このままでは14年度の消費税増税は困難になる (H24.10.10)
―『世界日報』2012年10月10日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【下期の日本経済に変調】
 本年上半期の世界経済では、米国の回復が予想外に遅れ、EUはマイナス成長を続け、新興国・途上国は中国を中心に成長が大きく減速したが、その中にあって、日本は比較的安定した回復歩調を辿っていた。上期は前年下期比、年率2・9%の成長であった。しかし本年下半期に入り、日本経済はにわかに変調をきたしている。
 鉱工業生産は年初来ほぼ弱含み横這いで推移していたが、ここへ来て5月と7月、8月に大きく低下し、製造工業生産予測調査によると9月は更に大幅に下落したあと、10月は底を這うという。この予測通りになると、10月の水準は年初の1月に比し8%も低い。

【国内需要がにわかに下振れ】
 鉱工業出荷もほぼ生産と同じような推移を示しているが、出荷の内訳を国内向けと輸出向けに分けてみると、輸出向けはほぼ横這いで推移したあと、4月から弱含みに転じているのに対して、国内向けは4月まで増加傾向を辿ったあと、5月から急激に低下している。GDP統計をみると、年率成長率は本年1〜3月期の5・3%から4〜6月期の0・7%へ4・6%ポイント鈍化したが、内外需の寄与度は内需が3・6%ポイント低下、外需が0・9%ポイント低下と内需不振の影響の方が大きい。
 足元の日本経済の変調は、輸出の不振に加えて、これまで成長を支えてきた国内需要がにわかに下振れし始めたためと見られる。

【自動車、鉄鋼など大企業製造業の業況が悪化】
 9月調査「日銀短観」では大企業製造業の業況判断DIが3四半期振りに悪化したが、その背景には大企業製造業の本年度の売上計画が、国内売上を中心に下方修正され、つれて増益率の見通しが大きく下振れした事実がある。また大企業製造業の本年度設備投資計画(ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)が下方修正され、雇用人員判断の過剰超幅が先行き拡大する。
 業況判断DIの悪化を業種別にみると、9月のエコカー補助金の終了と、中国の景気減速・対日感情悪化をみて生産計画を下方修正した自動車と、その部品である鉄鋼の下振れ幅がとくに大きい。

【景気後退か景気足踏みか】
 いまエコノミスト達の見通しは二つに分かれている。一つは、日本経済は既に景気後退に入っており、7〜9月期に続き10〜12月期もマイナス成長という見方だ。もう一つは、7〜9月期はマイナス成長でも、10〜12月期は、海外経済が持ち直して輸出が立ち直り、プラス成長に戻るので、現状は回復の足踏みに過ぎないと見る。
 8月現在、輸出(通関ベース)は前年比5・8%の減少であるが、大きく落ちているのはEUを中心とする西欧向けの28・2%減と中国を中心とするアジア向けの6・8%減で、米国向けは10・3%増えている。EUは今年中はマイナス成長と見られているから、年内に日本の輸出が立ち直るとすれば中国向けが中心である。しかし、中国の成長減速が底を打ったという証拠はないし、昨今の日中対立が経済活動に及んでいる現状をみると、遠からず中国向け輸出が立ち直り、日本経済を牽引するとは到底考えられない。

【経済の変調をよそに政局に明け暮れる政界】
 政界では、民主党と自民党の党首選挙が終わり、解散・総選挙をにらんだ両党役員の布陣が決まった。また秋の臨時国会に臨む第3次野田改造内閣が発足した。いよいよ両党が正面から激突する決戦の秋である。しかし、足元の日本経済にはこのように変調が現れており、このまま対策も打たず、政局に明け暮れしていて大丈夫なのかと不安に感じている国民は、少なくないのではないか。

【臨時国会の召集を急ぎ特例公債法案と本年度補正予算の成立を急げ】
 まず何よりも先に臨時国会を開き、特例公債法案を通して本年度の予算執行を確実にし、更に本年度の補正予算を成立させて国内需要を刺激しないと、現在の回復足踏みが景気後退へ傾いていくリスクは高いと言わざるを得ない。しかし、野党の自民党と公明党は、政府が解散・総選挙の約束をしない限り、これらの法案を通さない態度に終始し、民主党は臨時国会召集を先延ばしするのであろうか。

【このままでは14年度もデフレが続き消費税増税は困難に】
 現在の実質GDPの水準はリーマン・ショック直前よりまだ低いが、この間に設備投資は行われて供給能力は伸びていたから、供給能力と需要のギャップは著しく拡大し、デフレが続いている。消費者物価(除生鮮食品)の前年比は4月のプラス0・2%から8月はマイナス0・3%になった。9月調査「日銀短観」でも、生産・営業設備判断の「過剰超」と販売価格判断の「下落超」が続いている。
 このような状況から更に景気後退に入っていけば、需給ギャップは益々拡大し、デフレ解消は明年はおろか、消費増税を予定する14年度にも難しいであろう。消費税増税法には14年度の経済状況によっては、実施を先送りすべしという「景気条項」がある。党利党略のための政争を繰り広げて、自分達が作った消費税率引き上げの道を閉ざすのは愚の骨頂ではないか。3党合意を金科玉条としている民自公の3党にこの認識はあるのか。