小渕首相では不良債権問題は解決せず、来年早々にも解散・総選挙

(『エコノミスト』原稿1998年8月4日号)

【小渕首相では不良債権問題は解決せず、来年早々にも解散・総選挙】
 梶山静六氏、小泉純一郎氏、小渕恵三氏の三人の自民党総裁候補に共通するのは、財政構造改革法を凍結ないし廃止すると表明していることである。
 これによって橋本財政改革路線は180度転換し、恒久減税の実施、積極財政への転換が可能になる。この限りでは、98年度は再びマイナス成長で、2000年度までせいぜいゼロ%台のプラス成長しか望めないだろうと考えられていた日本経済に対する見通しは好転する。98年度も下期にかぎればプラス成長の可能性もある。ということで3者のうちの誰が総裁になっても株価、為替相場は底を打つだろう。
 橋本内閣は、97年度に9兆円の国民負担増を強いる超デフレ予算を組んだうえに、山一証券などの破綻で金融システム不安が頂点に達した同年11月に財革法を成立させるという大失敗を犯した。この路線の転換をはっきり表明している点では、3候補とも評価できる。
 しかし、その他の点では三者三様に不安がある。
 まず小渕氏だが、完全に橋本・加藤・山崎トライアングルの延長線上にいる。
「橋本氏の6大改革は正しい。その路線は継承する」と言っているが、この発言と財革法凍結は全く矛盾している。小渕氏は結局、自民党主流派である旧体制のうえに乗り、橋本経済戦略の尻尾を引きずることになるだろう。
 金融再生トータルプランについても、橋本時代の原案どおり国会に提案するだろう。それは不良債権問題のあいまいな処理を意味し、当然、野党は反対する。そうなると参院で立ち往生し、来年早々には解散総選挙に追い込まれる可能性があるのではないか。

梶山、小泉氏なら党内で立ち往生

 次に梶山氏。不良債権処理を日本経済立て直しの中心課題と言っているが、梶山構想には2つの危うい点がある。
 1つは、不良債権処理の方法である。第四分類(回収不能債権)は100%、第三分類(回収に重大な懸念のある債権)は75%、第二分類(回収に注意を要する債権)は20%の引き当てをさせると述べているが、第二分類は景気が良くなれば優良債権に変わる可能性がある債権である。これに20%の引き当てを強いるということは、法人税の実行税率からして40%の引き当てをさせるのと同じことになる。この政策を実行すると、主要銀行の半分以上は債務超過に陥りかねない。梶山氏は、今は荒療治が必要な時と述べているが、金融システムが破綻した時の恐ろしさを知らないのではないか。
 私は梶山構想に以下の2点を追加する必要があると考えている。1点目は、不良債権の償却財源として、所有不動産を時価評価して発生する含み益を使えるようにすることである。さらに償却を無税で行えるという特例法を2年ないし3年の時限立法で成立させる。こうした措置を講じず、償却の財源を利益のみに頼ると、必要以上の銀行が破綻することになる。
 2点目は、不良債権の担保不動産の流動化である。トータルプランは一歩前進ではあるが、あれだけではとうてい流動化は実現しない。そこで民法、破産法、競売法などを網羅する民事特例法を2年ないし3年の時限立法でつくり、公権力が強制的に抵当権の権利関係を整理できるようにする。具体的には、交付公債と引き替えに抵当権を消滅させる。そして優良な資産に仕立て直したうえで銀行がその不動産を売却し不良債権を回収する。そして融資額と回収額の差額は償却する。戦後最大の不況に直面しているいま、危機管理体制として私権を制限することは何ら問題ないと考える。
 梶山構想へのあと1つの懸念は、不良債権問題を解決さえすれば、景気が回復するようなことを言っていることだ。不良債権問題の解決は、景気回復への必要条件ではあるが、十分条件ではない。十分条件とは、恒久減税で人々の勤労意欲や投資意欲を引き出し、民需主導型の経済を創出することである。梶山氏もこの点について若干触れてはいるが、非常に弱い印象を受ける。
 最後に小泉氏。財政再建最優先を唱えていた彼のこれまでの主張とは全く正反対の借り物の政策を述べている。誰の政策かといえば、自由党の政策(「日本再興へのシナリオ」)の丸写しである。政治家が主張をコロコロ変えてよいのだろうか。
 以上のように三者三様に不安がある。小渕氏が首相になった場合は、野党は一斉に立ちはだかり解散総選挙に追いつめるだろうが、梶山、小泉案は野党案に近い。そこで野党は、日本再興のためにしばらくは協力するかもしれない。ただし、野党の考えを取り入れれば入れる程、自民党内で足を引っ張られて立ち往生するだろう。(談)

(すずき よしお・自由党衆議院議員、前野村総合研究所理事長、元日銀理事)