所得課税の簡素化を - 納税者意識高揚の道 - (『納税新聞 一筆啓上』H14.3.4)

 日本の税制でおかしな事は沢山あるが、ここでは納税者意識を高める為に、一つだけ指摘しておきたい。それは個人所得に対する総合課税の仕組みが複雑すぎる事だ。様々な種類の総合所得控除、類別所得控除、税額控除があるので、普通の人が自分の所得課税額を計算するのは容易な事でない。

 それでもうまく行っているのは、給与生活者の所得課税額を会社などの雇用者が計算して、給与から源泉徴収して呉れるからだ。その上年末には、雇用者が最終的な年末調整の計算までして呉れて源泉で追加徴収あるいは返戻して呉れる。

 従って一般の給与生活者は、自分の所得税・住民税がどのような計算で決まっているのか全然知らない。ましてや源泉徴収された後の給料袋を渡される主婦は、所得税・住民税を納めているという意識さえ殆どない。それでいて主婦は、消費税には敏感である。買い物をするたびに納税意識を持つからだ。

 しかし、直接税中心の日本において、一般の給与生活者やその被扶養者が、直接税(所得税・住民税)の納税意識が希薄で、間接税(消費税)の納税意識が強いのは不自然だ。そこに付け込んで、為政者による税金の無駄使いが行われている。

 税金の使い道を厳しく追求する個人の納税者意識は、個人所得に対する課税計算を自ら行い、納税の痛みを感じることから始まるのである。そのためには、自分の所得税や住民税を一般の国民が自ら計算できるように簡素化し、雇用者による源泉徴収や年末調整を廃止し、自分で申告納税するように改めるべきである。

 それには、思い切って各種の控除を廃止する事だ。その上で次のような改正を行う。

 第一に、緒控除を廃止すると課税最低限の所得が下って増税となるので、税率を大きく引下げ、所得税・住民税の合計で五%、十五%、二五%の三段階に簡素化する。五%の最低税率は社会への参加料として全員が払い、その代わり全員が納税者意識を持って税金の使い道を厳しく監視する。

 第二に、扶養控除、身障者関連の控除などは、いずれも手当てとして国が支給する。控除であれば、課税最低限以上の所得のある人しか恩恵に浴せないが、手当てであれば所得が非常に少ない人でも確実に恩恵に浴せるので、公平である。

 第三に、給与所得控除など所得類別の諸控除や住宅ローン控除などは、給与所得者の経費や支払金利を所得から差引けるような形で、経費差し引きのネット所得に課税する考え方に改める。

 以上の三点を改める形で所得税・住民税を簡素化し、税率を引き下げ、課税ベースを拡大するならば、日本国民は所得課税について消費課税と同じように敏感になるので、納税者意識は高まり、税金の無駄使いを厳しく監視するようになるであろう。