日本経済の短期・長期見通し―若木会勉強会における講演(H18.9.19)


 9月13日(水)、40〜50歳台の若手経営者の集まりである若木会の勉強会に講師として招かれ、日本経済の短期・長期見通しについて、以下のような話をした。

1.小泉政権下の日本経済の歩み
(1)小泉政権下の5年余りの間に、GDPの急落(01/U〜W)、輸出主導型回復(02/U〜04/T)、成長失速(04/U〜V)、内需主導型の本格的回復(05/T〜現在)、という経過を辿ったが(図1)、通計してみると、量的指標は最終的に拡大したが、価格指標は下落したままであった。






(2)同時に、企業収益と勤労者所得(図2)、勝ち組企業と負け組企業、大企業と中小企業(図3)、正社員と非正社員(派遣、契約、パート)、中央と地方、などの間に著しい格差の拡大が生じた。






2.本格的回復と格差拡大の原因は同じ根から出ている
(1)本格的回復が始ったマクロ的な原因
   「三つの過剰」(設備、雇用、債務の過剰)の解消(図4)





(2)本格的回復が始まったミクロ的な原因
 イ、日本型のビジネス・モデルの転換(経営の効率向上)に成功した企業がそうでない企業や勤労者との間で、あるいは社員の中で格差拡大を生み出し、それが大企業と中小企業、中央と地方の格差にも投影されている。
 ロ、ビジネス・モデル転換の方向は、「閉ざされた仲好しクラブ」から「開かれたグローバル・クラブ」へ

      従来のモデル「閉ざされた仲良しクラブ」        変化の方向「開かれたグローバル・クラブ」
(イ)、長期顧客関係の重視
         企業グループ(系列、下請)                 グローバルな弾力的取引
         メイン・バンク制(間接金融)                 市場調達(直接金融)
         従業員のガバナンス(インサイダー型)         株主のガバナンス(オープンな市場型)
         ボトム・アップの決定                       トップ・ダウンの決定
         マーケット・シェアの重視                    資本収益率、株価の重視
         所管省庁・業法の縛り                     規制緩和
(ロ)、長期雇用関係の重視
         終身雇用制                              労働のモビリティー向上
         年功序列賃金                            能力と結果に応じた賃金
         企業内OJT                             企業外市場から調達・アウトソーシング

(3)日本のビジネス・モデル転換を促した要因は、次の五つ。
   @キャッチ・アップ完了、先進国の仲間入り
   AIT革命の進行、B冷戦の終了
   Cグローバル化(AとBが引き金)、ビジネス・モデルの国際的収斂
   D少子高齢化


3.日本経済の将来像
(1)短期
   ビジネス・モデルを転換し、設備過剰を解消し、好収益を繋げている企業の設備投資を中心に、民間消費と輸出にもリードされた成長が来年まで続く可能性がある。但し、それを脅かす目先のリスクは、原油価格の再上昇、米国経済の景気後退、金融政策の早過ぎる利上げ、が生じた場合。
(2)長期
 イ、政府債務残高対GDP比率は著しく上昇しているので(図5)、財政赤字を削減しなければならないが、そのための歳出カット、増税・社会保障負担増加に日本経済が耐えられるか。
 ロ、産業構造は@知識集約化、Aサービス化が進む。
 ハ、従来の「日本型ビジネス・モデル」に、企業固有の事情に沿った「ビジネス・モデルの変化方向」を取り入れて「ハイブリット化」が出来るかどうかに企業の長期的な勝負が懸かる。