世界大不況に加担した日本 (H21.2.4)
―『世界日報』2009年2月4日号“Viewpoint”(小見出し加筆)


【輸出急落で本格的な景気後退へ】
 金融危機の実体経済に対する影響が、いよいよ本格化してきた。10月以降、日本の輸出の前年比がマイナスに転じ、その下落幅は月を追って拡大して12月には−35%に達した。落ち込みが大きいのは、言うまでもなく対米国と対西欧であり、米欧への輸出依存度の高いアジアNIEsと中国向けもかなり落ち込んでいる。このため、輸出の主力製品である乗用車、一般機械、電気・電子機器とその部品などを中心に、日本の鉱工業生産は10月から急落を始め、12月の生産指数は前年比−20.6%まで落ち込んだ。当然雇用問題は深刻化し、非正社員を中心とする解雇の拡大が社会問題化している。

【米欧の不況に巻き込まれるのは身から出た錆】
 日本の国内には、米欧のような住宅価格のバブル発生と崩壊はなく、それに伴う金融危機と景気後退の悪循環もない。不況の原因は、もっぱら騒ぎを起こした米欧と、米欧への依存度の高い国への輸出急落である。表面的に見ると、日本は米欧から大変な迷惑を蒙っている形になる。
 しかし、今の日本の大不況をもっぱら米欧からの被害だと考えるのは、極めて皮相の見方である。何故なら、小泉政権が発足した2001年以来、日本は円安バブルを伴う大量の資金流出で米欧の住宅バブルの発生に加担し、また自らを海外からの攪乱に弱い極めて輸出に偏った経済体質に変えたからである。米欧の住宅バブル崩壊に伴う世界同時不況で、日本の成長の命綱である輸出が急減し、日本自身が大不況に陥っているのは、いわば身から出た錆だ。以下、詳しく見て行こう。

【円安バブルに乗った戦後最長の景気上昇】
 円相場を見る場合、普通は対米ドルや対ユーロなどの名目為替相場を見る。しかし、日本と米国やユーロ圏との貿易取引は全体の3割程度であるから、正確には他の7割の国や地域との為替相場も見なければ、円相場の実勢は分からない。そこで、日本の主な貿易相手国・地域の通貨と円との為替相場を、貿易額をウェイトに使って加重平均した相場が、「実効」為替相場である。
 しかし、日本と外国との価格競争力を見るためには、「名目」の実効相場では不十分である。日本の国内物価は比較的安定し、外国の国内物価は程度の差はあれ持続的に上昇しているので、名目相場が横這いでも、日本の価格競争力は高まっていくからだ。そこで、貿易相手国・地域との名目為替相場を日本とのインフレ率の差で調整した「実質」為替相場を算出し、それを加重平均した円相場が「実質実効」為替相場である。これが価格競争力の実勢を現している。
 日本銀行が算出した円の実質実効為替相場を見ると、円は2000年の始めから07年の中頃まで、38%も円安となり、国際協調でドル安を進めた85年のプラザ合意前の水準まで下がっている。このため、日本の輸出競争力は著しく高まり、02年から07年までの6年間に実質輸出は毎年平均1割伸び、戦後最長の景気上昇が実現した。経済成長率に対する純輸出の寄与率は、ほぼ4割に達する。

【米バブル支えた超金融緩和】
 このような極端に外需依存に偏った経済体質を作り出した大幅な円安は、この間にゼロ金利を含む超低金利政策が実施され、日本から海外への資金流出圧力が強まったためである。手持ちの円資金や日本の銀行から借りた円資金を外貨に換え、外貨建の金融資産に投資すれば、内外金利差だけ儲かる。この場合、もし円相場が円高に振れれば、金利差を帳消しにする為替差損が発生するリスクはあるが、内外の金融機関やファンド、それに日本の個人まで、円安は続くと信じてこの円キャリ取引を続けた。円安持続を信じて行う円キャリ取引自体が、更なる円安を促すという典型的な「バブル」である。
 「円安バブル」を伴いながら海外に流出したこの資金が資金源となって、米国の銀行は「住宅バブル」を生み出したサブプライム・ローンなど住宅ローンの拡大に走り、米欧の投資銀行、ファンドなどは住宅ローンの証券化商品・派生商品への投資に狂弄した。今回の金融危機と不況は、こうして形成された住宅バブルの破裂によって始まった。その意味で日本は、世界大不況の原因に加担した上、自らその被害を受け易い外需依存体質になり、円安バブルの崩壊(円高)も加わって一層苦しんでいる。いわば自業自得である。

【小泉政権経済政策の禍根】
 円安バブルを生んだ超低金利政策は、03年までは金融危機対策としてやむを得なかった。しかし04年以降は、財政赤字を縮小する緊縮財政とのポリシーミックスとして続けられた。小泉政権発足後、社会保障費の抑制などで国民負担は8.6兆円増加し、公共投資は四割削減され、地方への十分な財源の移譲がないまま地方交付税交付金が絞られたので、消費の停滞と地方経済の疲弊が生じた。財政緊縮のデフレ効果が強かったため、超低金利政策がなければ、内需の減少で景気上昇は失速したかも知れない。その意味で、小泉政権以降の「財政緊縮、金融超緩和」のポリシーミックスに根本的な問題があったと言える。