新時代の日本の経済針路と取り組むべき課題(H22.2.18)

―2010年新春講演会(NPOビジネスサポート・21世紀中小企業新興ネット)



レジュメ

1.政権交代のマクロ経済的背景
(1)小泉政権は、低成長・デフレ、不良債権、財政赤字に対し、@緊縮財政とA超金融緩和のポリシー・ミックスで対応
(2)結果、40%の円安=バブル(図表1)で、輸出に偏り内需を停滞させた戦後最長景気(図表2)と、企業収益と勤労者所得の格差拡大を生み(図表3)、国民は「企業にとって良い政策は、家計にとって良いとは限らない」と実感、「国民の生活が第一」のスローガン(民主党)が受けた。
(3)リーマン・ショック後の成長率(図表4の09年)や株価の下落は、世界同時不況の震源地ではないにも拘らず、外需依存体質を強めた日本が先進国中最大

2.リーマン・ショック後1年以上たち日本経済は輸出と家計消費の底入れで緩やかな回復へ
(1)日本の輸出は08/10から前年比マイナスとなり、09/2に−49.4%とほぼ半減したところで底入れ、中国をはじめとする対アジア向けを中心に、09/12現在+12.1%と15か月振りに前年比プラスへ(図表5)
(2)エコ・カー減税・補助金、エコポイント制度など政策効果と消費者物価の下落により、消費性向の上昇を伴って実質消費は09/8以降5か月連続で前年比プラス(図表6)
(3)鉱工業生産・出荷の前年比は08/10からマイナスとなり、09/2の−38.4%、−36.7%で底入れ、09/12現在+5.3%、+5.4%とそれぞれ15か月振り、17か月振りに前年比プラス(図表7)
(4)耐久消費財(エコ関連の家電・乗用車の内需、乗用車のアジア向け輸出)と生産財(アジア向け輸出、化学製品<前年比+83.2%>、電子部品<同+42.6%>、自動車部品<同+77.7%>など輸出と電子部品・自動車部品の内需)が生産・出荷の回復をリード(図表8)
(5)08/U〜09/Vと6四半期下落を続けた設備投資は底入れ、09/T〜Wと4四半期下落した住宅投資もやがて底打ちへ(図表9)
(6)外需(GDPの純輸出)の急落で年率成長率は08/W−11.4%、09/T−12.3%と大きく落ち込んだあと、外需と家計消費の回復で09/Uは+5.2%、09/Vは+0.0%、設備投資の回復も加わって09/Wは+4.6%(図表10)
(7)企業部門では09年度下期に売上高と収益が回復する予想(図表11)
(8)09年2月から急増した失業者、急減した就業者は、6〜7月を境に反転、失業率は8月以降低下、有効求人倍率も9月以降上昇(図表12)

3.本年は回復定着か、二番底か
(1)09/4〜6ないし7〜9からの日米欧の緩やかな回復は、@急激な落ち込みで発生した過剰在庫の調整一巡、A巨額の財政出動と超金融緩和の政策効果発現によるが、@とA(とくに財政出動)はその性格上一過性(図表13)
(2)米欧は家計(住宅価格急落)と金融機関(証券化商品値下がり、不良貸出増加)の「バランスシート調整」の圧力が続き、家計消費の停滞と金融機関の与信収縮は長引く(図表13、14)
(3)日米欧とも財政赤字が大きく(日米10%前後、EU7%、ポルトガル・スペイン10%超、ギリシャ12.7%)、大型財政政策の追加出動には限界、欧州小国は金融危機のリスク、他方超金融緩和が長期化すると資源・資産バブルのリスク(図表13)
(4)アジアの新興国・途上国には上記の(2)と(3)が無いので、本年は(2)と(3)に悩む先進国と新興国がデカップリングする可能性(図表15)
(5)日本には(2)が無く、(4)の恩恵を受けるので、政策よろしきを得れば、本年は日本の回復が米欧より早くなり、つれて円高基調(図表1)が続く可能性(図表4、13)

4.日本経済回復の条件:新政権の課題
(1)新政権の15か月予算(09年度第2次補正と10年度当初)は、麻生政権の拡大予算(09年度当初と第1次補正)とほぼ同規模(102.4兆円対99.6兆円)。税収も同程度の落ち込み(37兆円前後)と見られるので、財政赤字もほぼ同規模。従って15か月予算はマクロ経済に対してはほとんど「中立」的。但し、新政権は基金取り崩しなどにより、国債発行額を麻生予算よりも9兆円抑え、長期金利上昇のリスクを抑制(図表16)。
(2)「中立型」予算に景気刺激効果を与えるため、新政権は事業仕分けや特別会計・公益法人の基金取り崩しなどで捻出した非効率な資金(7.3+10.6兆円)を家計(子供手当)・地方自治体(交付金)・地域経済(高速道路無料化)・中小企業(特別融資)・雇用(保険適用拡大)などの直接支援に回し、内需の立て直しを目指す(図表16)。
(3)新政権はアジアに対する輸出と直接投資(工場・事業所の移転、現地販売網展開、企業買収)を政策的に支援し、アジアと共に発展を目指す(図表17)。単に実質GDPを増やすのではなく、実質GDP(国内総生産)+交易利得+所得収支=GNI(国民総所得)を増やす。
(4)三つの中期計画、@国民のライフステージ毎の機会均等と安全ネットの確立、A低炭素社会の実現(温室効果ガス25%削減)、B新興国・途上国への直接投資と環境エネルギー技術支援の促進、で成長戦略を明確にすることが今後の課題(図表18)。



参考図表