安倍新政権の経済政策と私達の暮らし(H19.1.27)

―第50回荻窪地域区民センターカレッジ―


   1月27日(土)午後2〜4時、荻窪地域の区民センターカレッジにおいて、“安倍新政権の経済政策と私達の暮らし”という題で講演を行った。
以下は、その際に用いたレジュメとパワーポイントでスクリーンに映し出した図表1〜12、ならびに講演後の質疑応答の要旨である。


<安倍新政権の経済政策を私達の暮らし>
―レジュメと図表1〜12―

1.最近の日本経済と私達の暮らし
(1)今年で7年目の景気上昇、でも私達の実感は?
   イ、企業の活動は拡大しているが、家計の経済は停滞気味(図表1)


   ロ、企業収益は戦後最高、でも雇用者の所得は減少(図表2)




(2)私達の収入が増えない理由
   イ、雇用は少しずつ増え、失業率も徐々に低下(図表3)


   ロ、でも働く人の給与総額は減っている。賞与が減り、ベースアップが無く、賃金の安い非正規社員(パート、派遣、請負、契約)が増えている(図表4)




(3)企業も勝ち組と負け組に分かれている
大企業と中小企業、輸出関連製造業と内需関連産業、中央と地方、の格差が拡大(図表5)



2.財政の悪化と私達の暮らし
(1)政府の赤字は拡大、借金は累増
 イ、税収は落込み、国債発行は増加、政府債務は850兆円を突破(図表6-1)



 ロ、政府債務残高の対GDP比率は先進国中最高(図表6-2)



(2)赤字拡大を小さくするため、政府は私達の国民負担を引き上げ(図表7-1)


 平成18年と19年中に、所得税・住民税の増税、年金・介護の保険料引上げ、医療費負担増加で合計4.69兆円(一世帯当たり9.5万円)の国民負担増加(図表7-2)


(3)世論調査ではこの5年間に暮らし向きは悪化したとの実感(図表8)



3.安倍新政権と私達の暮らし
(1)安倍新政権の経済戦略は名目成長の促進
 イ、5年後の目標は実質成長2%、物価上昇1.5%、名目成長3.5%。消費者物価の1.0〜1.5%上昇が望ましいとの考え(図表9)



 ロ、実質成長促進のため、07年度予算では4,500億円の企業減税(ただし個人の所得課税は1兆7300億円増税、図表7-2)
 ハ、名目成長促進の副作用として住宅ローン金利は早くも上昇傾向(図表10)



(2)“成長戦略”をとる理由
 イ、租税の自然増収拡大と国債発行削減で公債依存率を引下げ、財政の健全化を図りたい(図表11)


 ロ、本年秋以降に検討する消費税引き上げ幅を小さくしたい(図表12)


(3)これからの私達の暮らし
今年は良い方に行くか、悪い方に行くかの分岐点
 イ、良いシナリオ
(イ)企業の好収益が雇用の一層の増加と賃金引上げを招き、今年からは個人所得の伸びが次第に高まり始めて消費が確りする。
(ロ)成長が続いて自然増税が増え、来年以降の消費税率引上げや国民負担増加が小さくなる。
(ハ)(イ)と(ロ)の好循環で2.0%〜2.5%の実質成長が続き、私達の暮らしは向上、財政も健全化。
 ロ、悪いシナリオ
(イ)企業は引続き賃上げに慎重なため、個人所得は伸びず、消費の停滞が続く。円高で輸出の伸びが落ち、設備投資の拡大もピークを越え、成長率は鈍化して行く。
(ロ)3.5%の名目成長が実現しないので税の自然増収は増えず、財政健全化には消費税引き上げを含む一層の国民負担が必要となる。
(ハ)(イ)と(ロ)の悪循環で成長がますます停滞し、私達の暮らしは改善せず、財政の健全化も厳しくなる。
 ハ、中間のシナリオ
(イ)勤労者の所得と個人消費は引続き停滞気味でも、企業の輸出と設備投資が成長を引張り続ける。
(ロ)緩やかな成長が続くので財政の健全化もある程度進むが、消費税率の引き上げは避けられない。
(ハ)企業と家計の格差は残り、私達の暮らしはこれまでと同じようにあまり向上しない。


[質疑応答](要旨)

【問】
   安倍政権はインフレ率を1.5%程度に上げて4%近い名目成長率を目指しているようだが、インフレ率を高める政策手段は何か?
【答】
   超低金利を長引かせ、円安を進めればインフレ率は高まる。しかし私達の暮らしにとって、低金利も円安も高いインフレ率も不利である。
   名目成長率を高めれば租税の自然増収が増えて、消費税率引上げなどの増税幅は小さくなるので望ましいが、その手段である低金利、円安、高インフレは望ましくないというジレンマがある。
【問】
   政府・与党の本音は、インフレで財政赤字と政府債務対GDP比率を減少させようということではないか。
【答】
   インフレは私達を苦しめ、政府・与党は次の総選挙で不利になるので、指導者達はそこまでは考えていないのではないか。私達の暮らしにとっては、インフレもデフレも望ましくない。物価安定が一番良い。しかし、政府・与党は1.5%程度のインフレが望ましいと考えているようだ。
【問】
   超低金利で円安を進めると、いずれ急激な円高に見舞われるという事だが、日本銀行は分かっているのであろうか。
【答】
   1月の追加利上げ見送りに反対した3人の政策委員は、国際金融の教授と市場関係エコノミストで、円キャリ取引の累積による円安バブルの進行と、その逆転による急激な円高(バブル崩壊)の可能性を心配していると思う。
   残りの6人の政策委員も分かっているが、1か月程度の追加利上げ先送りなら大丈夫と考えたのではないか。もし参院選後の8月迄利上げしない積もりでいるとすれば、大問題だ。
【問】
   今後消費税率を上げる時には、食料品などが例外になることはあり得るか?
【答】
   1〜2%の引上げでなく、3%以上となれば、当然その議論が出てくるであろう。
【問】
   民主党は党内の政策論がバラバラなので、政権を取らせるには不安があるが。
【答】
   自民党や自公間もバラバラだが、政権を手離したくないために、最後は結束する。政党とはそういうもので、民主党も政権を取れば政策について結束するであろう。