本年の米国経済のオバマ大統領の金融規制案 (『世界日報』2010年1月28日号、小見出し加筆)
―鈴木政経フォーラムで行天財務省特別顧問(H22.1.28)
【本年の米国経済の回復は緩やかだが二番底はない】
鈴木政経フォーラム(鈴木淑夫代表)は東京・神田の学士会館で27日、国際通貨研究所理事長で財務省特別顧問の行天豊雄氏をゲストに迎え、鈴木氏との討論の形で講演を行った。同氏はその中で、今年の世界経済は緩やかな回復傾向をたどり、特に注目されている米国経済についてもV字型の急激な回復は期待できないものの、二番底に陥ることはないとの見方を披露した。
行天氏はその理由としてまず、米国の財務省や連邦準備制度理事会(FRB)の大手金融機関を中心とした公的資金注入策や量的金融緩和政策など一連のシステミックリスク防止策が功を奏し、金融市場に対する信認が回復してきたことを挙げた。また、実体経済面についても、オバマ政権の総額7870億ドルの景気対策の7割は今年執行され、その景気浮揚効果が期待されることに加え、ミクロの経済面でも企業部門は大胆なリストラ策や在庫調整の一巡により、相対的には改善しつつあると指摘。
その一方で、企業部門が大胆なリストラを行っていることで、雇用情勢が悪化。これが、これまで米国の経済成長の原動力になってきた家計部門の個人消費の下押し圧力となっているとして、同国の今年の景気回復は緩やかなものに止まると展望した。
【米国の過剰消費による経済成長モデルは終焉】
ただ、リーマン・ショック以後の米国経済が抱える構造的な課題として、@(個人消費が国内総生産=GDP=の7割を占めるという)借金による家計の過剰消費による経済成長モデルは既に終焉しており、今後しばらく経済は低空飛行を続けざるを得ないA(資本市場も含めた)広い意味での金融市場ないし金融資本主義は壁にぶち当たっており、金融市場の自由と公正と秩序を維持しながら、これまで金融の根幹であるトラスト(信用)を隠して商売(取引)を行ってきたために生じた貪欲と不透明を排除できるか否かB国際基軸通貨としてのドルの役割に疑問が生じており、基軸通貨としてのドルへの国際的な信認を回復させることができるかどうか−などがあると指摘。
【オバマ大統領の金融改革案に理解】
このうち金融システムの改革に関しては、自己資本の充実や金融派生商品を含む金融商品の透明性の確保、リスクテイクの透明化などが必要だと提言。これに関連して、オバマ大統領がボルカー元連邦準備制度理事会(FRB)議長の提案をもとに発表した金融規制案について、「かつてのグラス・スティーガル法のように金融と証券の分離を意図したものではなく、(預金と決済を担当する公共財としての金融と資本主義の発展に欠かせないリスクテーカーとしての機能を分けて、金融のシステミックリスクを未然に防止するための)米国の真剣な自己矯正の努力の表れ」と評価、今後の動向を注視する必要性を指摘した。
【日本の政策課題】
また、米国の過剰消費体質を背景とした国際的な不均衡が是正される過程で、日本はEU圏内での貿易取引・交互直接投資があるドイツなどとは異なり、輸出依存型の経済構造を内需主導型に転換することは容易ではなく、大きな痛みを伴うと警告し、政府に対して痛みを解消するための経済政策を立案することを暗に求めた。
これに関連して鈴木氏は、「日本はアジア諸国との貿易と直接投資を拡大し、アジア諸国の内需を取り込んで、アジアとともに発展する」新たな経済システムを構築。そのうえで、今後の経済の最終目標として「国内生産と(海外投資の果実として得られる)所得収支の黒字、交易利得を合わせた実質国民総所得(GNI)の増加」にすべきだと改めて提言した。