企業減税、個人増税を国民は納得しているか―夢と希望のある増税論を語れ― (H23.12.14)
―『世界日報』2011年12月14日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【融和より決断、慎重より果断が求められる局面】
 融和を重視し、慎重な運営を心掛けてきた野田政権が、融和よりも決断、慎重よりも果断な裁定を求められる局面を迎えた。経済に限って言えば、環太平洋経済連携協定(TPP)加盟交渉への参加、増税の内容と時期、停止原発の再稼働の三つである。このうちTPPについては、何とか加盟交渉の参加に漕ぎ着けた。

【TPP加盟交渉参加は今のところ好評】
日本の動きを見て、他の環太平洋諸国もTPPに関心を強めているようだ。遅れていた諸外国とのEPA(経済連携協定)を日本がネットワークの形でTPPという場に構築し、拡大することが出来れば、世界経済成長の5割の寄与率を持つアジアの新興国・途上国の内需を取り込む上で大きな成長戦略上の前進になる。
 加盟国、とくに米国との個別品目交渉を控えているのでまだ予断は許さないが、日本の国益のためになるTPPの締結を実現して欲しい。幸い国際世論も、いまのところ日本に味方しているように見える。11月14日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、「日本がとことんやり抜く政治的意志を持っていれば、TPPの最大の勝者は日本になるだろう」と前向きの評価だ。ある米国の当局者は、「鳩山政権を突き放し、菅政権を無視したが、野田政権とは真剣に関係を成功させたいと思っている」と述べたそうだ(11月13日付朝日新聞)。

【企業寄りの民主党税制改革案】
 次は増税問題だ。野田首相の下、民主党税調幹部のねばり強い党内調整と野党折衝によって、大体の方向が固まってきたように見える。その中身は、TPP問題と同じように、所得再分配よりも成長促進(経済効率)に重きがあるように見受けられる。これは意外と思う人がいるかも知れない。自民党政権であれば、財界寄りであるから、自由貿易と法人減税で経済発展を図るのは当然であろう。これに対して旧社会党や社民党のような革新勢力は、国内産業保護と所得税減税で所得再分配に重きを置くであろう。
 しかし、民主党はこの両者の中間に在って、自民党寄りの政策を採ろうとしている。国を開くTPP参加がそうであるが、増税問題も企業優先に見えるからである。

【法人は減税、個人は増税】
 まず法人税の実効税率(現行30%)は、当初の本年度税制改正案通り、平成23年度から25・5%へ引き下げられる。次に復興債償還のための増税として、平成24年度から3年間、法人税に付加税10%を課す。この結果、3年間の実効税率は28・05%に上昇するが、その後平成27年度からは25・5%へ戻る。昨年度までの30%から見れば、本年度から一貫して減税である。
これに対して個人所得税には、平成25年1月から25年間、復興債償還財源として付加税を課す。こちらは25年間一貫して増税である。また、これとは別に高齢化に伴う社会保障支出の拡大を賄うため、2010年代中頃までに(多分総選挙後の14年以降)、消費税率を段階的に10%へ引き上げる。
 この社会保障目的税としての消費税率引き上げは個人の負担となるが、復旧・復興のための増税も個人が担い、法人は経済発展のために減税される。日本がTPPに参加してグローバル化した世界経済に飛び込む以上、法人実効税率を諸外国並みに下げなければ競争にならないという考え方であろう。その背後には、相変わらず国内産業保護で国を閉ざし、構造改革を拒否し、経済と国民生活の停滞を続けるわけにはいかないという判断もあろう。

【国民は増税前の徹底した行財政改革を求めている】
だから法人減税・個人増税なのであるが、国民はこの辺りを了解しているであろうか。多くの国民は、医療・介護・年金・子育て支援の歳出増加を賄う目的税としての消費税率引き上げを理解しているが、その前にもっと徹底した行財政改革によって歳出の無駄を排除すべきだと考えている。国会議員の定数削減、公務員人件費カット、地方出先機関の統廃合、特別会計の整理などの懸案が宙に浮いていることを、国民は見逃していない。

【国民が納得する夢と希望のある増税論を語れ】
 もう一つ心配なことは、国民が将来に希望を持てるような増税論を野田政権が語っていないことだ。増税には、既に存在している財政赤字を埋めるための増税と、今後の支出増加を賄うための増税の二種類がある。前者の例は、現在ユーロ圏で行う予定の増税や、1997年度予算で執行した日本の7兆円増税である。これは経済の抑制、国民生活の切り下げを伴い、当面夢も希望もない。
 これに対して後者は、これから日本が行おうとしている東北大震災からの復興や新しい東北地方の建設と、高齢化に伴う福祉支出の拡大を賄う増税である。これは、将来の夢と希望を実現するための支出拡大の財源であり、増税は総て支出に使われるから経済と国民生活を押し下げない増税である。
 野田首相は、このような夢と希望のある増税論を国民に語りかけ、既にある赤字の縮小は行財政改革と、法人減税による成長促進がもたらす増収によって賄うという戦略を、国民に語るべきであろう。