民・自両党の総選挙の教訓 (H21.9.7)
―『世界日報』2009年9月7日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【多くの国民は政権交代を待ち望んでいた】
8月30日の総選挙の結果、民主党が衆議院480議席のうち308議席を得て圧勝し、自民党は僅か119議席に転落した。昭和30年に自民党が結成されて以来、細川・羽田内閣のごく短い期間を除けば、半世紀以上にわたって常に自民党政権が続いてきたが、遂にその万年与党の自民党が下野する。代わって野党第1党であった民主党が、同じく野党であった社民党、国民新党と連立して9月16日には政権の座に就く。
選挙直後の朝日新聞の世論調査によると、民主党を中心に政権交代が起きることは「よかった」という人が69%、民主党中心の新政権に「期待する」という人が74%に達しており、多くの国民がこの政権交代を待ち望んでいたことが分かる。
【国民は民主党の政策を必ずしも支持していない】
ところが、驚いたことに、このような政権交代をもたらした民主党の大勝は、「国民が政権交代を望んだことが大きな理由」(回答の81%)であって、国民が民主党の政策を支持したからだとは「思わない」人が52%と過半に達し、「思う」人の38%を上回っている。実際、民主党の目玉政策である「子供手当」に対しては賛成31%、反対49%、「高速道路料金の段階的無料化」については、賛成20%、反対65%である。
【選挙結果の本質は与党自民党のパージ】
このことは、自民党と民主党の双方に対して、極めて大切な事を語りかけている。
国民の多数が、民主党の政策には必ずしも賛成ではないのに、政権交代を望んだということは、国民が政権与党の座から自民党を追放(パージ)したいと考えたからである。自民党と民主党の政策を比較して民主党を選んだのではなく、それ以前の問題として自民党を罰したのである。
【過去の「実績」を隠し将来の「政策」で争おうとした自民党】
何故であろうか。政権交代がごく普通に起きる議会制民主主義の国では、通常、総選挙に際して与党はこれまでの政権の「実績」を訴え、若干の修正を加えてそれを続けたいと主張する。これに対して野党は、政権の実績を批判し、新しいビジョンと政策で国の路線を転換したいと訴える。要するに与党は過去の「実績」で戦い、野党は未来の「政策」で戦うのである。
ところが自民党の麻生総裁は、選挙期間を通じて、「政策」の選択をしてくれと国民に呼び掛けていた。これは、与党の武器である筈の過去の「実績」を隠して、野党と一緒に未来の「政策」で争おうとしたのである。それも、民主党の政策を徹底的に批判するネガティブ・キャンペーンの形をとった。
【国民は自民党政権の過去の「実績」を罰した】
しかし、国民が自民党を罰したのは、過去の「実績」の故である。このすれ違いが、自民党の大敗を招いた。戦後最長景気の最終年、07年になっても、勤労者の所得水準は01年以前に戻っていない。08年以降は世界同時不況に翻弄されて失業と賃下げの恐怖におびえている。国民生活は益々悪化しているのに、自民党の首相は一年毎に3回ころころ変わる。このような「実績」に国民が怒っている時に、自民党の麻生総裁は自民党の方が「政策力」や「責任力」があると訴え続けた。国民の目から見れば、これはもう「ブラック・ヒューモア」である。
民主党はこの国民の不満を受け止め、「国民の生活が第一」をスローガンに政権交代を訴えた。民主党の圧勝は「敵失」による大量得点のようなものである。
【民主党は100日間で政権の安定感を示せ】
では、民主党にとっての教訓は何か。国民は自民党を罰するために民主党に投票したのであって、民主党の政策を全面的に支持したのではない。包括委任を受けたような気を起しては終わりである。
マニフェストに書いた個々の政策のうち、政権発足後の100日間にできる政策の工程表を作り、その通り実現して見せることによって、民主党政権は必ず何かをやるのだという安定感を、国民に示すことが大切である。100日間であるから金を掛けないでできること、例えば既に計画している09年度補正予算の組み替え、10年度予算の枠組み作り、新しい政治主導の行政組織の立ち上げ、国民が安心し期待できるような人事などがある。また、外交上の成果を挙げることも望ましい。
【日本経済の発展を約束する中期計画を打ち出せ】
その上で、来年以降、与党として誇れる4年間の「実績」を積み重ねることだ。その場合、マニフェストに示した細かい政策を律儀に実現しようとするよりも、国民生活の窮乏を救う骨太の計画をマニフェストの政策からいくつか作り、それを実現した方が分かりやすい。@出産、育児、教育、雇用、年金、医療、介護など人生のライフステージ毎に機会均等と安全ネットを完備する計画、Aクリーンな代替エネルギーの開発と普及、エネルギー効率の向上と低炭素化設備の促進など温暖化対策と新産業育成の計画、B新興国・途上国の産業化と環境エネルギー投資を支援して内需主導型成長を後押しする計画、などは国民を窮乏から救い、新しい日本経済の発展を約束する中期計画として、分かりやすい。