総選挙後は連立または政界再編で公約のベスト・ミックスを (H24.12.12)
―『世界日報』2012年12月12日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【今日の日本は八方ふさがり】
 総選挙を控えた今日の日本は、まるで八方ふさがりの観がある。
 @少子高齢化が進み、一方では生産年齢人口が減少して経済成長率が下がり、他方では高齢者の比率が上昇して社会保障費が膨張し、税収減と歳出増で政府債務が増加している。A低成長で需給ギャップが拡大してデフレ(物価の持続的下落)が続き、名目値で見た国民所得や雇用者報酬は21世紀に入って下がっており、国民の生活水準は向上していない。Bそこに東日本大震災が襲い、復旧・復興の負担が政府の財政と国民の家計に懸っている。C原発の稼働停止に伴う火力発電の比重上昇によって、燃料の輸入増加と値上がりが起こり、貿易収支は赤字に転落し、電力料金は値上げを余儀なくされ、産業と家計のコストは上昇している。Dリーマン・ショック以降の世界同時不況によって、日本の国際経済環境は悪化している。E尖閣諸島や竹島をめぐって中国や韓国との軋轢が高まり、外交・防衛上の課題が出てきた。
 まさに国難とも言うべきこのような状況を前にして、F解決に当たるべき政治が衆参のネジレを利用した党利党略に走り、官僚機構の統治不全もあって「決められない政治」に陥り、日本の統治機構そのものの改革も課題となってきた。

【八方ふさがりの突破口は日本経済の再活性化】
 これら@〜Fの問題について、各党と候補者が、総選挙の公約の中で、適切な解決策を示しているかどうかを吟味し、投票先を決めるのが選挙民の務めであろう。なかなか難しいことではあるが、ここでは私の専門分野であるマクロ経済について、考えてみたい。
 日本経済の高目(例えば2%以上)の持続的成長を実現することは、デフレの収束、国民生活の向上、財政赤字の削減、社会保障制度の持続性維持、東日本大震災の復旧・復興、エネルギー問題の解決など総てを容易にするいわば大前提であり、国際的な経済、外交、防衛関係を日本に有利に展開するための基盤である。つまり、八方ふさがりの突破口は、日本経済の再活性化である。これを置いていては、他の総ての国難はトレード・オフの関係に立ち、解決は困難である。

【低成長の原因】
 90年代以降、とくに21世紀に入ってから、日本の経済成長率は平均1%にも満たなくなったが、その主な原因は、供給側と需要側の双方にある。供給側では、生産年齢人口の減少に伴う就業者数の減少と、生産性(就業者1人当たりの実質GDP)の低下である。需要側では企業が将来に悲観的となって期待成長率が下がり、資金があっても投資と雇用を増やさないことである。

【未来と民主は供給側を改善する公約】
 日本未来の党(以下、未来)が、女性の就業率を高めるための女性・子育て支援に重点を置いていることは、生産年齢人口減少の下でも就業者を増やし、成長率を高めるために極めて適切な政策である。民主党(以下、民主)がエネルギー、環境、医療・介護、農業などの成長戦略産業の規制緩和、研究開発支援に力を入れ、また民主、日本維新の会(以下、維新)がTPPを含むFTAやEPAの国際協定網拡大に前向きなことは、生産性向上という方向性において適切な政策である。

【民主と自民は需要側を改善する公約】
 需要側については、民主、自民党(以下、自民)が総選挙後の本年度大型補正予算に言及しているほか、自民が「国土強靭化」のための中期大型公共投資の実施を公約している。しかし、ここで気になるのが財政赤字の再拡大である。民主と自民は「税と社会保障の一体改革」で、消費税率の5%から10%への引き上げによって社会保障費を賄ない、財政赤字を縮小すると言っているからだ。自民は公約には明記していないが、国会討論から判断すると、消費税引き上げによって浮いた社会保障費の財源を、財政赤字縮小に当てず、公共投資拡大に当てるつもりのようだ。

【自民と未来は財源に難】
 これなら消費税増税に伴う需要不足で成長率が下がることは防げるが、カネに色は付いていないから、消費増税で公共投資を拡大することになる。選挙民はそれで納得するのであろうか。
 消費増税による成長率低下を回避するため、未来は増税の凍結を公約し、行政による規制と無駄を徹底的に排除して財源捻出と経済活性化を図るとしている。これは3年前の民主の公約と同じであるが、民主政権にできなくても未来にはできるのであろうか。

【経済再生のベスト・ミックスを実行すれば金融緩和の効果も挙がる】
 自民と維新は、日銀法を改正して金融緩和を一段と進め、成長率を高めると公約しているが、期待成長率が低下しているため、企業はカネがあっても投資と雇用を増やさない現状では、効果がないであろう。
 経済成長率を高める適切な政策を公約した複数の党が、総選挙後、連立、あるいは政界再編を実現し、各党のバラバラな公約から政策のベスト・ミックスを打ち出すことを期待したい。それによって国民の期待成長率が高まってくれば、これ迄の金融緩和の効果で、本当に成長率が高まってくるであろう。