込み需要もあって、毎期2~3%台の成長をするであろうから、本年度の成長率は2%台後半に達すると推計される。
 これは、リーマン・ショックによる落ち込み(08~09年度通計マイナス5・7%)の反動で3・4%成長となった10年度を除くと、「失われた15年」に陥った97年度以降、最高の成長率である。この報告を受けた安倍首相は大いに気を強くしたに違いない。

【前回の消費増税時の方が成長率の趨勢は高かった】
 しかし、13年度が久しぶりの2%台後半の成長率だと言っても、その前の11年度と12年度は0・3%と1・2%という低成長で、ようやく13年度になって2%台成長に回復するのである。前回消費増税が行われた97年度は、それに先だって94~96年度の3年間に、いずれも2%台成長をしており、経済成長率の趨勢は、現在よりも高かった。それでも消費増税に耐えられなかったのだ。本年4~6月期GDPの2次速報値だけを見て、経済の現状を強く見過ぎてはならない。

【「日銀短観」の業況判断はリーマン・ショックまえよりは未だ低い】
 同じことは、9月調査「日銀短観」についても言える。多くの新聞は、今回調査の「業況判断」DIの「良い」超幅は、リーマン・ショック以来の最高になったと大きく伝えていた。それはそうに違いないが、リーマン・ショック以前に比べれば、まだかなり低いのである。例えば、大企業の「良い」超幅は今回13まで回復したが、リーマン・ショック前の06~07年の23に比べればまだ大きな差がある。これを3%ポイントの消費増税のショックに十分耐えられる収益状況と、簡単に言えるであろうか。

【消費増税に耐えうるか否かは設備投資と純輸出の強さに懸る】
 14年4月から消費税率を3%ポイント引き上げた場合のデフレ・ショックは約8兆円である。加えて、消費税率引き上げ前の買い急ぎの反動的減少が家計消費と住宅投資に出るであろうから、14年4~6月期と7~9月期はマイナス成長の可能性が高い。その時、家計消費と住宅投資の落ち込みは一過性と見て、設備投資が力強く伸び続け、また米国経済の回復テンポが上がり、欧州も最悪期を脱し、新興国も徐々に立ち直って純輸出の増加が成長に大きく寄与してこないと、10~12月期以降の力強い成長力復元は難しくなるであろう。

【政府はもっと分かり易い骨太の投資促進策を】
 政府もそのことは十分承知しているため、アベノミクスの第3の矢である「成長戦略」で、企業投資の刺激策をいろいろと考え、またTPPを始めとする国際的経済連携や自由貿易の促進に努めているのである。
 しかし、現在伝えられている企業投資の促進策は、法人実効税率の引き下げや欠損金繰越期間の延長のような分かり易い骨太の政策ではなく、投資や賃上げの細やかな優遇税制や特区に限定した部分的規制緩和の話ばかりである。6月に打ち出した成長戦略の第一弾と同じように、海外で不評を買うのではないか。

【5兆円の補正予算の規模は不充分】
 アベノミクスの第2の矢である財政出動については、前記の投資減税などを含め、5兆円の補正予算を組む話が進んでいる。これについては、マクロの経済効果と政策理念の両面から、よく考えてみる必要がある。
 消費増税に伴うデフレ効果(14年度中は5兆円)を小さくするため、5兆円の補正予算を組むというのであるが、これで差し引きデフレ効果がなくなるというのはあまりにナイーブである。12年度末に新規国債発行を伴う13兆円の補正予算が、アベノミクスの第2の矢として組まれ、これが現在の公共投資拡大を支え、13年度の高成長に寄与している。これが今回は、税の自然増収や予算の使い残しを財源とし、国債の追加発行のない5兆円の補正予算となる。規模の落差は13マイナス5で8兆円もある上、前回は国債増発を伴い、今回は自然増収などの吐き出しである。この違いが、14年度の成長にかなりマイナスに効いてくる。その上、5兆円の消費税増税が加わるのだ。来年度のアベノミクスの第2の矢は、後ろ向きに飛んでくるネガティブ要因となろう。

【消費増税で法人減税と公共投資とは何事か】
 政策理念から考えると、消費増税は社会保障に充てるためであるから、そのデフレ効果を減らすための補正予算は、全額新規の社会保障支出とすべきである。それが法人減税や公共投資の増加とは、何事であろうか。法人減税や公共投資は国債発行で賄い、その結果、経済が成長軌道に乗った時の税の自然増収で償還するのが、政策理念の筋であろう。