小渕内閣の経済再生は不可能 (『改革者』原稿1998年10月号)

【まるで反省のない自民党と内閣】

参議院選挙の結果、自民党が惨敗したことを受けて、橋本内閣が退陣して小渕内閣が成立しました。橋本内閣退陣の理由は言うまでもなく、九七年度の国民負担九兆円増と公共投資削減三兆円、合計十二兆円の超デフレ要因を含む予算を執行してマイナス成長に押え込んでしまった。そのうえ、北海道拓殖銀行、山一證券等の破綻という金融危機が発生した十一月に、こともあろうに二〇〇三年までの財政政策の手足を縛る財政構造改革法を成立させて、政策不況に追い打ちをかけた。これに対して国民の厳しい審判が下ったからです。

代わって小渕内閣が登場したわけですが、これは橋本亜流内閣であって、国民の審判を真摯に受け止め、反省してつくり直した内閣とはとても思えません。

その証拠に、小渕総理は橋本内閣の外務大臣でした。憲法に明記されていますように、内閣には連帯責任があります。小渕さんも橋本内閣の政策不況に対して、連帯責任があったわけです。その人が内閣の首班になるということは、国民に対する責任を何と考えているのかと思います。

小渕さんだけではなく、橋本内閣を支えていた自民党の役員のうち、総務会長の森喜朗さんが幹事長になり、幹事長代理の野中広務さんは官房長官になりました。この点から言っても本当の意味の責任をとっていないと思います。

小渕総理の所信表明演説を聞いて、私は呆れ果てました。先ほど言いましたように、今まで緊縮財政をとって失敗し、国民に批判されたわけです。そこで今度は、「七兆円の恒久的減税をします。十兆円の事業規模の第二次補正予算も組みます」といって、今までとは正反対の積極財政に一八〇度の転換をしたわけです。

それならば、今までの政策のどこが間違っていたのかということを、国民に分かりやすく説明して、陳謝すべき責任があります。これを「説明責任」といいますが、そういう説明をまったくしてはおりません。その意味では、説明責任を欠いた内閣だと思います。

【内閣と宮沢蔵相の経済認識の誤り】

そういう内閣ですが、九一年から八年間も停滞している日本経済の立て直しを最大の使命とした「経済再生内閣」だと言っています。この責任のほとんど全部を背負って現れたのが、宮沢蔵相だということになります。

したがって、宮沢蔵相は、日本経済を立て直すことと、日本経済の足かせとなっている不良債権問題を解決することが、二つの大きな任務になっているのです。しかし、これまでのところ、小渕総理、あるいは宮沢蔵相の国会答弁などから判断しますと、宮沢蔵相はこの二つの任務を果たせないのではないかと思います。そして小渕内閣は日本経済を再生することができない無能内閣であることがはっきりして、遠からず行詰まるのではないかと見ています。

まず経済の建て直しができないだろうと思う理由です。小渕内閣は七兆円の恒久減税と、十兆円の事業規模の第二次補正予算を、来年の一月の通常国会に提出すると言っています。この第二次補正予算と来年度予算を合わせて「十五ヵ月予算」と言っていますが、この予算が実際の効果を発揮してくるのは、来年四月以降になるでしょう。これでは手遅れです。

なぜ、こんな悠長なことを言っているのかと言いますと、今年度の経済は先の予算規模六兆円の第一次補正予算によって、秋口以降はプラス成長になって落ちついてくるという認識をもっているからです。この小渕内閣とそれを支えている宮沢蔵相の認識はとんでもない間違いです。

今の日本経済は一種の自律的な悪循環によって、マイナス成長になっているんです。過剰在庫を調整するために生産調整をする。それで失業率が四・三%まで上がってきた。就業している人たちも時間外手当とボーナスが減って、賃金はマイナスになった。つまり雇用者が減って賃金もマイナスですから、相乗的に個人の所得は落ちる。

すると、個人消費も住宅投資も落ち込みますから、いくら生産調整しても過剰在庫は減らない。そこで、さらに生産調整をするという悪循環が、自律的に進行しているのが現状です。

