2010年度当初予算の評価とこれからの課題 (H22.4.8)
―『世界日報』2010年4月8日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【10年度当初予算の実勢は歳出・国債とも09年度第1次補正後予算より小さい】
 鳩山内閣発足後、初の大仕事であった2010年度度予算が、3月24日水曜日に参議院を通過し、成立した。戦後65年間で5番目の早さである。
 多くのマスコミは歳出規模92兆円、国債発行額44兆円の予算を、「戦後最大規模の歳出と国債発行のバラマキ予算」と呼んでいるが、そうであろうか。自民党の麻生政権が昨年組んだ第1次補正後の09年度予算は、歳出規模が102.4兆円と10年度当初予算を10.2兆円上回っている。他方、国債発行額は44.1兆円と10年度当初予算にほぼ等しいが、実は租税収入が予算上の46.1兆円を大きく下回って36.9兆円と予想されているので、国債発行額の実勢は、税収不足を加えた53.3兆円に達している。
 このように鳩山内閣の10年度当初予算は、歳出規模も国債発行額も前政権の第1次補正後予算より10兆円程小さいのである。

【09年度第2次補正予算と10年度当初予算から成る15か月予算が10年度経済にインパクトを与える】
 ではこの予算は、10兆円程のデフレ効果を持った予算であろうか。そうではない。鳩山内閣は、09年度の第2次補正予算を本年1月末に成立させたからである。この第2次補正予算と今回の10年度当初予算が10年度経済にインパクトを与えるのであるから、この合計を鳩山内閣の15カ月予算と考えると、歳出規模は99.6兆円となり、09年度第1次補正後予算の102.4兆円にほぼ匹敵する(正確には2.8兆円減)。
 他方、15カ月予算の国債発行額は53.6兆円となるが、これは第2.次補正予算で前政権の09年度第1次補正後予算の租税収入不足9.2兆円を穴埋めするため、9.3兆円の国債発行を追加したからである。これは前政権の責に帰すべきなので、15カ月予算の国債発行額の実勢は、53.6兆円から9.2兆円を差し引いた44.4兆円であり、前政権の09年度第1次補正後予算の国債発行の実勢が53.3兆円なのである。

【15か月予算の拡張効果は自公政権予算の組み替えから生まれる】
 このように15カ月予算で国債発行額が8.9兆円ほど縮小したにも拘らず、歳出規模は2.8兆円の縮小にとどまっているのは、事業仕分けなどによって、第2次補正予算の中で09年度第1次補正後予算から7.8兆円の歳出を削減し、また10年度予算では埋蔵金の取り崩しなどで10.6兆円の税外収入を確保したからである。
 従って、09年度第1次補正後予算と15カ月予算の財政赤字の実勢は、ほぼ等しい。つまり、10年度当初予算を中心とする15カ月予算は、前年度第1次補正後予算に比べて、規模に由来する景気へのインパクトは、ほぼ「中立的」で、経済に対する拡張効果は、中身の違い(予算組替え)から生じる。鳩山予算は、09年度第2次補正予算で無駄な歳出をカットし、10年度当初予算で埋蔵金を取り崩し、次の歳出に回した。
 まず4月から高校授業料無償化・就学支援、自動車重量税減税、雇用保険の適用拡大、住宅用太陽光発電や電気自動車などへの補助金支給、6月から子供手当支給、高速道無料化実験、12月から農業の戸別所得補償金支給などである。これらが現在のエコポイント制度やエコカー減税などによる消費性向上昇を伴う消費回復を持続させることとなろう。

【次の11年度予算には成長戦略を組み込め】
 今回の予算に企業に対する配慮があまり見られないのは、まず国民生活から内需を立て直したいからであろう。政権発足後取り敢えず3カ月で編成し、6カ月で成立させた単年度予算としてはこれでよいが、これから9月までの半年間は、企業に対する配慮を含め、じっくりと成長戦略を練り、それに基づく政策を決める時期である。その成果を、11年度以降の予算に組み込まなければならない。
 これまで民主党や政府の要人が述べてきたことを整理してみると、民主党の成長戦略は3本の柱から成っているように見える。
 @は国民のライフステージごとの機会均等と安全ネットの確保である。これは既に10年度予算で着手されている。Aは低炭素社会の実現計画、Bはアジアの内需を取り込む計画である。「温暖化ガス削減への行程表」「電気自動車普及計画」「太陽光発電普及計画」「原発増設計画」「スマートグリッドの建設支援」「原発・鉄道・水道などのインフラ輸出官民一体計画」などAとBに沿った多くの計画が現在政府内で検討されている。

【法人税改正も成長戦略の枠内で】
 法人税の改正も、成長戦略の枠内で考えるべきである。まず歴史的役割を終え、効果も疑わしい租税特別措置の廃止で課税ベースを拡げることだ。また7年間に限定されている損金算入期間を米国(20年)欧州(無期限)を参考に延長し、初期投資額の大きい前述の先端技術投資やインフラ関連投資、景気変動リスクにとらわれない長期的視野の投資などの促進を図るべきであろう。その際、過度の税収落ち込みを防ぐため、ドイツのように損金算入を利益の一定割合(ドイツは6割)に制限し、税収の平準化を図る配慮を忘れてはならない。