金融危機を招いたのは、橋本政権の失政だ (『エコノミスト』原稿1998年3月3日号)

貸し渋りはなくならない

日本の危機は、「政策不況」。あるいはそういう政策の失敗をした総理が作った「橋竜不況」です。「政策不況」といったときに意味が2つあって、1つは9兆円の国民負担増加と3兆円の公共投資カット、全体で12兆円の超デフレ予算を97年度に組んだ。そのことによる不況という意味。日本経済は、95年度2.8%成長、96年度3.2%成長ということでようやく設備投資も上向いて回復しかかっていたのに、この12兆円の超デフレ予算で政策的に景気を叩きつぶして97年度はゼロ成長ということになってしまった。
2番目は、こういうデフレ予算を組めば政策不況になる。政策不況になれば、まだ不良債権が相当残っているのだから金融危機が訪れるということは目に見えていた。にもかかわらず住専処理の失敗で国民に非難されたあと、金融三法の枠組みのままで、何の手も打たないできた。「大銀行はつぶしません」「信組以外は公的資金を投入しません」といって、無策で過ごした。この結果、いま金融危機が発生している。
しかもこの日本の「不況」が背景となってアジアに経済危機が発生してしまった。アジアは外国資本をどんどん導入して、発展をするという戦略を取ったものですから、外国資本の為替リスクを無くすため通貨をドルにペッグしていた。しかしドルにペッグしていたのでただでさえ競争力を失っているアジア諸国に対して、追い打ちをかけるように政策不況の日本が円安で輸出攻勢をかけたわけです。それで彼等の赤字はどんどん拡大していって、もうとてもこれは固定相場を維持できないなというので、一斉に投機筋が資本を引き上げた。とうとうコントロールの効かない通貨暴落になってしまった。その結果、それを止めるべく国内で金利を上げるものですから、国内においても金融危機と大不況が発生してしまった。

【アジア経済も混乱させた罪】
 日本がもし逆に順調に発展していて円高傾向だったらこんなひどいことにはならない。だから日本経済がアジアを混乱させたということを自覚しなければいけない。「橋龍不況」は罪が重い。
旧新進党が主張したように一年前に2兆円の特別減税を継続すれば、あのときはまだ景気は続いていたのだから、景気を支持する上で効いた。だけどいまはもう景気後退が始まってしまった。経済は生きものですから一度下を向いたら弾みがつきますから、弾みがついて景気後退が始まっているときにたったの2兆円の特別減税復活で止められるわけがない。
もう一つの「政策不況」であるところの金融システム対策の無策については、もうさすがに我慢できなくなった。日本で金融恐慌になったら世界の金融恐慌の引き金を引きかねない。そこで30兆円用意した。20兆円の政府保証による借り入れ、それから10兆円の交付国債、いずれも最後の財源は血税です。
この30兆円の中身は2つに分かれるわけで、17兆円が日本版RTCです。それから13兆円が日本版RFCです。日本版RTC、すなわち信用組合以外にも預金保険で破綻金融機関の預金等を保障しきれないときに公的資金を入れる。この仕組みは、そもそも旧新進党が住専処理の頃から言ってきたことです。つまり、信用組合にしか公的資金を入れませんなどという枠組みではダメだ。破綻金融機関の預金を2001年3月まで保障するなら、あらゆる破綻金融機関について経営救済ではなくて預金の支払資金の不足分を公的資金で補給するという枠組みをつくらないといけない。
旧新進党は現に住専処理のときに不良債権処理公社案というのを出したのです。あれが日本版RTCです。あれは会社更生法を前提として、破綻金融機関の経営者の民事上、刑事上の責任をきっちり追及をする。同時に、破綻金融機関の不良債権の強力な回収をしてできるだけ公的資金の負担を小さくする。それでもカネが足りなかったら公的資金を入れる、これが不良債権処理公社案だったのです。

【遅きに失したが】
 これを自民党は一顧だにしないで、2年たったいまようやく今度の預金保険法改正で、整理回収銀行は、信用組合だけではなくてその他の銀行についても、不良債権の強力な回収をするとき応援しますよ、それから柔軟な条件で信用組合以外にも預金の資金が足りなくなった場合は公的資金を入れますよ、そういう枠組みをつくってきたわけです。ですから私は今度の預金保険法の改正案というのは、2年間も遅れてまさに遅きに失したとはいえ、ようやく出てきたかという意味で賛成なんです。
しかし、去年の暮に預金保険法を改正して特定合併というのを加味したのです。この特定合併というのは、2つ以上の金融機関が破綻したときに受け皿銀行がない場合で、しかもその地域や業界にとって不可欠な存在である場合は、破綻機関の不良債権を預金保険機構が買い取った上で、身軽になった破綻金融機関同士を合併させて継続させるという、これが特定合併です。これは明らかに経営救済です。ここへも今度の17兆円が注ぎ込まれるわけです。私はそこには反対です。