【戦後最悪の二年連続のマイナス成長】

そういう中で恐るべきことは、ついに設備投資がかなりのスピードで落ちはじめたということです。設備投資は今年の一〜三月期からマイナスでしたが、その幅が大きくなっています。ですから、本年度の設備投資はうっかりすると一〇%近いマイナスになるのではないかと思います。設備投資は公共投資の倍の額です。だから公共投資を一〇%増やしても、設備投資が五%落ちたらゼロになるわけです。

本年度の当初予算で公共投資がマイナスだったものですから、十六兆円の事業規模で追加された公共投資では、一二%のプラスになるだけです。そこへもってきて、設備投資が一〇%近いスピードで落ちてきていますから、第一次補正予算の効果はほとんどないと見ていいでしょう。

九一年から九三年にわたる三年間の平成不況で、同じ経験をしています。六十兆円にも及ぶ公共投資を追加したが、景気は立ち直れなかった。それは公共投資の増加分以上の、設備投資のマイナスがあったからです。このことに対する危機感が小渕首相にも宮沢蔵相にもまるでない。宮沢さんは経済通だといわれますが、凡そ経済の読みができない人だと思います。

堺屋企画庁長官は、今年の成長率は〇%プラス・マイナスαだといっていますが、私はマイナス一%プラス・マイナスαだと思います。ですから、二年連続マイナス成長ということです。こんなことは第二次大戦後一度もなかったことで、大きな事態です。

来年度に七兆円の恒久減税をやると言っていますが、今年四兆円の減税をやっていますから、ネット減税はたったの三兆円です。また第二次補正予算で十兆円の公共投資をすると言っていますが、この「十五ヵ月予算」の公共事業も、第一次補正後の九八年度予算に比べますと横ばいです。これでは、今年のマイナス成長から立ち上る力はありません。

そういうわけで、小渕内閣には経済の建て直しができない。それどころか、彼らが予想もしていないような形で景気がさらに崩れてきて、大変な難局につきあたるでしょう。

【対症療法よりも優先すべき景気対策】

政府・自民党は、今国会に提出している「金融六法案」が成立しないと、金融危機が起ると言っていますが、これは真っ赤な嘘です。「金融六法案」は、いま起ろうとしている金融危機に対してはまったく無能な法案です。その証拠には、経営困難が表面化した長期信用銀行の処理に、ブリッジバンク法案は関係ないと言っています。ブリッジバンクは小さいところなら使えますが、長銀クラスの大きなところになったら何の役にも立ちません。

それに、いま問題になっている長銀の問題について、政府はまったく矛盾した説明をしています。長銀は経営破綻をしていない。だから五千億円以上の公的資金を注入してもいいんだと言う。それでは何故注入するのかというと、システミックリスクがあるからだと言う。しかし、破綻していない銀行が、決済システムや金融市場の混乱というシステミックリスクを起こすわけはありません。これはまったく矛盾しています。

次は、権利調整委員会をつくるという法案です。これは経営破綻とは関係なく、担保不動産の権利が複雑になっているために担保不動産の売却や不良債権の回収ができないで困っている一般的な状況に対して対応しようというものです。これは「平成の徳政令」のようなもので、ゼネコンを救済するための法案です。

残る四法案は自民党の議員立法ですが、ないよりはましという程度のものです。ですから、「金融六法案」が通ろうが通るまいが、いま直面している金融危機は防げません。そういうわけで、金融危機対策という面でも、宮沢蔵相は立往生するでしょうね。

政府も宮沢蔵相も金融危機を解決する能力を欠いていると思います。

金融機関が破綻したときは三つの分野で問題が起ります。一つはシステミックリスクで、決済システムや金融市場の混乱が起きます。二つは預金の支払不能です。三つは貸出先の企業の連鎖倒産です。

政府の「金融六法案」を見て、この三つの問題に対応しているものは、ブリッジバンクが三番目の問題に対応しています。破綻した銀行を政府が引き取って、ブリッジバンクと称して経営を続けることです。その対象となるのは、「善意かつ健全な企業」だと言っていますが、そういう企業でしたら、他の銀行へ移れるわけですから、それができないのは健全ではないからです。そういう企業を引き受けて公的資金で融資を続けようというわけです。

これは銀行とゼネコンなどを中心とする、不健全な企業の救済です。そこへ公的資金を導入しますと、ブリッジバンクと称する政府の銀行に、不良債権がどんどん溜まってしまいます。

