在庫調整完了後を展望せよ (H21.4.10)
―『世界日報』2009年4月10日号“Viewpoint”(小見出しを加筆)


【輸出と鉱工業生産は前年比4割前後の急落】
 米国発の金融危機と世界同時不況の衝撃を受けて、日本経済はいま戦後最長・最深のマイナス成長を続けている。
 輸出は、08年10月から前年比がマイナスとなり、その減少幅は急激に拡大して、09年2月現在、−49.4%とほぼ半減している。この輸出激減が、鉱工業生産と出荷を痛撃し、両者は輸出同様、08年10月から前年を下回り始め、09年2月現在、生産は前年比−38.4%、出荷は同36.8%の落ち込みである。これを反映し、08年10〜12月期の成長率は−3.2%(年率−12.1%)に落ち込んだ。3.2%のうち3.0%強は純輸出の急減によるものだ。
 逆に言うと、国内需要の減少によるマイナス成長は、0.1%強にとどまった。しかしこれは、過剰在庫の積み上がりによる「意図せざる在庫投資の増加」により、実質GDPが0.5%嵩上げされたためである。1〜3月期には、この反動で在庫投資が減少し、成長率は下に引っ張られる。1〜3月期は、純輸出の減少がまだ続いているうえ、内需の下落幅が拡大するので、恐らく10〜12月期を上回る大幅なマイナス成長になるであろう。
 このように日本経済は惨憺たる有様であるが、しかし四割前後の輸出と生産の低下はいつ迄も続く筈がない。

【在庫調整による一時的落ち込み】
 IMFの本年3月時点の世界経済見通しによると、本年の世界経済は0.5〜1.0%のマイナス成長と予測されている。前年の3.2%のプラス成長から見れば大きな落ち込みであるが、どこの国・地域も4割前後の落ち込みと予測されている所はない。日本の輸出主力製品である乗用車、デジタル製品とその部品・デバイス、一般機械など高級品に対する需要が、高級品志向の家計消費や設備投資の冷え込みで落ちているとしても、4割前後も落ちているとは思われない。
 これは、在庫調整に伴う一時的な落ち込みである。多くの輸出企業は、07年7月をピークに円相場が緩やかな円高傾向を辿り始めた時、2000年から始まった行き過ぎた円安(実質実効レートで38%下落)が、いわば「円安バブルの崩壊」で反転したとは考えず、本格的に円高が進み始める08年9月頃まで、好採算の輸出を伸ばし続けた。このため急激な円高で採算に合わなくなった輸出製品の現地在庫が積み上がる結果となった。その在庫減らしで、いま輸出と生産を4割も絞り込んでいるのである。本来ならば、07年下期から輸出を絞り、円高に強い海外生産で柔軟に対処すべきであったのだ。

【在庫調整は4〜6月期に終わる】
 この在庫調整の終着点が、いま見え始めている。前述の通り、鉱工業生産は2月まで前年比下落幅を拡大してきたが、その甲斐があって1月と2月の生産者在庫は前月比で減少し、2月は前年水準を下回るに至った。3月と4月の生産予測指数は季節調整済み前月比で増加し、前年比下落幅は縮小する。予測指数には勿論下振れリスクはあるが、本田技研は3月から、トヨタ自工は5月から、それぞれ増産に転じると伝えられる。
 在庫調整が終われば、輸出と生産は現地の最終需要に沿って伸びることになる。前述のIMFの世界経済見通しによると、本年の先進国は3.0〜3.5%のマイナス成長に陥り、来年も0.0〜0.5%とほとんどゼロ成長と見られている。しかし、新興国・途上国は本年も1.5〜2.5%のプラス成長を維持し、来年は更に+3.5〜4.5%と成長率を高めていくと予測されている。
 本年2月現在、日本の輸出に占める先進国(北米、EU、大洋州)のシェアは34%、新興国・途上国のシェアは66%である。

【新興国・途上国と先進国のデカップリングに着目せよ】
 新興国・途上国の景気は、先進国への輸出を通じて先進国の影響を受けるため、同じタイミングで変動している。しかし、それぞれの景気変動を貫く成長率の長期趨勢を見ると、1980年代後半から90年代前半には先進国と新興国・途上国の成長トレンドはほぼ3%で並んでいたが、90年代後半以降今日までは、先進国のトレンドは更に1%程度まで下がってきたのに対し、新興国・途上国のトレンドは逆に6%程度に上昇した。
 これは、新興国・途上国の経済が、先進国への輸出に依存するだけではなく、産業化の進展やインフラの建設など独自の自律的発展要因を国内に持ち始めたためである。
 日本は、そのような新興国・途上国に3分の2を輸出している。日本は、新興国・途上国に対する政府の援助と企業の直接投資を通じて結び付きを強め、自由貿易協定を拡大し、共に発展する道を探るべきである。いたずらに目先の輸出と生産の落ち込みを悲観するのではなく、低炭素社会を目指す環境投資などによる内需拡大と新興国・途上国への輸出伸長というもっと長期のビジョンを持って、在庫調整完了後の姿を展望すべきである。