安全停止原発の再稼働を実施せよ (H23.4.12)
―『世界日報』2011年4月12日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【低成長経路に迷い込んだ日本経済】
 不確実性とリスクに満ちた市場経済では、企業が先行きについて弱気の期待を持つと(期待成長率が下がると)、それに見合った投資と雇用しかしないので、期待が自己実現的となり、低い成長経路に陥ってしまう。
 1997年度の超緊縮予算とアジア金融危機によって、97年度はゼロ成長、98年度はマイナス成長となり、山一証券、拓銀などの大型金融倒産を含む戦後初の金融危機が発生した。この時、日本企業の先行き感は一斉に弱気となり、設備、雇用、債務の三つの過剰解消に努め、自らを低成長に適応した経営体質に変えた。その結果、企業収益率は回復したが、日本経済の潜在成長率は先進国中最低の1%台に低下し、デフレの中をさ迷った。

【東日本大震災からの復興を弱気を吹きとばす「ビッグ・プッシュ」に】
 弱気期待が生み出したこの「悪い均衡」(低い均衡成長経路)から「良い均衡」(高い均衡成長経路)へ戻るには、外的ショックにせよ、政府の政策にせよ、企業の期待を変える「ビッグ・プッシュ」が必要である。
 今回の東日本大震災は犠牲者、被災者にこの上ない不幸をもたらしたが、この悲劇からの復興を国づくりの転機とし、皆で力を合わせて、「弱気」を吹き飛ばせば「ビッグ・プッシュ」になるかも知れない。

【今夏に850万`hの電力が不足する予想】
 心配なのは、電力供給の制約が、盛り上がる復興需要の大きなネックとなることだ。東京電力が、節電を呼び掛け、また計画停電を実施したため、関東地方の経済活動に支障をきたしている。3月24日現在の東京電力の供給は3650万`hであるが、電力需要がピークに達する今夏までに供給能力を約1000万`h増やし、約4650万`hに高める予定だという。しかし、今夏の電力需要のピークは5500万`hと予想されるため、ピーク時には850万`hの不足が見込まれている。このため、今夏には現在以上に大幅な計画停電が実施される恐れがあるという。
 これが本当なら、折角の復興需要が高まってきても、電力の供給制約によって、GDPは復興需要ほどには高まらない。

【安全停止中の原発9基の出力合計958.4万`hは推定不足電力を上回る】
 今夏までの1000万`hの電力供給力の増強計画は、総て火力発電所によるものである。東日本大震災後、東京電力の原子力発電所のうち、4基が運転中、13基が運転を休止しているが、運転休止の13基のうち被災して制御不能に陥っている福島第1原発の1〜3号機や、損傷で一時出火した4号機は、最も古い型の出力の小さい原子力発電装置であり、これらの4基の運転再開は考えられず、廃炉となるであろう。残りの9基は、比較的新型で発電容量の大きい福島第一原発の5、6号機、福島第二原発の1〜4号機、柏崎刈羽原発の2〜4号機で、震災発生時に定期検査で運転停止中であったり、震災発生に伴い自動停止したため、現在は冷温停止中で水位は制御され、冷却材の漏洩はなく、圧力制御室の平均水温は100度未満を維持している。これらの発電設備は、地震に対応する安全停止装置が予定通り機能し、また津波をかぶることはなかったからだ。
 この9基の出力合計は、958・4万`hで、今夏のピーク時の推定不足電力850万`hを上回っている。

【国民の反原発感情はもっともだが・・・】
 福島第1原発の1〜4号機が制御不能に陥り、国民に大きな損害や不安を与えていることを考えると、原子力発電設備の再稼働を口にするのは不謹慎の誹りを免れないかもしれない。しかし日本の将来を考えた時、使える原子力発電能力を使わず、復興需要を賄えず、経済活動の停滞が長く続くことを放置しておいてよいものであろうか。

【東北電力は安全停止した原子力発電機を夏迄に再稼働させる】
 東京電力の隣りの東北電力は、女川原発に3基、東通原発に1基を持ち、全号基とも、東京電力の残存9基と同じ理由(安全維持機能が想定通り作動、津波被害の防止に成功)により、安定した状態で運転停止中であるが、東北電力は今回の津波の経験を活かした追加安全対策(@非常時の電源確保のため発電所構内に電源車を常時配備、A海水くみ上げポンプの故障に備え予備部品を用意、B備え付け消防車を利用した使用済み核燃料プールへの注水ルートの確保、など)を講じた上で夏の電力需要ピーク時に発電を再開することを目指している。

【政治は原発反対ムードに流されず勇気ある決断を】
 東北電力にやれることがどうして東京電力には出来ないのであろうか。ここは冷静に考え、東北電力の女川・東通原発と同じように、今回の震災、特に津波の影響を十二分に学んだ新しい対策を講じた上で、安全停止中の9基を今夏の電力需要のピーク時に間に合うように運転再開すべきではないか。
 これは東京電力の一存では出来ない。政府(政治)の勇気ある決断が必要だ。感情的な原発反対ムードに流されず、「既存の原子力発電設備はマグニチュード9の大地震にはほぼ耐えたが、10メートルを超す津波に無防備であった」ことを反省し、津波対策を中心に新しい対策を追加し、信念を持って原発再開の理解を国民から得る努力をするべきだ。