民主2議連は間違っている (H22.10.13)
―『世界日報』2010年10月13日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【民主2議連は視野狭窄、近視眼的発想】
 現在民主党内には、若い国会議員を中心に、デフレ脱却の議員連盟と財政再建の議員連盟が活動している。前者は日銀法を改正し、日銀にインフレ・ターゲットを義務付け、未達成の時には総裁を罷免すべきだという議論まで出ているようだ。後者は消費税率引き上げを含む財政再建の計画を決め、今から実行すべきだという議論をしているらしい。
 デフレ脱却も財政再建も、中期的には大切な政策目標である。しかし、短兵急な超金融緩和や財政再建策は、将来の資産インフレの原因を作り、また投資を抑制して、日本経済の効率悪化を招き、成長のポテンシャルを下げ、デフレと財政赤字を逆に拡大再生産することにもなり兼ねない。

【「小泉政権」型のポリシー・ミックスに逆戻り】
 いますぐデフレ脱却と財政赤字縮小に踏み出そうという二つの議員連盟の考え方を合わせると、「財政緊縮・金融超緩和」のポリシー・ミックスになる。その効果は、金融超緩和による円安と、緊縮財政に伴う内需停滞が生み出す輸出圧力によって、輸出主導型成長となる。これは小泉政権が採ったポリシー・ミックスと同じである。その結果、2002〜07年度の戦後最長景気となり、7年間に輸出は76.0%増加して実質GDPを12.1%成長させた(寄与率65.5%)。しかし、名目雇用者報酬は、この7年間に逆に1.8%低下し、バブル景気のピークを上回った企業の売上高経常利益率との間に大きな格差が生じた。
 「国民の生活が第一」というスローガンでこの格差を批判したからこそ、民主党は政権交代ができたのではないのか。その民主党が、小泉政権のポリシー・ミックスに戻ろうとするのか。

【米欧と競って通貨切り下げ競争をする気か】
 財政再建最優先に転じたEUと米国が現在採っているポリシー・ミックスもこの型だ。その結果、ユーロ安とドル安が生じ、その反映で円高となっている。円高を反転させる市場介入は、米欧と協調しなければ効果はないが、この円高は輸出主導型回復という米欧の経済戦略の結果であり、彼らに好ましいことであるから、協調する筈がない。
 ここで日本が同じ型のポリシー・ミックスを採れば、世界大恐慌時と同じ主要国間の通貨切り下げ競争になり、どこの国の通貨も切り下がらず、輸出も伸びず、内需停滞だけが残って世界同時不況となろう。民主議連はそれが分かっているのか。

【円高は日本に有利】
 急激な円高は、断固市場介入で阻止すべきであるが、協調介入なしの一国介入では、その効果は一時的である。しかし、その結果残る円高トレンドは、日本にとって有利である。
 円高の下では海外の優良企業や資源をM&Aで買収し易くなる。工場の海外移転のコストも下がる。その結果海外からの所得純受取が増え、実質国民総所得(GNI)が増える。国民の購買力も高まる。交易条件は好転し、実質国内総所得(GDI)が増える。

【「短観」には円高の悪影響は出ていない】
 9月29日(水)に公表された9月調査「日銀短観」によると、「業況判断」DIが6期(1年半)連続で改善したが、先行きの予想がほぼ6月調査の水準に逆戻りする悪化となった。この先行き悪化の原因について、円高の影響と政策息切れ懸念によるものとマスメディアでは報じられている。
 しかし、「短観」の内容を詳細にみていくと、政策息切れ懸念の影響は明白に認められるものの、円高の悪影響がでているという確証は見当たらないように思われる。大企業製造業の年度下期の売上計画は、国内向けが前年比プラス0.6%(6月調査比マイナス0.1%下振れ)、輸出が同プラス9.0%(同プラス1.9%上振れ)となっており、自動車を中心とする政策効果息切れの影響が内需に見られるものの、円高による輸出停滞の気配はみられない。
 収益動向をみても、年度下期の大企業製造業の経常利益は、素材業種で前年比プラス4.71%の増益(6月調査比マイナス3.4%下振れ)、加工業種が同プラス1.4%の増益(同プラス2.0%上振れ)となっている。一般に素材業種は原材料輸入で円高メリットを受け易く、加工業種が製品輸出で円高デメリットを受け易い。下期の収益予想が前者で下振れし、後者で上振れしているということは、この3カ月間の円高の影響は認められず、それ以外の原因によるものと見られる。

【民主党は2議連に惑わされず新成長戦略に沿った財政政策を推進せよ】
 これからは、製造業の比重が新興国・途上国で上がり、先進国では下がるであろう。日本の製造業は円高を利して、積極的に海外にシフトすべきである。これによって雇用の空洞化が生じないように、民主党は情報通信、電力、エネルギー、環境、教育、医療、介護、育児などの新成長戦略産業への民間参入を、規制緩和で大いに促進すべきである。日本銀行のこれら分野への低利リファイナンスは時宜を得た新政策だ。民主党はデフレ脱却の責任を全部日銀に押し付け、自らは財政緊縮路線に戻るような議連の声に惑わされず、本年度補正予算と来年度予算で、この分野への財政支出を惜しむべきではない。