消費税の一時引下げと目的税化 (『論争・東洋経済』原稿1998年12月1日号)
二年連続のマイナス成長は、短期(九七年度超デフレ予算の執行と九七年十一月財革法成立による成長期待の低下)、中期(不良債権処理の先送りに伴なう負の資産効果)、長期(規制緩和、行政改革等構造改革の遅れ)の失政によるものだ。日本の金融危機の原因やアジア通貨危機の背景も、このような日本の政策不況であり、今や相互に悪影響を及ぼし合っている。
三つの政策不況要因のうち、最も影響が大きいのは短期的要因である。日本経済は、中期と長期の政策不況要因を引きずりながら、九六歴年には三・九%成長を達成した。それを九七年度以降のマイナス成長に引きずり降ろしたのは、短期政策の失敗である。また短期的な景気回復が続いていれば、中期の不良債権処理も長期の構造改革もやり易かった筈であり、短期政策失敗の影響は大きい。
経済失政を引金として起こった景気後退は、今や内生的要因によって自律的に進行している。内需減退が生産調整を通じて雇用と所得を悪化させ、それが購買力と心理の両面から個人消費、住宅投資を冷え込ませ、生産、雇用、所得の調整を更に深刻化している。
その過程で、遂に設備投資が本格的に落込み始めた。マイナス成長の持続で期待成長率が著しく低下し、新たな設備ストック調整が始まったからだ。
僅かなプラス要因は、純輸出と公共投資である。しかし純輸出は、米国の成長鈍化に伴なう世界同時不況の兆しと最近の円安修正を考えると、今後の景気の牽引力としては期待できない。公共投資は、第一次補正予算の影響がようやく出始め、本年九月頃から受注ベースで上向き始めた。また在庫調整が進んで生産に下げ止まり傾向が出ている。うまくすると本年十〜十二月期にマイナス成長が止まるかも知れない。ただ公共投資の倍の規模を持つ設備投資が下落していることを考えると、プラス成長に転じても僅かであろう。
始めに述べた三つの不況要因のうち、中期の金融問題については、預金者保護十七兆円、破綻金融機関処理十八兆円、不良債権早期処理後の資本注入二十五兆円、合計六十兆円の枠組みが与野党の協力で出来た。景気回復の一つの必要条件が整った。更に十分条件に高めるためには、長期の構造改革につながる短期の内需拡大策を打ち出す必要がある。
公共事業には冗費が多いので、情報や環境関係の公共投資など新しいニーズを除くと、これ以上予算を積み増すべきではない。高水準を維持しながら内容を大胆に切換え、また補助金や入札の在り方を変えて無駄を排除し、実質工事量の確保に努めるべきだ。
対策の中心は、税制や年金の改革につながる大型減税によって、個人の労働意欲や企業の投資意欲をかき立てることに置くべきである。いわばサプライサイド対策だ。
まず消費税率を地方消費税を残して一%に引下げ(十兆円減税)、十一年度末まで据置く。その間に地方消費税は付加価値を外形標準とする法人事業税に切換える。ゼロとなった消費税率は使途を基礎年金、高齢者医療、介護に限定した社会保障目的税としたうえ、十二年度から毎年二%づつ六%まで引上げて買急ぎを誘う。同時に所得税制度減税と年金保険料の引下げを毎年五兆円づつ実施し、消費税増税を相殺し、前述の十兆円減税を恒久化する。他方、法人課税については、来年から実効税率の四〇%への引下げ、情報機器の加速度償却、連結納税制度導入などを実施する。これらによって、二年後の日本経済は三%程度の能力成長経路に戻るであろう。