日中の環境・エネルギー協力
―「平和と安全をめざすエコノミストの会」日本支部の提言
(H20.6.23)

 鈴木淑夫が理事の一人として参加している「平和と安全をめざすエコノミストの会」日本支部は、中国プロジェクトの一環として、昨年末、日中の環境・エネルギー協力の研究会を重ねてきたが、この程その成果を理事長の河合正弘(東大教授、アジア開銀研究所長)氏が中心となって取りまとめ、6月23日(月)午前11時から日本記者クラブにおける記者会見で公表した。記者会見における質疑応答には鈴木淑夫も参加した。
 以下は、その発表文である。これは後日、総理官邸に持参する予定である。


提言
「日中協力で脱炭素社会の実現を」

平和と安全を考えるエコノミストの会
Economists for Peace and Security (EPS)

2008年6月23日


東アジアにおける平和と安定の枠組みをいかに構築していくべきかが私たちの基本的な問題意識である。本提言は、日中間の関係改善が進むなか、気候変動・環境・エネルギー問題に関して、両国間での協力のあり方について示すもので、私たちが2006年10月に出した提言「日中経済・政治関係の強化と地域経済協調―東アジアの安定的な発展をめざして」に続く第2弾にあたる。具体的には、2013年以降の気候温暖化防止のための国際的な枠組み作りに向けた、日本と中国の政策の方向、日中環境・エネルギー協力のあり方を提言する。そうした環境・エネルギー面における日中協力が、東アジアの平和と安全の基礎になっていくことが期待されるからである。


*本提言への参加者は、青沼節、安藤博、石井秀明、伊藤三郎、岩田昌征、植田和弘、河合正弘、喜治都、小坂弘行、小島明、小林剛、白石隆、鈴木淑夫、堤清二、服部彰、浜田宏一、早房長治、原田泰、吹春俊隆、藤田太寅、藤本茂、牧野義司、宮崎勇、森口親司、山田厚史、吉田和男である。全体のとりまとめは河合正弘が行った。

**本提言は、2007年4月−2008年5月にかけて開かれた計14回の研究会合を踏まえて作成された。その作成にあたっては、6名の外部講師と3名のEPS会員講師による10回の研究発表会合(以下にリストアップ)とEPS会員相互による4回の意見交換会合をもった。

1. 西岡秀三(国立環境研究所理事)「世界とアジアの環境問題」(2007年4月26日)
2. 十市 勉(日本エネルギー経済研究所専務理事)「最近の内外のエネルギー情勢と問題と日中協力のあり方」(2007年5月31日)
3. 末次勝彦(アジア太平洋エネルギー・フォーラム代表幹事)「日中を中心としてアジアのエネルギー協力」(2007年7月11日)
4. 植田和弘(京都大学大学院経済学部教授)「中国の経済発展と環境ガバナンス」(2007年9月3日)
5. 李 善同(中国国務院発展研究センター局長・北京大学教授)「中国のエネルギー戦略と政策方針」(2007年9月26日)
6. 染野憲治(環境省地球環境局温暖化対策課国民生活対策室長)「中国の環境の現状と課題」(2007年11月5日)
7. 青山周(日本経団連国際第2本部)「中国の環境問題と環境ビジネス」(2007年12月20日)
8. 早房長治(地球市民ジャーナリスト工房)・牧野義司(フリージャーナリスト)「中国出張調査報告: 中国環境エネルギー問題」(2008年2月7日)
9. 西岡秀三(国立環境研究所理事)「気候変動の自然科学的な議論」(2008年3月24日)
10. 植田和弘(京都大学大学院経済学部教授)「気候変動の経済学的な議論」(2008年4月21日)



提言
「日中協力で脱炭素社会の実現を」

平和と安全を考えるエコノミストの会 (EPS)
2008年6月23日


提言要旨



 気候変動による地球温暖化の影響はすでに世界的に表れ始めており、先進国・新興国を含む国際社会が総体として温室効果ガスの排出を大幅に削減すべく、効果的な対応策を講ずることが必要になっている。経済成長や生活の質を犠牲にすることなく「脱炭素社会」を実現させるためには、経済社会のあり方を根本的に再設計し、人々の意識を変革することが必要だ。日本と中国がともに国際社会の重要かつ責任ある一員として、2013年以降の国際的な枠組み作りに向け、地球温暖化防止に協力していくことが望ましい。

 福田首相は、今月9日、地球温暖化対策の包括提案を発表した。首相の前向きの姿勢はそれなりに評価に値するものの、洞爺湖G8サミットにおける気候変動問題に関する主要国間の議論を引っ張っていくためには、地球的視野からみた政策対応を打ち出すことが必要だ。

 中国政府と胡錦濤国家主席は、昨年後半から気候変動問題への対策に熱意を示し、胡主席は今年5月に訪日した際、福田首相に洞爺湖サミットに伴い開かれる主要排出国会議での論議でも協力すると約束した。このような動きは大いに歓迎されるべきである。しかし、中国の現状の省エネ目標では、CO2をはじめとする温室効果ガスの中・長期的な削減には不十分である。

 このような状況を踏まえ、私たちは以下の提言を行いたい。

・ 日本は洞爺湖G8サミットで、「2020年までに温室効果ガス排出量を30%削減する」という中期目標を明示すべきである。同時に、キャップ・アンド・トレード方式を採用し、排出量取引制度を2009年から導入することを打ち出すべきである。2013年以降、早い時期にオークション方式を採用し、国際市場(EU ETSなど)との統合をめざすことが望ましい。

・ キャップ・アンド・トレードからもれる経済主体(家庭や自営・中小企業等)に排出削減を促すために炭素税を導入し、その税収(ならびにオークションから得られる収入)を省エネ技術向上や再生エネルギーの開発など技術革新を促す研究開発投資(R&D)支援の財源とすることが望ましい。炭素排出規制、排出量取引制度、炭素税、研究開発投資の支援、 低炭素設備への投資などを融合させたポリシーミックスを追求することが望ましいと考える。

・ 中国に対しては、当面は温室効果ガス総量の削減目標値は求めず、一人当たりCO2排出量が増えることもやむを得ないと考えるが、GDP単位当たりのCO2排出量の削減目標に関していっそうのレベルアップを求める。遅くとも2020年代にはCO2総排出量がピークアウトするかたちでの排出原単位の削減目標が望ましく、一人当たりGDPが5,000ドルに接近すると考えられる2020年までには、CO2排出量の総量規制を行うことを約束することを求める。

・ 日本は、中国が成長と温暖化防止を両立させつつ気候変動問題に対処できるよう、技術面・資金面で支援すべきである。日本から中国への省エネ技術・環境保全技術の移転を促すことが望ましい。こうした支援は、当初は石炭火力発電所やエネルギー多消費型産業(鉄鋼や化学)のエネルギー効率を高めるための政府資金・技術支援が中心になろうが、将来的にはクリーンエネルギーの開発など民間企業レベルでの協力を促すかたちでの技術・資金援助をめざすべきである。そのためにも中国における知的財産権保護の強化が喫緊の課題である。

・ この日中協力の枠の中に韓国の参加を促し、北東アジア環境・エネルギー共同体を構築し、将来的にはASEAN+3や東アジアサミット(East Asia Summit)など東アジア域内に拡大する