不協和音が高まる鳩山政権 (H21.12.9)
―『世界日報』2009年12月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【鳩山内閣の三つのアキレス腱】
 鳩山内閣が発足してやがて3カ月になろうとしているが、世論調査では内閣の支持率はやや下がったものの、多くは60%台を維持している。民主党の支持率は、若干上昇していることもある。まずまずである。
 しかし、この政権には発足当初から三つのアキレス腱があると思う。鳩山首相の偽装献金問題、普天間基地の移設を始めとする対米関係、存在感を示したがる少数与党、社民・国民新の奏でる不協和音である。臨時国会中は与党間の結束と野党自民党の稚拙な攻撃のお陰で事なきを得たが、国会閉会後はにわかに社民・国民新両党の不協和音が高まり、鳩山政権は正念場を迎えているように見える。
 普天間基地の県外・国外移設を主張して連立離脱をほのめかす社民と、それに乗って早期解決に反対する国民新に押されて、鳩山首相は辺野古以外の候補地を検討するよう、岡田外相と北沢防衛相に指示した。

【米国は日本の変化を理解できるか】
 しかし、県外・国外に候補地が簡単に見つかる筈もないし、来年6月の参議院選挙までは連立を崩すことは出来ないので、結局決着は、参議院選挙後に延びるのではないか。
 米国が苛立つことは間違いない。しかし、米国は@解決を急いで鳩山政権を連立解消に追い込み、国会運営を窮地に立たせ、国民の評判が下がり、参院選で民主党が多数を取れない場合と、A連立維持を優先せざるを得ない民主党の立場を理解し、参議院で民主党が勝利して単独政権が出来るまで忍耐強く待つ場合と、どちらが有利か、冷静に判断することは出来ないのであろうか。@の場合は衆参のネジレ国会が続き、社民の意向に引きずられて日米関係は、4年間ぎくしゃくする。Aの場合は衆参で多数を握る民主党を相手に、新時代の日米関係を築くことが出来る。
 米国側には、日本は外圧を加えなければ動かない国、政策の透明度の低い国という思いがあろうが、それは半世紀も続いてシガラミで動きのとれなかった自民党政権時代のことで、鳩山政権では外圧や秘密交渉はかえって政権内部の反発を招くことを理解して欲しい。

【予算編成を巡る不協和音】
 少数与党の不協和音は、本年度の第2次補正予算の編成でも表面化している。事業規模24.3兆円、予算規模7.1兆円(真水4兆円)の予算案に対して、国民新党は地方支援の交付金0.9兆円を上積みして予算規模を8兆円にしなければ認めないと主張し、5日の閣議決定が8日以降に延びた。
 この補正予算が実際に経済に効いてくるのは来年の3〜6月頃であり、参院選の直前である。雇用、環境、景気、生活の安心確保、地方支援の諸対策に7.1兆円を支出して、内需を下支えする政策であり、そのうち地方支援を3.4兆円から4.3兆円に積み上げてみても、大勢に変わりはないであろう。原案のままでも、効果は期待できると思う。
 もっと大切な事は、年末に決まる来年度の当初予算の編成である。95兆円の概算要求と44兆円の国債発行は、当初予算としては過去最大であり、放漫財政だと批判する人が居る。しかし他方には、自民党政権の本年度第1次補正後予算は、一般会計歳出が99.5兆円(102.4兆円のうち2.9兆円を民主党が整査して削減)、税収の落ち込みで国債発行は52兆円超となるので、これに比べて民主党の来年度当初予算は歳出も国債発行も縮小する緊縮型となり、デフレ克服どころか、デフレを促進してしまうと批判する人も居る。
 どちらが本当であろうか。

【緊縮型でも放漫型でもない健全型予算】
 鳩山政権の本年度第2次補正予算は、年度末に成立し、執行の大半は来年度にずれ込むので、これを来年度当初予算に合算して考えると、歳出は95兆円プラス7兆円で102兆円となり、自公政権の第1次補正後予算の99.5兆円を上回る。また藤井財務相が私の昼食勉強会で述べたところによると(本紙12月3日号参照)、国債発行を44兆円以下に抑えるため、特別会計や公益法人の積立金を取り崩すなどの税外収入で10兆円程度を確保すると言う。これは、国債発行は増やさないが、税外収入で賄う財政赤字が10兆円あるということで、財政赤字総額は自公政権の本年度第1次補正後予算と同程度の50兆円超になることを意味する。
 従って、鳩山政権の予算編成方針は、ほぼ前年度並みの歳出規模と財政赤字を持つ中立型であって、緊縮型でも放漫型でもない。藤井大臣の言葉を借りれば、景気と財政再建を両にらみにした健全型である。

【景気刺激効果の高い予算を】
 しかし、本年4〜6月期、7〜9月期のプラス成長の基調を維持し、来年の二番底を避け、回復を定着させるためには、単なる中立型、健全型財政では不充分である。これでは景気刺激の責任が金融政策に寄り、自公政権の二の舞になる。徹底した整査で歳出の無駄を排除し、国民生活と地方経済を直接支援する予算に組み替えることにより、同じ歳出規模でも経済効率、景気刺激効果が高い予算にすることに、もう一段の努力が望まれる。