日本経済の現状と新政権の課題(H21.12.18)

―日本工業倶楽部・クラブ関西などにおける年末講演のレジュメと参考図表―



参考文献:鈴木淑夫著『日本の経済針路―新政権は何をなすべきか』(岩波書店、09年7月刊行)
1.政権交代のマクロ経済的背景
(1)01年スタートの小泉政権は、低成長・デフレ、不良債権、財政赤字に対し、@緊縮財政とA超金融緩和のポリシー・ミックスで対応(参考文献52〜57頁)
(2)結果、円安バブルで、輸出に偏り内需を停滞させた戦後最長景気と、企業収益と勤労者所得の格差拡大を生み、国民は「企業にとって良い政策は、家計にとって良いとは限らない」と実感、「国民の生活が第一」のスローガン(民主党)が受けた(参考文献57〜67頁)。







(3)リーマン・ショック後の成長率や株価の下落は、世界同時不況の震源地ではないにも拘らず、外需依存体質を強めた日本が最大



2.リーマン・ショック後1年たち日本経済は輸出と家計消費の底入れで緩やかな回復へ
(1)日本の輸出は08/10から前年比マイナスとなり、09/2に−49.4%とほぼ半減したところで底入れ、中国をはじめとする対アジア向けを中心に、09/10現在−23.2%まで回復



(2)鉱工業生産・出荷の前年比も08/10からマイナスとなり、09/2の−38.4%、−36.7%で底入れ、09/10現在−15.1%、−13.0%まで回復、09/12以降は前年を上回る見込み



(3)消費者物価の下落で実質賃金は回復傾向、エコ・カー減税、エコポイント制度など政策効果もあり消費性向の上昇を伴って実質消費も回復傾向



(4)外需(GDPの純輸出)の急落で年率成長率は08/W−10.2%、09/T−11.9%と大きく落ち込んだあと、外需と家計消費の回復で09/Uは+2.7%、09/Vは+1.3%


(5)09年度下期には売上高と収益が回復の予想  

(6)本年3月から急増した失業者、急減した就業者は、6〜7月を境に反転、失業率は8月、9月、10月と低下、有効求人倍率も9月、10月と上昇




3.来年は回復定着か、二番底か
(1)09/4〜6ないし7〜9からの日米欧の緩やかな回復は、@急激な落ち込みで発生した過剰在庫の調整一巡、A巨額の財政出動と超金融緩和の政策効果発現によるが、@とA(とくに財政出動)はその性格上一過性
(2)米欧は家計(住宅価格急落)と金融機関(証券化商品値下がり、不良貸出増加)の「バランスシート調整」の圧力が続き、家計消費と金融機関の与信の停滞は長引く



(3)日米欧とも財政赤字が大きく、大型財政政策の追加出動は限界、超金融緩和は長期化すると、資源・資産バブルのリスク
(4)日本には(2)が無いので、政策よろしきを得れば、来年は日本の回復が米欧より早くなり、つれて円高基調(前掲の図表1)が続く可能性
(5)アジアの新興国・途上国には(2)と(3)が無いので、来年は(2)と(3)に悩む先進国と新興国がデカップリングする可能性




4.日本経済回復の条件:新政権の課題
(1)新政権の15か月予算(09年度第2次補正と10年度当初)は、麻生政権の拡大予算(09年度当初と第1次補正)とほぼ同規模。税収も同程度の落ち込みと見られるので、財政赤字も同規模。従ってマクロ経済に対しては「中立」的。但し、新政権は基金取り崩しなどにより、国債発行額を麻生予算よりも抑え、長期金利上昇のリスクを抑制。



(2)「中立型」予算に景気刺激効果を与えるため、新政権は事業仕分けや特別会計・公益法人の基金取り崩しなどで捻出した税外収入を家計・地方自治体・地域経済・中小企業・雇用などの直接支援に回し、内需の立て直しを目指す。
(3)新政権はアジアに対する輸出と直接投資(工場・事業所の移転、現地販売網展開、企業買収)を政策的に支援し、アジアと共に発展を目指す。単に実質GDPを増やすのではなく、実質GDP(国内総生産)+交易利得+所得収支=GNI(国民総所得)を増やす(参考文献152〜157頁)。



(4)三つの中期計画、@国民のライフステージ毎の機会均等と安全ネットの確立、A低炭素社会の実現、B新興国・途上国への直接投資と環境エネルギー技術支援の促進、で成長戦略を明確にすることが今後の課題(参考文献134〜139頁、145〜149頁)。