官業の民間売却が改革のかぎ (『金融ファクシミリ新聞』Vol.27 2001年7月9日号)
――小泉内閣のいわゆる骨太政策をどのように評価しているか…。
鈴木 骨太政策を構成している七つのプログラムが、それぞれうまくかみ合っていないと思う。また、七つのうち、最初の二つ、すなわち、特殊法人等の見直し民営化と、新しいビジネスを促進するチャレンジャー支援プログラムが重要だと思う。これこそが構造改革の一番重要なポイントだ。民業を圧迫している官業を民間に売却すれば、民間のビジネスチャンスは広がるし、無駄な税金の垂れ流しは止まる。加えて、NTTなどと同様に、売却代金が政府に入るわけだがら、その分、国債を発行しなくても済む。そして、七番目の方針である財政改革につながっていく。その他のプログラムは総花的でとってつけたような内容であるため、この、一と二と七のプログラムが一体となってワークするか否かがカギを握っている。
――官業の民営化は、「言うは易く、行うは難し」だ…。
鈴木 既得権益の抵抗が厳しいことから、一番難しい改革だ。しかし、これができなければ、新しいビジネスチャンスも生まれにくいし、行政改革もなし得ない。その他のプログラムは、改革の具体性や手順も明確でないことから、一のプログラムができなければ、何もできないことになるという印象を持つ。ただ、こうした政策提言は、いつも横やりが入り、焦点がぼやかされるのが常であることから、好意的にみれば、一と二と七のプログラムが動ければ、全体が動くと思う。
――国債発行を三十兆円以下に抑えるという方針については…。
鈴木 橋本政権が犯した失敗の反省にたっていないという印象だ。来年度から三十兆円以下に抑えるというのはやや短平急で、「歴史に学ばぬ者は歴史を繰り返す」ということで、橋本政権と同じ失敗を繰り返すことになるのではないか。国債発行額を抑えることや、プライマリーバランスの均衡を目指して財政を運営していくことは、最終目標としては大切なことだ。しかし、そこにいたる経路では、景気情勢によっていろいろな方策を弾力的に使う必要がある。これを、自分で自分の手足を縛り、赤字削減を最優先の目的とした結果、政策手段を硬直化させ、景気が悪くなったら「お手上げ」になってしまったのが橋本政権だ。
――ちょうど今、景気が悪くなってきている…。
鈴木 これからはむしろ景気対策をやらなければいけない時期で、国債発行を三十兆円に抑える政策をとるべきではない。財政赤字が一度拡大してから、その後、縮小していくという経路を辿ることが最適な政策だと思う。このため、来年度予算から三十兆円に抑える政策は、経済対策としては極めつきの愚策だ。しかし、政治的なプロパガンダとしては効果があり、国民大衆には耳ざわりの良いメッセージだ(笑)。
――国債を増発せずに、景気対策をする方策はないのか…。
鈴木 あるとしたら、ただひとつ、一のプログラムを早期に実施し、公的セクターの資産を民間に売却することで、その売却代金により積極政策を行い、景気を維持することだ。小泉内閣の財政方針として、支出を抜本的に見直し、もっと効率的なところに財政支出を使うということも言っているが、やはり予算全体を絞るということになれば、景気後退の局面では景気浮揚の力にはなり得ない。既に景気が回復過程にあり、これを維持する程度であればそれでも良いが、景気後退局面でこれを逆転させるには相当の力がいる。財政支出の構成を変えるだけではとても無理だ。
――小泉政権の目玉として不良債権の早期処理があげられているが、日本の不良債権の巨額さからみて、とても実現できるとは思えない…。
鈴木 小泉政権の不良債権処理についてきちんと書いたものを読むと、主要銀行の既にある不良債権を二年で処理すると同時に、新たに発生するものは三年で処理するという内容となっている。主要行以外を含めた金融機関全体の不良債権を二年で償却しようとすれば、これはもう絶対不可能なことだ。主要行に限定すれば、相当な引き当てを積んでいるため、既にある不良債権を二年で処理することはできるだろう。しかし、新たに発生する不良債権を三年で処理できるか否か、これは主要行でもかなり難しい課題だろう。というのは、小泉政権の政策によりマイナス成長が二、三年続けば、新たに大量の不良債権が増えることになるためで、早期処理は絵に書いた餅になる可能性が高い。
――公共投資自体、既に効果が薄れており、やっても無駄だだという意見もある…。
鈴木 それは、経済動向をきちんと把握していない人の意見だ。公共事業を増やした時は、それなりに鉱工業生産がプラスに転じているし、ましてや九・四兆円減税を実施した時は、マイナス成長がプラス成長に転じている。ただ、効果が持続しないというのは確かで、このためには、構造改革や不良債権処理を行わなければならないというのも事実だ。つまり、公共投資や減税を行い、景気を回復させながら、構造改革や不良債権処理を行っていく政策がベストシナリオだろう。しかし、その時期は既に過ぎてしまっており、今から国債を発行し、公共投資を行おうとしても、これは相当な巨額な規模の国債発行を行わなければ効果はない。このため、最後に残された手段は、公的セクターの資産の大胆な民間売却だろう。それも、郵貯などの事業部門にとどまらず、土地などの物納されたものも、大胆に民間に売却する。それにより、少々、時価よりも安く売却されたとしても、その分、民間が利益を得ることで、新しいビジネスチャンスとなり、チャレンジャー支援ともなる。
――金融政策については、既に効果が無くなっているにもかかわらず、まだやれとマスメディアが騒いでいる…。
鈴木 政府は昔から財政政策に失政すると、金融政策をやれといってくる。自分の失政を棚に上げて、金融政策が手ぬるいからだというのはこれまでの歴史だ(笑)。しかし、今度ばかりはいくら言われても、何を言われても、もう手は出し尽くしている。いわゆる「流動性のワナ」で、現在五兆円の当座預金残高を六兆円に増やしてみても、何ら効果は変わらない。このため、金融市場に滞流しているジャブジャブな資金を活用するためにも、公的セクターの資産を売却することが必要だ。
――デフレ対象として円安政策をとるべきという意見も浮上しているが…。
鈴木 外為相場がコントロールできるならば、とうに固定相場制に移行している(笑)。日銀が円安政策を採るといったとたんに投機家の餌食となり、市場は混乱するだけだろう。為替相場政策により、何かをするというのは邪道だ。
――とすると、金融緩和を続けながら。公的セクターを大胆に売却し、その資金で公共投資をやりながら、不良債権処理と構造改革を進めていくことがベストシナリオだと…。
鈴木 ただし、その公共投資も内容を変えなくては効果がなく、従来のような地方の箱物では全く意味がない。大都市圏の防災・環境整備や、渋滞する交通網の整備など、大胆に公共投資を行うべきだろう。(了)