最悪期を脱した日本の景気 (H21.7.8)
―家計消費と設備投資の回復を―『世界日報』2009年7月8日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【大幅なマイナス成長を引き起こした「純輸出」の減少は4〜6月期から増加に転じる】
 日本の景気は、最悪期を脱したようである。
 本年2月に前年比マイナス49・4%とほぼ半分にまで落ち込んだ輸出は、3月から減少幅を縮小し始め、5月現在、前年比マイナス40・9%となった。これを季節調整してみると、輸出は5月までの3カ月間に5・3%増加した。輸入の方は、日本の大幅なマイナス成長を反映して、前年比減少幅は依然として拡大したままなので、一時赤字に転落していた貿易収支は輸出の増加で再び黒字に戻り、その幅を拡げている。
 実質成長率に関係してくる季節調整済み実質貿易収支の黒字額を日本銀行の推計によって見ると、2005年平均を100とした指数で、本年1〜3月期に23・7まで縮小したが、5月には108・2まで回復している。昨年10〜12月期と本年1〜3月期の大幅なマイナス成長(それぞれ年率マイナス13・5%とマイナス14・2%)の主因であった「純輸出」の減少は、4〜6月期から増加に転じるであろう。

【4〜6月期はプラス成長の蓋然性が高い】
 輸出の減少に伴って急落した鉱工業生産も、2月の前月比マイナス38・4%を底に上昇に転じ、前年比減少幅は縮小して5月はマイナス29・5%となった。6月と7月の生産予測指数も上昇を続け、7月の前年比はマイナス22・8%まで縮まる見込みである。
 輸出を通じて日本経済に伝わった世界同時不況の衝撃が、このように和らいできたため、4四半期続いた戦後最長・最深のマイナス成長はひとまず終わり、4〜6月期はプラス成長に転じた可能性が高い。前述のように、実質成長率に対し、「純輸出」がマイナスの寄与からプラスの寄与に転じたのが一因だ。また、輸出の急激な落ち込みによって発生した過剰在庫を減らすため、前年比4割近い生産抑制を行ってきたため、さすがに在庫減らしは進捗し、在庫投資のマイナス幅が縮小し始めて成長に対してプラスの寄与に変わってくる。更に、平成20年度第1次、第2次補正予算の執行と、本年度予算の前倒し執行により、公共工事の請負額が3月と4月に前年比2桁のパーセンテージで伸びている。GDPベースの公共投資も4〜6月期からかなり伸びると見られる。
 7月1日に発表された6月調査の「日銀短観」でも、「業況判断」DIの「悪い」超幅が3月調査に比して縮小し、先行きも更に縮小する形となっている。企業も日本経済が最悪期を脱したと感じているようだ。

【これで不況が終わる訳ではない】
 しかし、これで不況が終わり、経済が回復軌道に乗ってくると判断するのは、早計であろう。輸出が回復し始めたと言っても、季節調整済みの実質で2月のボトムから13・6%増えたに過ぎず、昨年1月のピークから2月までの落ち込み幅の2割を回復しただけである。また生産が回復したと言っても、季節調整指数で見て本年2月のボトムから6月の予測指数までの上昇幅は18・6%に過ぎず、07年10月のピークから2月のボトムまでの落ち込み幅の3割程度を戻したに過ぎない。
 輸出と生産の回復は国内外の在庫調整に伴う急激な落ち込みが、調整の進捗でリバウンドしただけで、世界同時不況による最終需要の落ち込みが底を打った訳ではない。
 4〜6月期のプラス成長の蓋然性を支えている三つの要因も、力強さを欠いている。在庫投資の減少幅縮小と増加への転換は、在庫水準が正常化するまでの一過性の動きに過ぎず、正常化後はプラス成長に対する寄与度は小さくなる。「純輸出」の増加も、成長率が大幅なマイナスから小幅のプラスに変わって輸入が増え始めれば、細ってくる。公共投資の増加は続くとしても、その成長寄与度は家計消費や企業設備投資の成長寄与度に比べれば小さなものである。

【家計消費と設備投資を回復させる財政政策を打てるかどうかに懸かっている】
 本年4月現在のIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しによれば、今年の世界経済は1・3%の縮小である。本年中は輸出の増加による本格的な景気回復は望めない。結局、国内の家計消費と設備投資が立直らない限り、日本経済は本格的な景気回復軌道には乗らず、たとえ一時的にプラス成長に戻ったとしても、その持続性には疑問が残る。
 総選挙を控え、政府・与党は椀飲振舞の本年度補正予算を用意した。民主党が政権に着けば、初年度に財政支出を7兆円増やし、その後も毎年増やして4年後には17兆円増にするとしている。
 あとは中身だ。無駄な箱物作りや民業圧迫の公共投資でクラウディング・アウトを起こすのではなく、民間には出来ないエネルギー・環境関係などの公共投資を行い、それによって民間の投資を引き出すこと(クラウディング・イン)が大切だ。給付金などで一時的に所得を増やすのではなく、年金、医療、介護、保育、教育などの補助によって、国民が将来について安心と期待を取り戻し、家計の消費性向が高まるような施策が必要だ。この二つで、財政支出の乗数効果が高まれば、家計消費と設備投資は立直ってくるであろう。