図々しい議員のさばらせるな (『朝日新聞』H15.7.8)
− ポリティカにっぽん : 早野透(朝日新聞コラムニスト)−
潔い人もいる。未練がましい人もいる。口をすべらせて謝る人もいる。しらばっくれる人もいる。このごろまた国会議員って何なんだろと思う出来事が続く。
去年の大騒ぎでは、辻元清美、加藤紘一、田中真紀子氏ら何人もが議員辞職した。だが今年、暴力団絡みで秘書給与の肩代わりを受けた松浪健四郎衆院議員は後ろ髪を切って反省のポーズをしながら、「スポーツマンはネバーギブアップ」と言って議員の身分を手放そうとしない。
いま拘置所にいる鈴木宗男、坂井隆憲の2人の衆院議員も辞めない。拘留期間の長さには疑問もある。しかし、その間は議員の仕事などできないのに、議員歳費やもろもろの支給(むろん税金からだ)はもらい続けている。どういう神経なのだろう。
2人は衆院本会議で議員辞職勧告決議を全会一致で可決されている。「選挙で選んだ議員の身分を多数決で奪うのは憲法上の疑義がある」と渋っていた自民党も決議に賛成したのである。だが2人はどこ吹く風、決議は空念仏になっている。
衆院の鈴木淑夫懲罰委員長(自由党)は、これでは国会の権威にかかわる、放っておけないと考えた。
「勧告だから強制はできない」というけれど、決議は本会議による「院議」である。「院議」を無視するのは勧告ではあれ、「院の秩序を乱した」といいうる。であれば、憲法58条によって議員を懲罰に付し、3分の2の多数で除名できるはずである。
その議員を選んだのは1選挙区の意思である。衆院の全会一致決議は国民の総意である。選挙区の意思よりはるかに重い。だからこそ憲法に除名規定もある。
「国是といわれる非核3原則だって衆院本会議の決議なんですよ。辞職勧告決議だって同じように重いんです」と鈴木氏。「院議不服従は懲罰の対象」と唱えて懲罰委員会で議論したい、と綿貫民輔衆院議長にも伝えた。
だが、自民党は「落としどころは歳費の支払い停止ですかね」などと鈴木氏に言ってくる。戦前は反軍演説の斎藤隆夫議員の除名、戦後は占領軍批判演説の共産党の川上貫一議員の除名など歴史の悪例があって、実は野党も鈴木氏の議論に乗り気ではない。かくて鈴木宗男、坂井隆憲の2人は居座り続ける。
見せかけだけなら辞職勧告決議などしない方がいい。国会が弱すぎる。
そんなところへ共産党の筆坂秀世参院議員のセクハラ辞職が起きた。
当世、セクハラといっても酒席の言葉の戯れからもっと意図的なものまでさまざまな形がありうる。筆坂氏の処分を発表した共産党からは、そういう情景描写は女性を2度にわたって不愉快な思いにさせるからといって、具体的説明はなかった。
女性のプライバシーのために秘密にするのは間違ってはいない。だが、セクハラは許されない行為であるにせよ、有権者が選んだ国会議員を辞職させる話である。行為と処分が釣り合っているのかどうか、有権者がそれじゃあやむを得ないねと思えるのかどうか。腑に落ちない。
筆坂氏は一回も顔を見せないまま国会を去っている。テレビでも活躍していた堂々たる議員だ。党の一存ではなくて、本人が記者会見して釈明謝罪すべきだろう。そこで女性のために秘密にすべきは秘密にしていい。「一党員として再出発する」という筆坂氏にしたって、これではけじめがつかないだろう。こちらは党が強すぎないか。
共産党が道義を重んずるのはわかる。だが個人の自覚の問題を、党の規律の問題とごっちゃにしない方がいい。「セクハラしないよう外で飲酒するな」などととんちんかんな話になる。さすがに撤回したけれど。
自民党議員からは、「集団レイプも男の元気」といったような発言が飛び出す。いくらレイプは犯罪と前置きしていても、こんな発言はありえない話だろう。
去年はまだ理非曲直をわきまえていた。今年はしっちゃかめっちゃかである。図々しい奴がのさばるのはうんざりだ。こうなったら早く選挙をして、有権者の手でけりをつけたいものだ。