今年度GDPは「2%台」成長が確実 (『月刊経済』11月号) インタビュー記事
−だが政局不安が来年の景気不安につながる懸念も−
『4〜6月期のGDPは二期連続でプラス成長となった。この調子だと、今年度は「2%台成長は間違いない」と断言する自由党エコノミスト議員の鈴木淑夫氏。ようやく景気は回復基調に入ったと断言してよさそうだか、とはいえ、まったく懸念材料がないわけではない。鈴木氏は「来年の景気は政局がらみで考える必要がある」という。どういうことなのか。』
【プラス成長は予測どおり】
記者:このほど4〜6月期のGDP(国内総生産)が発表されましたが、実質で前期比1.0%増、年率換算では4.2%増と二期連続のプラス成長になりました。先生にとって今回の数字は予想どおりでしたか。
鈴木:予想どおりですね。私は自分のホームページに「月例景気見通し」を毎月出しているんですが、一ヵ月前の8月にホームページで「4〜6月期のGDPはプラス成長」と予測していました。つまり、@これまで成長を支えてきた設備投資と外需がマイナスになる、しかしA個人消費が間違いなくプラスになる、B公共投資と住宅投資が横這い圏内の動きである。したがってプラス成長になると予測したわけです。
記者:そうでしたか。
鈴木:私の予測で間違ったのは、Bの公共投資ですね。ほぼ横這いで推移すると思っていたら、13.6%も伸びた分だけ、私が考えていた以上の年率4.2%成長になった。それ以外は予想どおりでした。
記者:今年度GDPの政府見通しは1.0%増ですが、この調子だと1.0%どころかずいぶん高い数字になりそうですね。
鈴木:そういっていいでしょう。すでに4〜6月期の実質GDPは99年度平均のGDPに対してプラス1.9%になっていますから、政府見通しの1.0%はこれからの7〜9月期、10〜12月期、来年1〜3月期が毎期マイナス0.6%成長にならないといけない数字なんです。
記者:ということは、今年度は2%を超えそうですね。
鈴木:間違いなく2%台成長になってきます。政府は1.0%成長を前提に税収を見積もっているわけですが、いま見通し以上の伸びですから、伸びた分だけ税収が増えることになる。その税収増を見込んで、今年度補正予算では「赤字国債を出さない」と言い出しているんだと思います。
記者:今年初頭にテレビの正月番組でエコノミストたちが今年の景気予測をしていましたが、悲観的予測と楽観的予測の両極端な意見に分かれていました。それがこの7月に、みなさん上方修正しています。
鈴木:いまねえ、無免許運転のエコノミストが多すぎますね。素人のくせにいっぱしのエコノミストを自称する(笑い)。私は、去年の暮れから今年度の成長は2%と予測してたでしょう。
記者:ええ、本誌インタビューでの発言でも証拠が残ってますよ(笑い)。
鈴木:で、最近では私は「2%じゃない。2%から2.5%だ」と主張している。
記者:確かに先生のおっしゃるとおりに、数字は推移しています。個人消費も設備投資も数字上は底固くなってきたかなという気がします。しかし、どうも疑ってかかりたいというところもあるんですが、どうですか。
鈴木:足許は疑う余地のない民需主導型に向っていますよ。だけど、疑ってみたいという気持ちはよくわかります。株価があまりにも弱いからね。
記者:そうなんです
鈴木:株というのは半年から9ヵ月先を読んでいます。ということは、どうもマーケットは、年明け後から来年度に入るあたりのところを心配しているのかな。と。しかし、少なくとも年内は心配しなくていい。ただし来年のことなら、私も心配しているんです。
記者:その心配の根拠は?
