国債三十兆円枠はデフレを加速
(『Risk&Retrun global Investment News - Monday Interview』 Vol.45 2002年11月25日)
自由党 衆議院議員
鈴木 淑夫 氏

聞き手  編集局長 島田 一

――先ず、竹中金融・経済財政担当大臣による不良債権の加速策についてうかがいたい…。
 鈴木 そもそも政府は不良債権処理を何故急がなければならないのかという根本のところを議論していない。一応、不良債権を処理すれば銀行が元気になり、それによって貸し出しをしてくれるから景気が回復するという理論なのだろうが、しかし、毎年毎年、新たな不良債権が銀行の業務純益の倍近くも発生しているという現況を勘案すると、今回、不良債権を処理しても再び不良債権が発生してしまうことになる。となると、処理を加速させたところで、銀行に元気が戻るわけがなく、景気の回復も期待できない。このため、今の段階で不良債権を加速させるのはナンセンスだ。

――産業再生機構については…。
 鈴木 バブルに踊って放漫経営を行った企業の不良債権はもはや半分以上片づいている。今発生している不良債権は、その後の十年間の経済停滞の中で真面目に一生懸命経営をしているにもかかわらず、経営が悪化してきている中堅・中小企業が中心だ。こうした企業を産業再生機構に移すということは乱暴極まりない。というのは、産業再生機構に移されるといった瞬間にその企業統治が国側に移るため、その企業は株価が暴落するであろうし、取引先も相手にしなくなるため、まじめな企業を倒産させてしまうことになるからだ。再生機構に移されたことで市場の信用を失い、大丈夫な企業も窮地に追い込まれてしまうことで、この案もナンセンスの極みだ。株式が竹中大臣による不良債権プロジェクトチーム発足当初から売られ続けているのはこうしたナンセンスさに反応しているためで、極めて当然のことだ。

――不良債権が処理されても、デフレが続く限りはお金を持っていた方が得なため、銀行は積極的な貸し出し行動は採らない…。
 鈴木 その通りだ。また、それより前に、今回の竹中案による公的資金の注入や経営責任の発生を回避する目的から、銀行はこれまで以上に貸し渋りや貸し剥がしを積極化させることになり、デフレはより深刻化し、景気の足を引っ張る。つまり、今回の総合デフレ対策は、デフレ促進的な内容だ。

――財政改革を含めた構造改革を掲げている小泉内閣がデフレを促進させて、その結果、赤字国債を発行せざるを得なくなり、財政改革が後退しているということは、失政そのものだ…。
 鈴木 真にその通りだ。今回の補正で赤字国債を発行して小泉首相の掲げた国債の30兆円枠を取り払うことになるが、その原因は小泉デフレで、3兆円弱の歳入欠陥が出たためだ。しかし、そうした歳入欠陥を埋め、国債の発行額を33兆円に増額しても、昨年度は歳入欠陥以外で3兆円の補正予算を組んでいるため、まだ、3兆円の緊縮財政ということになり、景気にとってはデフレ圧力となる。このため、せめて景気にとってニュートラルな予算にしようと思うならば、歳入欠陥と併せて6兆円の補正規模にしなければいけないわけだ。

――そうなると大幅な国債増発が必要になるため、小泉公約がまたひとつ崩れることになる…。
 鈴木 さらに来年度予算を展望すると、来年度は社会保障関係で国民負担が3兆円強増えることから、そこで1兆円強の減税をしたところでまだ2兆円の緊縮予算ということになる。このため、来年度はそのギャップを埋めるために少なくとも三兆円強の減税が必要だ。さもなくば各種保険料の引き上げをストップしなければ景気にはマイナス圧力が働くが、そうした議論は小泉内閣では一切行われていない。また、輸出が鈍化してきているため、鉱工業生産の伸びが止まってくることから、10〜12月のGDPからマイナス成長に転ずる可能性がある。そうなると、株価は更に下落する可能性があるため、銀行も生命保険も来年三月末の決算を越えられず金融危機が現実のものとなるというリスクがかなり高まっている。

――そうした状況を脱するため、小泉緊縮財政を止め、真に景気を刺激する公共事業や、国際競争力をつけるための産業育成に予算をつけろという意見が改めて強まっている…。
 鈴木 私は以前から、公共事業はすべてダメだというのは乱暴な意見であって、少なくとも名目的な予算額は横ばいにして、その代わり事業の中身を大都市再開発などの効果的なものに見直すべきだと主張してきた。また、公共事業の発注方法を改めることで公共事業のコストを引き下げ、それによって事業そのものの量を増やす。さらに投資促進減税や開発促進減税に加えて、法人税の基本税率の引き下げを行うことで景気を刺激すべきだと主張している。基本税率の引き下げについては、黒字の企業しか恩恵を受けない、今は赤字の企業を救わなければいけないと自民党では反対論が強いようだ。しかし、赤字企業を救うのは社会政策であり、経済政策としてはこの不況の中で黒字を出している優良企業、優良産業を伸ばさなければいけないわけで、そうした黒字企業を減税すれば、キャッシュフローが増えて、設備投資が活発になる。

――設備投資が活発になって、失業者も吸収できる…。
 鈴木 企業はこのところの不況で設備投資をかなり抑えているため、減税によりキャッシュフローが増えてくれば設備投資は活発になる。銀行に借りてでも設備投資をするという意思はないし、また銀行は貸してくれないだろうが、手元にキャッシュフローが増えてくれば設備投資が回復する。また、キャッシュフローが増えてくれば、銀行はその企業の安全性を評価し、今度は銀行が積極的に融資をし、融資と設備投資の良い回転が回復するようになる。

――そうなると景気が回復し、不良債権議論も影が薄くなる…。
 鈴木 不良債権を処理しても景気は回復しないが、需要を刺激すれば景気が回復し、そうなれば不良債権問題は解決する。

――かつてAAA格であり、今はBBB格である銀行の能力そのものは昔も今も変わらない。変わったのは銀行の背景にある日本経済の成長力だ。このため、景気をよくすれば銀行の格付けは向上する…。
 鈴木 それは一面の真理をついている(笑)。しかし、かつての銀行の融資部、審査部は本気になって人をみてお金を貸す、あるいは真剣に発展産業や成長企業を調べたものだ。それが今は金融庁に怒られるからとにかく不良債権をつくらないようにしよう、自己資本比率を上げようということばかり考えている。このような状況は本来の銀行経営とはいえない。

――今は人をみたら金を貸すなという状況になっている(笑)。
 鈴木 それに財産があるところだけにお金を貸している(笑)。それもこれも経済政策の失敗で、そもそも国債発行額に30兆円のキャップを付けたこと自体が間違いの元だ。というのは、国債発行額や財政赤字は財政収支の収支尻のところで、その尻拭いをするのが国債発行だ。その尻拭いのところを絞ると、税収が落ちるから歳出カットする、そしてそれにより不況になるというデフレスパイラルに陥る。つまり、小泉首相の掲げた国債の30兆円枠はデフレスパイラルの仕掛けをつくってしまったということだ。     (了)