直接投資と貿易でアジア諸国の経済拡大に協力を (H21.12.19)
―『世界日報』2009年12月19日号(小見出し加筆)
【鈴木淑夫氏、日本工業倶楽部で講演】
鈴木政経フォーラム代表の鈴木淑夫氏(元衆院議員、元日銀理事)は18日、日本工業倶楽部(理事長・今井敬新日本製鐵株式会社名誉会長)主催の「産業講演会」に登壇し、来年の国内外の経済見通しについて語った。
【米欧に二番底の懸念】
講演の中で鈴木氏は、日米欧の景気が来年、二番底に陥るとの懸念が強まっていることに関して言及。米欧では、@昨年のサブ・プライムローン問題に端を発した国際金融危機の影響で、住宅価格急落と証券化商品の値下がりや不良債権の増加を背景に、家計と金融機関でバランスシート調整圧力が続いているA財政赤字の膨張から大型の財政追加発動はできないうえ、超金融緩和も長期化すれば資源・資産バブルを引き起こす−ことなどから、その可能性は否定できないと指摘。
【アジアと欧米のデカップリングは日本のチャンス】
しかし、わが国については、欧米諸国と同様に大規模な財政出動は困難としながらも1990年代央以降、BRICsを中心とした新興諸国、特に中国、インドなどアジア諸国が中産階級の育成と内需振興に力を入れていることを背景に、先進諸国とアジア諸国のデカップリングが実現しつつあることに注意を喚起。そのうえで、@景気に配慮した予算を編成することA円高を好機と捉え、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)の締結促進などによって国内市場を開放するとともに、アジア諸国に対する輸出と直接投資を政策的に支援することで、アジアの域内経済が相互連関的に自律発展できるようにして、アジア規模の内需拡大に取り組む−ことなどによって、二番底に陥ることを防ぐことができると述べた。
【現政権の予算は「中立」財政】
そのうえで現政権が、@執行ベースでは、麻生太郎前政権のツケである税収不足を補うため特別会計、公益法人の剰余金の取り崩しを行うことで、少なくとも景気に対しては「中立」的な予算を編成するとともに、国債発行額を約44兆円規模とし、前政権より抑制することで、長期金利上昇のリスクを回避しようとしているA輸出大企業に有利で、家計には不利に働いた小泉純一郎政権以降の財政超緊縮・金融超緩和路線を修正した「中立型予算」に景気刺激効果を与えるため、財政資金を直接、家計や地方自治体、地域経済、中小企業、雇用促進に回し、内需を立て直すことを目指しているB直嶋政行経産相が表明しているように、アジア諸国の経済拡大を政策的に支援する意向を見せている−ことなどを評価した。
【実質GDPではなく実質GDIを戦略目標に】
なお、鈴木氏は今後の日本経済の戦略目標として、実質国内総生産と交易利得(円高メリット)、所得収支(対外直接投資による利益の純受取)を合計した実質国民総所得(GNI)を増やすことを戦略目標とすべきことを強調した。