小沢新党の経済政策を考える―「日本改造計画」の原点に返れ (H24.7.11)
―『世界日報』2012年7月11日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【TPP、消費税増税、原発再稼働にすべて反対する小沢新党】
野田政権と民主党指導部は、@09年総選挙の「マニフェスト」を堅持し、党の結束を維持して、消費増税法案の成立を急がない戦術をとらず、A「マニフェスト」に反する自公両党の社会保障改革法案を丸呑みし、消費増税法案の採決を衆議院で急ぐ道を選んだ。その結果、民主党は分裂した。民主党から分かれた小沢新党は、「国民の生活が第一」のスタンスに立って09年の「マニフェスト」を堅持すると言っている。
野田首相が就任以来指導力を発揮してきた主な経済政策は、環太平洋連携協定(TPP)加盟交渉参加、消費税率引き上げ、停止原発再起動の三つであった。小沢新党はこの三つにすべて反対するようである。
【小沢一郎氏の本音】
しかし、自民党離党以来今日までの小沢一郎氏の言動を見ると、彼がこの三つの政策に原理的に反対しているとは思えない。
『日本改造計画』『語る』などの著書を見ると、小沢氏は自由貿易論者である。貿易や投資の自由化に立ち遅れ気味な日本が、アジア太平洋地域に自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を張り巡らす戦略に、反対している訳ではない。しかし、いまの対米追随の野田政権が、米国とTPP加盟交渉を進めると、日本に不利なルールを押し付けられる危険があるから反対だとテレビで明確に述べていた。
消費税率の引き上げについても、少子高齢化の下で社会保障制度を維持するためには不可避だと考えていることは、著書や講演で分かる。しかしその前に、社会保障制度を持続可能な形に直し、また財政支出の無駄を省いて、中央政府をスリム化すべきだと言っている。経済の基調が弱く、デフレが続いている時には増税すべきではないとも述べている。
停止原発の再起動についても、その進め方を批判しているのであって、いま直ちに原発を全廃せよとは言っていない。
【消費税増税反対は重要な政策理念の対立】
これらの主張を見ると、三つの経済政策のうち、TPP加盟交渉参加と停止原発再起動に対する反対は、政策論争というよりも、多分に政争の具という印象を受ける。これに対して、消費増税に対する反対は、日本の将来を左右する重要な政策的対立点である。
野田政権は当初、持続可能な社会保障制度を作るための消費税率引き上げであり、社会保障と税の「一体改革」だとして今回の法案を国会に提出した。その中核は、09年の「マニフェスト」にあるように、最低保障年金を全額消費税で賄い、所得比例年金は保険料の積立方式によるという制度設計である。これで保険料未納者の生活保障問題を解決し、また現行の賦課方式による世代間の不公平と将来の破綻を避けようとしたのである。
ところが野田政権は、消費税増税法案を通したいために、「マニフェスト」の年金制度設計を放棄し、自公両党の社会保障法案を丸呑みした。年金制度は現行の賦課方式のままなので持続不可能であり、消費増税で際限なく手当てするほかはない。
野田首相が、消費増税を最優先し、持続不可能な年金制度のまま自公両党と妥協したのは無責任と言えよう。09年「マニフェスト」の年金設計に戻ろうという小沢新党の主張が国民に理解されれば、支持される筈である。
【小沢新党は新進党、自由党以来の政策主張に立ち帰れ】
小沢新党は、新進党、自由党以来の政策的主張に立ち帰るべきではないか。その政策哲学は、中央官僚の手から、民間と地方自治体に権限を移し、なるべく現場に近い所で、創意工夫の力を発揮させる成長戦略である。各種官営事業の民営化・国有遊休資産の売却・規制緩和等によって民間のビジネス・チャンスを広げ、また使途を特定しない補助金・交付金を拡大して地方自治体の創意工夫に委ね、中央政府をスリム化する構想である。要するに中央の予算コントロールを縮小し、国民生活に近い所に権限を移すのだ。
かつて小泉政権は、これに近い事を口では言ったが、実際にやったことは郵政民営化と使用者寄りの労働規制緩和だけであった。その成果は成長促進に結び付かず、郵政改革の混乱と国民の所得格差拡大を招いた。このため日本では、新自由主義に誤解が生まれたが、国民生活に近い所に権限と財源を再配分する政策は正しく、小沢新党は自信を持ってこれを再び掲げるべきである。
【『日本改造計画』の初心を忘れるな】
小沢一郎氏は『日本改造計画』『語る』を著した時の初心を忘れず、自由党の『日本再興へのシナリオ』を思い起こして欲しい。そこには、所得税と法人税の大型減税を中心とする短期集中的な景気対策で、国民と企業の期待成長率を高め、技術革新を伴うグリーン産業・シルバー産業の発展と、女性と高齢者の労働参加率引き上げで、成長路線を確立する政策思想があった筈だ。これ以上国債を増発すればギリシャのようになるという財務省の強迫に惑わされてはならない。国内が貯蓄超過で、自国通貨建の国債を出す日本は、ギリシャとは根本的に違う。