鈴木:それは森内閣の政策姿勢がはっきりしないからですよ。最近、またぞろ財政再建の声が高くなってきている。すると、橋本内閣の97年度予算のような赤字削減最優先の路線に転換するのか、それとも小渕内閣の経済再生に集中した路線でいくのか、現段階では読み取れない。
【株が弱気になっている理由】
記者:小渕内閣は自自連立政権で、そのときは両党が合意して経済政策を決定した経緯がありました。
鈴木:そうです。自自連立の合意内容は、1999年度と2000年度は景気刺激型でいく、それで民需が出てくるだろうから2001年と2002年は中立でいく。そして民需主導がしっかり定着したのを見届けて、2003年から赤字削減に取りかかる、と。
記者:ちゃんと覚えています。
鈴木:この合意を基本にした経済政策がどこかにいってしまった、これにマーケットが不安をもっていると思います。特に、森内閣がいつまで続くかわからない。そうすると、ポスト森は加藤紘一さんでしょう。
記者:そう目されていますね。
鈴木:加藤さんというのは、橋本内閣時代に97年度の超デフレ予算を組んだときの自民党幹事長ですよ。もう一人の盟友の山崎拓さんは政調会長、それからYKKでいえば、小泉純一郎さんはもう強烈な赤字削減論者(笑い)。しかも、大蔵大臣の宮沢さんもふらふらしている。そのたびに発言がふれるから…(笑い)。
記者:(笑い)あれは比喩ですかね。
鈴木:(笑い)そういうわけだから、来年の経済政策に対して、市場は心配になっていると思う。それで株が弱いのだと思います。
記者:ですから、せっかく景気が回復基調にきたと思われる時期に、またぞろ財政再建でこられると、おっしゃるとおり橋本内閣の末期と同じ状況になってしまいますね。
鈴木:その可能性があると、市場は心配しているわけです。いま設備投資が強くなってきています。やがて個人消費ももう少ししっかりしてくるでしょう。しかし、来年に入ったところで経済が読めなかったら、思い切った設備投資ができないでしょう。投資した設備が完成した時に不況だったら、えらいことになってしまいますからね。
記者:その設備投資は、いまIT関連が引っ張っているといわれています。IT以外の設備投資はどうなんでしょうか。
鈴木:みなさん方は、IT関連というと例えば、通信事業のようなインターネットシステムをこらしえているソフトメーカー、また半導体や液晶、コンピュータなどのハードメーカーといった二つだけを見ているようですが、三つ目のジャンルがあるんです。
記者:というと?
鈴木:つまり企業がインターネットを通じて取り引きをおこなう、その結果として取り引きコストを下げ、人員を節約し、経営効率を上げて生産性を向上させて行くという動き、これは業種に関係なく起きています。この投資がいま出てきているわけです。したがって、政策さえよければ、この設備投資はあと2年でも3年でも続いていくと思います。
記者:しかし心配なのは、先ほどおっしゃったように、企業は思い切った設備投資ができない。先が読めないから、投資に慎重になっている。
鈴木:そういうことです。
記者:そうなると、企業が安心して大型投資ができるような政策を掲げなければいけませんね。
鈴木:だから、年内に政界再編が起きて、もう少しみんなが信頼するような政権を樹立する必要があると思います。その新しい政権が自自連立政権の政策合意のように、赤字削減は数年先にやる。まずは当面、景気をしっかりさせて、税の自然増収で赤字を減らしていく、と。このぐらいのことをバーンと断言できる政権が出てこなければいけません。そうなれば、みな安心して大型投資をやりますから、設備投資リード型がずっと続きますよ。
【来年の景気は補正予算の中身次第】
記者:ところで、景気の下支えのために補正予算が話題になっていますが、9月21日から始まった臨時国会で当然議論されるんでしょうが・・…。
鈴木:連立与党はすぐに出してこないでしょう。出るのは11月。
記者:実際のところ、まだ景気のための補正予算は必要ですよね。
鈴木:それは必要ですよ。だけど中身が公共投資拡大である必要はない。中身は減税でもいいし、介護保険料徴収ストップだっていいわけですよ。
記者:では、今回の補正予算はどのくらいの規模がいいと思いますが。いま、いわゆる真水で3兆円だとかいわれていますが。
鈴木:いや、規模の問題じゃない。
記者:というと?