【優先株は古い方式】
 次に13兆円の日本版RFCのほうです。これは公的資金で優先株や劣後債を買って自己資本比率を上げ、貸し渋りを解消しようというのがねらいです。これは大変問題のある対策です。RFCというのは1930年に設立して、33年から資本注入をアメリカでしたのです。だけどその結果、経営救済をどんどんしたわけだからモラルハザードが発生した。それから他の産業との間で銀行だけ優遇するのは不公平だという批判も招いた。そして戦後のアメリカでは、こういうやり方は不公平であるからダメだということで、もうすでに決着がついたわけです。戦後のアメリカで固まったのは、システミック・リスク原理といいますが、その経営を救済しないと決済システムあるいは金融システム全体が破綻するようなそういうリスクを持っている場合、これは公的資金で経営を救済しなきゃいかんが、それ以外の場合は破綻した金融機関は整理をする。救済してはいけない、整理するのです。
整理の仕方は2つあって、優良部分を受け皿銀行に継承させるというやり方と、本当に解散してしまうというやり方。どっちがいいかは社会的コストの低いほうを選ぶ。そうすると普通は継承のほうが社会的コストは低いわけです。なんと、拓銀のような大銀行がぶっ倒れても、日銀が最後の貸し手の機能を発揮して、流動性を供給することによってシステミック・リスクは回避した。ところが受け皿銀行の北洋銀行は第二地銀ですから、自己資本比率が著しく下がる。それで増資をしたいがマーケットで十分に増資をする自信がない。こういうケースなら北洋銀行の出す優先株や劣後債を公的資金で買ってもいいと思うのです。これが唯一公的資本注入で許されるケースです。
ところが、あの安定化法案というのを見ると、こういう受け皿のケースと一般金融機関のケースが二つ書いてある。
一般金融機関というのは、一般の金融機関で手を挙げたら、審査の上公的資金を注入して自己資本比率を上げてやる。これは経営救済以外の何ものではもない。アメリカで不公平として退けられたRFCの考え方をそのまま持ち込んだのです。
何が不公平かというと、たとえば自己責任で経営努力で8%あるいは4%の自己資本比率をクリアしている銀行との間で不公平が起きる。隣の銀行は努力もせず、公的資金もらって8%あるいは4%を達成して俺と競争しようとするのかと、なる。と同時に、不公平だということは、逆に言えば資本注入を受ける銀行経営者にモラルハザードが発生する。

【密室行政に逆戻り】
ところがこれを強行しようとしているわけです。どうやって強行しようとしているかと言えば、東京三菱とか三和とかいう優良行はその気になれば自己資本を市場で調達できるわけです。また、今度もし不動産の再評価が認められれば、いいところに店舗をたくさん持っているから、あのへんの再評価をすれば軽く8%をオーバーします。要らないのに公的資金を受け入れると、今度経営干渉が強まります。それはそうです、公的資金を入れる以上は一般に情報公開をしていないようなところまで政府は土足で踏み込んできて経営干渉をしますから、そんなのごめんこうむると最初のうち優良行は言ったのです。
そうしたら今度は不良行が悲鳴をあげた。「手を挙げる銀行はみんな不良行のレッテルを貼られてしまうではないか。俺たちはのどから手が出るほど公的資金が欲しいが、手を挙げるわけにはいかない」と泣きついた。そうしたら大蔵省は優良行を密室に引っ張り込んでまた行政介入をやった。天下国家のためだ、おまえも公的資金を受けろ。ビッグバンに備えてこれからは事前協議型の介入行政から事後チェック型のルール行政に変わると言っている矢先に、まさに事前介入型の裁量行・!@/$NI|3h$r$d$C$?!#「七人委員会」なんて隠れ蓑に決まっています。密室を委員会という名前に置き換えた。だからこの13兆円には大反対です。
 最後につけ加えると、13兆円を注ぎ込んだとしても私は貸し渋りは直らないと思う。なぜならいまの貸し渋りは、3月末の自己資本比率4%あるいは8%をクリアできないから貸し渋りしているというのは実は口実。とくに株が1万7迚~前後まで回復したらこれは楽にクリアできるし、それから今度土地の再評価の法案が議員立法で超特急で成立しますから、楽にクリアできる。
それなのにクリアできない、できないと言って貸し渋り、貸し渋りを通り越して貸し出しを回収しています。メインの先は温存しているが、メインじゃなくてつき合い貸しをしているところから一斉に引き上げている。その狭間で沈没したのが東食です。
本当のねらいはビッグバンに備えてのリストラなんです。融資構造の改革を彼等は始めている。融資構造のリストラを始めているのです。それに気がつかんで、口実である自己資本比率が下がったというのに引っ掛かって13兆円カネを出す。馬鹿げています。13兆円カネ出しても貸し渋りなんか解消しない。経営戦略の転換なんだから。この経営戦略に基づく融資構造の変革というのはずっと続きますよ。
本会議の代表討論でも言ったのだが、株価が日経平均で1千円上がると大銀行19行の含み益が2.4兆円増えて、そして自己資本比率が0.3%上がるのです。それから円相場が10円円高になると自己資本比率は0.1%上がるのです。だから13兆円なんか振り向けなくたっていいのです。その半分、6.5兆円を景気対策に振り向けたら何が起きるか。
株価は96年6月の2万2千円をピークに政府のデフレ予算と無策を嫌って落ち始めた。一応景気が戻ってくるということをみんなが確信して、仮に2万2千円に戻るとしますと、底の1万5千円から数えて7千円戻る。さっきの計算で2.4兆円の7倍といったら17兆円ぐらい。13兆円を軽く上回る。17兆円資本注入したと同じ話になる。そして0.3の7倍、2.1%自己資本比率が上がるのです。それから円相場が20円上がればさらに0.2%自己資本比率は上がる。だから本会議でも「13兆円の資本注入をはるかに上回る資本注入と同じ効果が出るよ」と言ったのです。
ところが金融システム対策に30兆円用意して、そして景気対策にたったの2兆円しか用意していない。それも減税の復活です。こういう馬鹿なことをやっていないで、30兆円のうちの6.5兆円だけこっちへ持ってきてごらん、そうすると30兆円が要らなくなるよという話だが、橋龍は分からないのか、大蔵省の財政再建路線にしか目が向かないのだ。(談)

(すずき よしお・自由党衆議院議員、前野村総合研究所理事長、元日銀理事)