内外経済の現状と明年以降の展望(H22.12.18)
1.「失われた10年」(図表1)のインプリケーション
(1)米欧で解釈が対立
「資産バブルの発生」に対し、事前に引き締めなかったから(欧)
「 〃 崩壊」 〃 事後に果敢な緩和をしなかったから(米)
(2)バブル崩壊後の生産の落ち込みは、今回の方が「失われた10年」より大(図表2)
2.米欧のマクロ経済政策の行き詰まりと停滞の長期化―日本の経験の一般化
(1)果敢な金融政策(図表3)と大型財政出動
(2)マネタリーベースの増加は広義マネー、銀行貸出のいずれの増加にも結びつかず(図表4)
(3)「ギリシャ問題」で財政拡張の追加は不可能に(図表5)
(4)財政緊縮・金融緩和は通貨切り下げ競争・資産バブルの輸出懸念となり国際的批判に直面(図表6)
(5)結果、米欧の成長停滞予測(「失われたx年?」)(図表7)
(6)米国に「デフレ化(日本化)」の恐怖(図表8)
(7)大型の資産バブルが発生・崩壊すると長期間のバランスシート調整が必要となり、支出抑制と信用収縮で経済の長期停滞とデフレ化が起きることが明らかに(日本の経験の一般化)(図表9)
3.アジアが世界経済の成長をリードする
(1)2010〜11年の世界経済成長に対する寄与率はアジア新興国・途上国が48%、先進国が28%(図表10)
(2)2010〜11年の先進国・地域の成長率は日本が最高(図表7)
4.日本の有利な条件、不利な条件
(1)有利な条件:@バランスシート調整完了、Aアジアに存在、Bエネルギー・環境・省エネ・省資源・鉄道などの技術
(2)不利な条件:デフレと低成長
(3)デフレの原因
@一定の需給ギャップに対応するインフレ率が下方シフト=デフレ化(図表11)
A潜在成長率の劇的な低下(図表12)
B潜在成長率とインフレ予想が高い相関(図表13)
C一定の需給ギャップの下での企業の期待成長低下、設備投資の伸び低下(図表14)
D企業の賃上げ許容度の低下(図表15)
5.日本経済の展望
(1)短期:22年度下期(とくに10〜12月期)の停滞はどの程度か
@エコカー補助金などの政策効果息切れ・猛暑効果の反動(図表16)
Aアジア経済とアジア向け輸出の減速がどの程度か(図表17)
B雇用・賃金の緩やかな立ち直りの影響は(図表18)
(2)長期:企業の期待成長率を高めることができるか
@EPAを張りめぐらし、日本の技術を活かした輸出と直接投資でアジア経済と一体化できるか(21世紀版“重商主義”“国家資本主義”?)(図表19)
A国内に雇用を生み出す新成長戦略産業を規制緩和、財政支援、融資優遇などで育てられるか(例えば環境・エネルギー事業、社会インフラ整備・高度化、情報通信事業、医療・介護・健康関連事業、高齢者向け事業、保育・育児事業、農商工一体型大型事業、科学・技術開発など)(図表20)
【参考文献】
木村武ほか「マネーと成長期待:物価の変動メカニズムを巡って」
(日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo.10−J−14)
白川方明「特殊性か類似性か?―金融政策研究を巡る日本のバブル崩壊後の経済」
(2010年9月、日本銀行HP「金融政策」<講演>)
鈴木淑夫『日本の経済針路』(岩波書店、2009年7月)
福岡正夫・鈴木淑夫『危機の日本経済』(NTT出版、2009年6月)