平成22年度第2回昼食勉強会の新聞報道 (『世界日報』2010年4月23日号、小見出し加筆)

【菅野JPモルガンチーフエコノミスト:FRBの利上げは来年第2四半期】
 JPモルガン証券チーフエコノミストの菅野雅明氏を招いて、定例の鈴木政経フォーラム(鈴木淑夫代表)主催の討論形式での講演会が22日正午、東京・神田の学士会館で行われた。菅野氏は焦点の米国経済の動向について、@リーマン・ショック以後の家計や金融機関のバランスシート調整A需給ギャップの存在によるディスインフレB銀行貸し出しが緩やか−などの問題点はあるものの、製造業が景気回復のけん引役となっており、事前の予想より景気回復は早く進んでいることを強調した。
 ただ、景気回復の波がサービス業を中心に非製造業にまで及んでいないことや、職探しから雇用に至るまでのタイムラグがあることから失業率が高止まりする可能性があるとして、年内には失業率が十分に低下しない公算が大きいと指摘。加えて、ディスインフレが続くことから、連邦準備制度理事会(FRB)による“出口戦略”の開始(フェデラルファンドレート=FF金利=の引き上げ)は、来年の4−6月期まで先送りされるとの見方を示した。

【鈴木政経フォーラム鈴木代表:年度後半は雇用増で景気回復維持】
 一方、わが国では景気対策の息切れから今年度後半の景気の行方が懸念されている。これに対して鈴木氏は、3月調査の日銀短観で、@今年度上期の企業業績の予想は増収増益に転じ、利益率の水準も前回景気回復初年度の2002年度をやや上回る予想となっているA雇用は遅くとも6月末に増加に転じる可能性が高い−ことが示されていることなどから、年度後半には雇用の増加、賃金・ボーナスの増加などで、エコポイント制度といった景気刺激策の効果のはく落を十分に補うことができると展望。このため、国債増発による追加景気対策を打たなくても景気回復傾向は維持できると指摘した。これに関して菅野氏は、@高齢化社会突入で家計部門の貯蓄率は14年度までにゼロになる公算が大きいA社会保障費の増加で政府部門の赤字が国内民間部門の貯蓄を上回る事態が5年以内に来る−として、財政出動の限界を指摘した。
 一方、企業の設備投資について菅野氏は、対名目国内総生産比(GDP)で下げ止まっているものの、企業の期待成長率低下などで減価償却を下回る水準まで減少しているとし、陳腐化した資本設備の最新鋭化など新規設備投資による供給サイドの改善が必要だと力説、投資拡大のための政策的テコ入れの必要性を示唆した。

【両氏:民主党「デフレ脱却議員連盟」を批判】
 日本のデフレ問題について鈴木氏はまず、企業の売上高経常利益率が改善していることなどから現状、日本経済はデフレスパイラルの縮小不均衡に陥る懸念はないと指摘。そのうえで、デフレの原因として、@労働賃金の低下Aマクロ的な需給ギャップB内外価格差縮小−の3点を挙げたうえで、日銀(の金融緩和政策)に責任を押しつけるのは筋違いと語った。また、日本企業が海外に進出すること(直接投資の増加)は、実質国内総生産に海外直接投資などに伴う所得収支の黒字、交易利得を加えた実質国民総所得(GNI)の増加を経済成長戦略の最重要目標と考えるならば、日本経済にとってプラスと述べた。
 このほか、民主党内の一部の議員が「デフレ脱却議員連盟」(会長・松原仁衆院議員)を組織し、日銀に対して「デフレは貨幣的現象」との見方を前提に、過度な量的金融緩和政策や1ドル=120円水準への円の押し下げ介入、金融政策による雇用拡大などを求めていることに対して菅野氏は、@円安政策は「近隣窮乏化政策に他ならず、日本は先進国の看板を下ろさなければならなくなる」A財政法5条で禁じられている国債の日銀引き受けにつながってハイパーインフレーションを引き起こす−などと批判。鈴木氏も竹中平蔵元金融相の下で暗躍した高橋洋一氏らが推進しており、「暴論」と一蹴した。