ですから、ブリッジバンク法案というのは最悪です。それに、そうした効果のない対症療法よりも、そうした事態を予防するための景気対策が優先すべきです。景気がよくなれば、それらの問題は発生しないからです。

【政府案に優る三野党の共同対案】

こういう政府・自民党、あるいは宮沢蔵相の解決能力のなさを見抜きまして、われわれ野党が世界的にも評価されるような対案を出そうと思っています。いま三党協議をしていますから、間もなく対案ができ上がり、国会に提出されます。

いま私の頭の中にある野党案は、こういうものです。

まず第一のシステミックリスクについては、日銀法第三八条による特融で止めることができます。信用秩序に問題が生ずると思われるときは、大蔵大臣が総理大臣と協議のうえ、日本銀行の政策委員会に対して特融を要請することができます。要請を受けたら日本銀行は自主的に判断して、特融をするかどうかを決めます。特融というのは、無担保で危ない銀行に金を貸すことができるものです。

また、日銀が特融をするときには、二五%の引当金を積みますが、ここに公的資金を入れて、十分引当金が積めるようにすれば、特融が日銀の財務を不健全化することはありません。

それから二番目の預金者保護です。これは預金保険機構に十七兆円の公的資金を入れてありますので、当分大丈夫だと思います。これがなくなるという事態は考えられません。

三番目の取引企業の問題です。中小企業の中には債務超過ではなくて資産超過なのに取引銀行を移せない企業、一期二期の赤字は出しているが、累積の欠損はないというボーダーラインのものが、第二分類の中に居ることは確かです。それに対する対策としては、信用保証協会の保証枠を拡充強化することによって対処できると思います。

第二分類のグレーの債権は、自己査定の結果を見ますと、今年三月末で、すべての金融機関を合わせて八十兆円です。

ですから、十兆円を信用保険公庫に特別枠として積めば、回収不能率を二割として、その五倍の五十兆円まで信用保証ができるわけです。まさか全金融機関が潰れるわけはないし、仮に四分の一が潰れても二十兆円です。そこへ五十兆円の枠を用意すれば十二分でしょう。

以上のように、わが野党は三つの問題にきちんと対応しています。野党案の方が政府案よりいいんですから、これに小渕内閣、宮沢蔵相そして自民党が「恐れ入りました。そっちの案の方がいいです」と言って丸呑みしてくれて、これが成立することを願っています。

しかし、それがいやで、われわれの案を衆議院で潰してしまいますと、政府案が参議院を通りません。そうすると金融関係法案は何も成立しないということで、小渕内閣が政治的には窮地に陥るでしょう。

【任務を果たせない宮沢蔵相】

以上のような次第で、日本経済建て直しについて宮沢蔵相は、いまの足もとの景気を見誤っていますから、大失敗は時間の問題です。それから金融六法案についてはわれわれ野党案に乗ってこない限り立往生しますから、宮沢蔵相は、その任務を果たせるとはとても思えません。

宮沢さんがこの国家的危機にあのお歳で蔵相になられたことには、敬意を払いますけれども、あの方はご存じのようにバブル発生のA級戦犯です。先の蔵相時代の八五年八月のプラザ合意の後、特に八七年二月のルーブル合意の後、日本銀行に対して、「絶対に金利を上げてはならない。ドルの下落を防ぐのは至上命令だ」と言って強引に緩和持続をさせて、その結果バブルが発生したんです。

その後総理大臣になったのは九一年ですが、そのときはもうバブルが崩壊しはじめており、その後遺症が出ていました。私らが、バブル問題の処理を上手にやらないとえらいことが起きるぞと言っているときに宮沢内閣は、「資産倍増計画」を打ち出したんです。まだ地価が暴騰したバブルに酔いしれて、日本を立派にするのは資産倍増だと主張したんです。

いかに時代感覚がないか問題意識が的外れかということが、その一事をもってしても分かります。資産倍増どころか資産整理をしなければならない局面のときに、資産倍増という、さらにバブルを起こすような主張をされたわけです。

したがって、この難しい局面にお出ましいただきましたが、残念ながらとても任務を果たすことは無理でしょうというのが私の結論です。

(すずき よしお・自由党衆議院議員、前野村総合研究所理事長、元日銀理事)