安倍政権は成長戦略に破綻を来し増税路線に踏み込む(H19.1.30)
―1/30の榊原英資と鈴木淑夫の討論要旨―
1月30日(火)、12〜14時、学士会館において鈴木政経フォーラムの本年第1回目の昼食勉強会が開かれ、ゲストの榊原英資教授(早稲田大学インド経済研究所長)と鈴木淑夫との間で、「安倍政権の経済戦略と07年の日本経済」について討論が行われた。
内容は多岐にわたったが、二人の間で意見が一致した主な論点は下記の通りである。
1.グローバルな工場展開と激しい国際競争の下で、今年も企業の賃上げ抑制姿勢は変らず、雇用者報酬と家計消費は低い伸びにとどまる。
しかし良好な海外経済環境と円安に助けられ、輸出と関連設備投資が伸びるので、潜在成長率ギリギリの2%程度の実質成長は続く。
2.低い賃金上昇率と緩やかな生産性上昇の下で、消費者物価は安定を続け、前年比+1%には達しないので、名目成長率も2%強適度であろう。
3.安倍政権は、財政の基礎的収支を均衡させるため、今後5年間に歳出削減で13兆円の赤字縮小を図るとしているが、その前提となっている実質成長率2.5%、名目成長率3.9%、消費者物価上昇率1.9%は、「絵に画いた餅」に過ぎない。
4.安倍政権は成長戦略を実現する政策手段を持っていない。07年度予算の4500億円の企業減税は合理化投資促進の効果を持たない。企業はキャッシュフローで投資しているので、減価償却を優遇しても、投資を増やす動機は生まれないからだ。インフレ率を2%近くに上げるために、日銀の追加利上げを阻止し続けることも不可能だ。
5.日本銀行は1月の追加利上げを見送ることによって、日本銀行の独立性とフォーワードルッキングな政策運営に対する市場と海外の信認を失った。物価安定の下、実質金利を1%台に持って行くため、目先の個人消費や消費者物価の動向に一喜一憂せず、0.25%の刻みで誘導金利を1%台まで引上げるべきである。
6.今年の日本経済が抱く最大のリスクは、急激な円高による企業収益と株価の混乱である。超低金利の円資金を調達して外貨に替え(ここで円安)、海外で運用する円キャリトレードは著しく累積し、円の実質実効レートはファンダメンタルズからかけ離れ、プラザ合意の85年頃の水準まで円安になっている。いずれ米国からドル高円安の行き過ぎに対して政治的クレームがつくと、それを切っ掛けに円キャリトレードが逆転し、円安・外貨高バブルの崩壊に伴う急激な円高が発生するリスクがある。
7.これを事前に防ぐには、前述のような小刻みの誘導金利引上げを早く始め、円キャリトレードの行き過ぎに歯止めを掛けることだ。しかしそうなると、安倍政権の画く成長戦略(その手段は超低金利の持続と円安促進)が画餅に過ぎないことが益々はっきりして来る。安倍政権は、早晩、消費税率引上げを中心とする増税路線に踏み込まざるを得ない。それがまた成長を阻害し、悪循環に陥る。