鈴木:公共投資で真水3兆円という場合と、減税や介護保険料徴収ストップで3兆円という場合は、影響が全然ちがうからですよ。公共投資の場合は影響がドーンと出るけど、すぐにヒューとしぼんでしまう。減税だと、ジリジリと出ていって2年間は効きますからね。全然効果が違う。いま設備投資が伸びている一つの理由は、自自連立内閣でやった9.4兆円減税がまだ効いているということ、2年間効いているわけです。
記者:なるほど。
鈴木:来年に入って息切れを起こすかもしれないというのは、この減税の影響が消えてしまうからです。だから、規模の問題じゃない。
記者:政策効果が違うということですね。
鈴木:そうです。例えば、地方にバラまく在来型の公共投資だと、関連したゼネコン業界にしか恩恵はいかないでしょう。しかし、減税とか介護保険料の徴収ストップだと、すべての日本国民に影響します。効果が全然違うわけですよ。
また、同じ公共投資にしても、IT関連をやれば民間の設備投資を誘発するでしょう。穴を掘ってやれば、光ファイバーを引く民間の設備投資がそのあと追っかけてきますよ。ですから、補正予算の内容によっての誘発効果が全然違うし、効果の長さも違うから、規模がいくらといった単純な話ではないということです。
記者:すると、来年の景気動向は補正予算の中身によって決まってくることになる。その意味で、今回の臨時国会は非常に重要ですね。
鈴木:ですから、国会の補正予算をめぐる政策スタンスに対して、マーケットや企業家がどう読むかが大事なんですね。その補正予算をみて、これなら大丈夫だと思ったら、株価は上がりますよ。株式市場が反応しないような補正予算だったら、本当に来年は危ないですね。
【不透明な政局が経済政策に影響】
記者:森内閣は小渕前政権の政策を引き継ぐということで発足したと思います。それだけに自自連立で合意した経済政策を続けるのではありませんか。
鈴木:旧小渕派がそれをしっかり支えるかどうかでしょうね。
記者:しかし、その旧小渕派もいろいろあるようで……。
鈴木:内輪もめしているし、森首相のほうには小泉さんがいるからなあ。さっきもいったように、あの人は神がかり的な財政赤字削減論者だから(笑い)。宮沢さんのほうには加藤さんがいるしねえ。さらにいえば、11月に補正予算が出てくるでしょうけど、その前にまず10月の国会を乗り切れるのかどうかという話も出てますよ。
記者:これまでの先生の話を聞いていると、政府の純粋な経済政策に加えて、もうひとつ政局ということも合わせて考えていかなくてはならないようですね。
鈴木:そう。株価が弱い理由の一つにそれがあると思います。経済政策の戦略が見えないことが最大の理由だけれども、同時に、政局がどうなるか分からないから、経済政策の先が見えない、と。経済政策の先が見えなかったら、来年の経済がどうなるかわからないんだから大型投資なんてできない。そんな判断が市場にあると思いますよ。
記者:エコノミスト議員である先生のインタビューで、政局が話題になるのは非常に珍しいことですね。
鈴木:(笑い)そう、そう。最近は経済学というより、"政治経済学"の専門家ですよ。
記者:それほどに今回は政局がらみだということですね。
鈴木:だって今度は自民党、例の外国人の地方参政権問題で分裂するかもしれないでしょう。意外や意外、そんなことで政界再編というのは起こり得るわけですよ。
記者:その程度で?
鈴木:いや"その程度"どころではない。それは要するに、公明党ベッタリの野中路線対YKK路線の対立というか、ここまで公明党のいいなりになっていいのかという話ですよ。外国人の地方参政権に反対ということは、公明党と対立するという決意をするということです。そういう決意ができる保守系とそうでない保守系に分かれる、と。これは政界再編成ですよ。ですから、単なる永住外国人の地方参政権の問題ではない。政治路線の対立です。
そんなことがわかっている人であればあるほど、来年の経済はわからないということになってくる。つまり、新しい政権が誕生するかもわからない。当然、その政権がどういう政策をとるかもわからないから、まあ設備投資も慎重にしておこう、来年の経済は危ないかもしれないということでしょう。それを読むから株も弱いということでしょうね。