自己破産とヤミ金融が急増 (『日本金融新聞』H15.1.1)

−幅持たせた金利が必要 −現行制度では事態改善せず

 ――出資法金利見直し議論が始まりました。エコノミストの視点から、貸金業界に対する金利規制への見方をお聞きします。

 「経済理論から言えば金利は価格に過ぎない。従って規制対象に入れるべきではない。しかし、貸金業の(出資法)上限金利規制をみると、経済政策よりも社会政策的な意図が強い」
 「それはなぜか。債務者と貸金業者の間には、経済学で言うところの『情報の非対称性』が明らかに存在するが、両者が同一の情報を共有していないため、貸金業者がその優越的立場を利用して高金利をとる可能性がある。これは社会的にはよくない。経済的には情報の非対称性がある場合、規制の網をかけないと市場経済がうまく機能しない現実がある。つまり、現時点では金利の上限規制そのものをなくすことはできない」
 「経済学には『逆選別』または『逆淘汰』という理論がある。本来は保険業界における現象を指すものだが、酒の販売を禁止した結果、逆にヤミ酒が増加した一九二〇年代の禁酒法時代のアメリカを思い浮かべればわかりやすい。これを貸金業界に当てはめてみると、健全な個人の借り手を保護する目的で規制を強めたら、逆にヤミ金融が急増し自己破産が増えた、現在の状況に合致する。今の規制を続ける限り、事態は改善しないということだ」


 ――ではどう修正すれば良いとお考えですか。

 「決め手は二つある。まず金利をより実態に合わせる必要がある。消費者金融に代表される短期間での借入では、金額単位当たりのコストは割高となる。普通は短期金利は安く長期は高いのが相場だが、貸金業界の世界では超短期の場合、ある程度金利が高くなるのは当然だ。単に金利の天井を設けるのではなく、ある程度のレンジを持たせないと。要するに、規制金利一本では、副作用も大きい」
 「もう一つは、登録制度の見直しが上げられる。現在、金融の世界は許可制があまり望ましくないとされているので、登録制度の強化が必要だ。登録制度の内容をチェックし、きちんと法律を順守するよう宣誓させる。被害者からの訴えには法律違反であれば即座に業務停止命令を出すなど、ヤミ金融を厳しく取り締まる内容に法律を早急に改めるべきだ」


 ――現在の利息制限法と出資法との関係については、どのように見ていますか。

 「私は利息制限法は廃止すべきだと思う。ただ利息制限法にある行為規制については、貸金業規制法内に取り込む形で残した方がいい。結論的には、利息制限法を廃止し、出資法に上限金利は一本化するべきだと考える」
 「金利を一部下げるべきだとの意見も出ているようだが、そうすれば『逆選別』『逆淘汰』を激しくするだけで、自己破産者とヤミ金融被害者の増加という悪い流れを押し戻すことはできない。まずは融資する金額と期間に応じて、上限金利をそれぞれ設けることが必要だ。しかし、この理屈を理解する政治家は与党内に意外と少ない」


 ――利息制限法は金融機関が個人ローンを手掛ける際の上限金利の役割を果たしています。出資法と一本化するとしても、その点をクリアする必要があります。

 「その議論の前に、銀行と貸金業との間には明確な顧客情報に関するファイアーウォール(参入障壁)を設ける必要があるだろう。銀行は決済機能を持つから保護されるが、貸金業はそうではない。両者の間にカベを設けることなく、銀行が子会社を通じて参入するのは公平ではない」
 「その典型的な例として、顧客(の個人信用)情報の扱いが上げられる。貸金業界はこれまで営々と積み上げてきた顧客情報を、業界内の財産として大量に保有しているが、これを銀行が失敬して利用するというのはとんでもない話。利益相反が起こる可能性があるため、異なる業種間で顧客情報を共有してはならないというのは、金融制度論の基本だ。この議論は銀行による証券業への参入問題で過去大々的に議論されたが、これは銀行と貸金業との関係にも同じことが言える」
 「銀行が無条件に貸金業へ参入するというのは大いに問題がある。制度的にファイアーウォールをしっかりと設けたとしても、実際には、銀行との間の人事交流や情報交換が頻繁に行われている。これでは実質的に障壁がないのと変わらない」