思い切った規制緩和と減税を

(『RR 外為情報リニューアル版−2003年Vol.22』 平成15年6月9日)

―小泉首相は外交政策では評価される一方、経済政策はさっぱり効果が出ない。
 最近、二つの大きな金融面の出来事があった。りそな銀行に対する公的資金注入と、生保予定利率引き下げ法案だ。この二つのケースはいずれも、小泉政権が需要喚起策を採らず、低金利と株安を放置したことが背景になっている。まず、りそな銀行をみてみると、自己資本比率が二%強にまで下がった。普通なら四%を大きく割ったら、業務停止をして、債務超過になっていなくても、公的負担なしに清算するべきだ。ところが、預金保険法では、倒産による金融システムへの影響が大きい場合は、公的資金を注入できると定められている。りそな銀行はこの法律により、国民の税金を二兆円も投入して、自己資本比率を一〇%強まで上げることになった。一方、生保の予定利率引き下げ法案というのは、予定利率引き下げを当該保険の契約者の九割以上が呑んだら、引き下げを実施してもよいという法案だ。民間における長期契約で、自分の都合が悪くなったら勝手に変えるというのは、民法上は成立しない。しかし、この法案が通れば、予定利率に関しては、九割以上が賛成すれば引き下げ可能になる。

―小泉政権の経済政策の失敗が背景だ…。
この二つの事件をみると、共通していることが二つある。政府の責任と、経営者責任による問題という点だ。まず、政府の責任というのは、小泉首相が需要喚起策をしないこと。そのために、ゼロ金利が続いている。低金利が続いているために、りそな銀行は業務純益が上がらず、生保は逆ザヤになってしまっている。また、需要喚起策を採らないために、株価が低迷している。それで、りそな銀行も生保も、大きな評価損を出してしまった。つまり、りそな銀行は自己資本比率が低下し、生保は保険金の支払いに備えた責任準備金を約束どおり積めないということになった。これは政府の失策が原因だ。政策の失敗で、金融面にしわ寄せがきて、国民の犠牲につながっている。この責任は重大だ。

―経営者責任については。
 りそな銀行はバブルに踊って、その結果、不良債権をたくさん作ってしまった。この不良債権の処理額は業務純益をはるかに上回っている。業務純益自体が、低金利と株安で減っているところへ、さらに不良債権処理の負担がかかり、自己資本比率を下げた。生命保険会社もやはりバブルに踊って、超高利回りの保険商品を売ってしまった。契約が成立した以上、経営者の自己責任だ。そして、両者に共通しているのは、小泉首相の政策の失敗と、経営者責任だ。それなのに、そのしわ寄せが国民にくるという、二つの金融の事件が今起きている。

―政府は昨年、「景気底入れ」宣言をしている…。
 少なくともわたしは、経済が良くなってくる芽は全然見えていないどころか、足元がむしろ非常に弱くなっていると思う。先を見ても、海外情勢が好転して日本の輸出に響いてくるのは、早くて今年の冬あたり、通常で来年以降と予想される。米国ではイラク戦後の処理の方向性が見えていないから、戦前の極端な見通し不安は払しょくされたものの、少なからず不安は残っている。これ以上は個人消費も設備投資も悪くならないだろうが、四〜六月期は回復するとはいえない。それがワンテンポ遅れてアジアに影響してくると予想されるうえ、中国はSARS問題を抱えている。これらを勘案すると、小泉さんの言うように海外の景気が改善して日本の輸出が増加するというような、他力本願の回復が実現するとしても、今年の終わりから来年だろう。国内をみると、底入れ気味だった製造業の設備投資も、機械受注が四〜六月期はがたんと落ち込む予想が出ている。非製造業も入れると、全体が底を打って上がってくるとは予想できない。個人消費がここへ来て弱くなっていることからも、経済情勢は、この先半年程度は悪いだろう。成長率は期をおってどんどん下がり、ついにゼロ成長になった。四〜六 月期はマイナス成長になるかもしれない。そういう状況で、需要喚起策をとらないでいったら、日本はいったいどうなるのか。

―小泉政権は需要喚起策をとらず、景気はなかなか良くならない。そこで、いま打ち出すべき政策とは…。
やはり、思い切った規制緩和と減税だ。規制緩和については、総合規制改革会議がいい提言をしているのに、そのごく一部が経済特区という形で取り入れられただけに留まっている。例えば医療、介護、教育、農業などの分野への民間企業の参入が実現すれば、設備投資にはかなりプラスになる。特区という形態をとらず、全国で規制緩和、規制撤廃を促進するべきだ。四分野とも発展産業であり、民間企業が参入したら、面白い事業が期待できる。減税の財源は当面は赤字国債になってしまうが、規制緩和を進めれば、役人の仕事が減るため、その分だけ役所を小さくして、財源に回すことができる。規制撤廃と減税を打ち出せば、それだけで株価は上がる。

―金融緩和自体はこれ以上できないところまで実施している。むしろ金利を上げたほうがいいのではないかという意見もある…。
金利を上げてしまったら、まず住宅ローンなどで苦しんでいる個人が困る。いま、金を借りなければやっていけないという中小企業も困る。金利を上げれば、弱者のところに衝撃がきてしまう。それよりも、実態面の需要喚起策が必要だ。実態面の需要喚起というと、一部では公共投資が叫ばれるが、そういうことではない。一番効果があるのは、改革に沿った需要喚起で、それが規制撤廃と減税だ。法人税と所得課税が、減税の対象としては望ましい。規制を撤廃して、チャンスを活かした人、企業が報われる減税が必要だ。

―社会保険料は…。
介護保険料にしろ、医療保険料にしろ、雇用保険料にしろ、このままだったら厚生労働省はずるずる保険料を上げて、個人の負担を増やしていく。これもまた不安の元になっている。介護も医療も年金も保険料はこれ以上上げない、介護保険料はゼロにする、その分は消費税を上げればいい。所得は隠すことができるが、消費はごまかせない。消費税は公平だ。金持ちの高齢者の年金をカットしろなんていう議論があるが、そんなこと言ってるなら、消費税を上げて金持ちから税金を取ればいい。

―日銀の金融政策については…。
ひとつ挙げるなら、ABSの買い切りだ。中小企業なら売掛金、個人なら住宅ローンなどを証券化して、それを買いオペ対象にする。国債をこれ以上買っても何の効果もない。このままでは、将来日本経済が底を打ったときに、国債が暴落して、別の金融不安が起きるばかりか、日銀の資本が減価して、大きな損を出してしまう。ABSの買いオペをすれば、銀行が金を貸さないといっても、日銀から直で中小企業部門、場合によっては個人に金がいく。つまり、本当に経済活動をしている人のところに金がいくということだ。ABSなら直接金が入るため、資金繰りをつける目的だけではなく、設備投資の目的でも利用できる。あえて日銀を批判するとすれば、早くしろと言いたい。検討し始めたのはけっこうだが、結論がなかなか出ないのでは、何もしないのと同じことだ。