民主党「政権交代」への課題 (H21.6.9)
―『世界日報』2009年6月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【民主党の結束を保った小沢氏の辞任】
 民主党の小沢代表が辞任し、後継に鳩山新代表(前幹事長)が選出された。
 多くの新聞やテレビは親小沢対反小沢の対立、あるいは小沢傀儡(かいらい)対脱小沢の選択などと報じたが、日本記者クラブや議員総会における鳩山・岡田両氏の公開対論をテレビ中継で見た国民は、小沢前代表の路線を巡る対立ではなく、どちらが党の結束を強化して総選挙で勝利し、政権交代を実現するのに適しているかの争いであることがよく分かったのではないか。
 もともと鳩山・岡田の両氏は、1998年の民主党結成以来、共に民主党の政策を10年かかって練り上げてきた中心人物であるから、政策に基本的な違いがあるはずはない。
 また小沢前代表の辞任は、党の運営に間違いがあったり、党内で政策路線が対立したりして辞めたわけではない。むしろ逆で、小沢前代表の党運営によって、議論が多くて行動力を欠く嫌いのあった「生徒会」、「学級会」のような民主党を、いろいろな事をしっかり決め、結束して前向きの行動に移す闘う政治集団に変え、07年の参議院選挙に勝利したことを、現在の民主党の議員はよく知っているはずだ。
 だから、始めから小沢路線を巡る対立であるはずはなかったのだ。むしろ鳩山氏も岡田氏も、成功してきた小沢路線を継承し発展させることが、政権交代への近道であるとよく認識しているのではないかと感じた。「私(小沢代表)自身が身を引くことにより、民主党の挙党一致の態勢がより強固になり、総選挙で勝利して政権交代を実現することが出来るならば」と言う小沢前代表の辞任の弁は、議員諸氏に素直に伝わったのではないか。その結果、幹事長として党内の融和に心掛け、小沢代表を支えてきた鳩山氏が選ばれたのは、ごく自然な流れであった。

【金権政治に対する国民の嫌悪感は健全】
 国民の多数は、小沢代表の公設第1秘書の起訴事実が、「収賄」や「斡旋利得」ではなく政治資金規正法上の収支報告書の「虚偽記載」容疑だけであることを知っている。それでもなお世論調査では、小沢氏の代表辞任を求める声が強かった。
 それは、たとえ合法であっても、西松建設というゼネコンから多額の政治献金を受けていたこと自体に、嫌悪感を抱いたからではないだろうか。このような国民の「嫌悪感」は、日本の民主主義に対する健全な支えである。今後、政治資金規正法の改正で企業・団体献金を全面禁止し、日本の政治を浄化していく上で、このような国民の感性は大切にしなければならない。仮に政権交代が実現した場合、民主党が実行しようとしている政治改革にとっても、有力な支援勢力となるに違いない。
 新しい鳩山民主党は岡田氏を幹事長に起用し、小沢、菅、興石の3人の代表代行と共に党内の結束を固め、総選挙の勝利、政権交代の実現に邁進する態勢を整えた。
 今回の代表選のプロセスを見ると、結果的にメディア・ジャックをして党の政策と結束を国民に訴える形となった。小沢代表辞任という最大のピンチに際し、民主党は見事に危機管理能力を示し、総選挙に備える体制を整えたといえよう。各紙の世論調査によれば、「どちらが首相にふさわしいか」「比例代表投票先」「今後の政権の枠組み」などで、再び民主党が自民党を上回るに至った。これは将に、「禍を転じて福と成した」といっても過言ではあるまい。

【民主党は政権担当能力に対する国民の不安を払拭せよ】
 国民の間には、「とにかく一度民主党にやらせてみよう」という声が増えているが、率直に言って、政権担当の経験がない民主党に対して、不安がないと言えば嘘になる。3カ月以内に総選挙を控えた民主党にとって大切なことは、@目指すべき日本の社会像を分かりやすく国民に訴えて共感を得ること、Aそれを実現するための具体的政策と4年間の具体的な段取り(工程表)を示すこと、B政策実現のための政権内の体制、とくに政治主導(脱官僚)下の政治家と官僚の役割分担・協力体制を明らかにすること、によって国民に少しでも安心感を与えることだ。
 @について、鳩山代表は5月27日の党首討論の中で、「他人の喜びを自分の喜びと感じられる“友愛社会”」を目指そうと訴えた。「自由」が行き過ぎれば弱肉強食の社会になる。「平等」が行き過ぎれば悪平等で活気のない社会になる。「自由」と「平等」のバランスをとるのが「友愛」だとも言った。フランス革命の「自由、平等、博愛」を思い出した人は少なくないのではないか。「友愛」は、決して甘っちょろい理念ではない。
 Aの具体的政策では、どのような財政の無駄の排除でいくらの財源が捻出できるのか、また日本社会の将来像を実現する長期計画の前倒し執行として当面の景気対策をうまく位置付けられるか、が焦点となる。
 Bは、官僚機構に入っていく100人余りの与党政治家が、指導性を発揮しながらどうやって官僚との信頼関係を築くかが鍵となろう。民間人の賢い使い方も一つのポイントになる。