日本経済と私達の暮らし:現状と展望―第5回世田谷フォーラム(10/21)第1部講演の要旨(H18.10.24)


○ 過去10年間の日本経済をみると、実質GDPは年率1%で緩やかに拡大しているが(10年間で9.9%、以下同様に10年間の通計)、企業と家計、輸出関連大企業と内需関連中小企業、中央と地方の間には大きな格差が見られる。はっきり拡大しているのは中央に存在する輸出関連大企業(設備投資+18.2%、輸出+65.8%)と政府(政府消費+24.8%)であり、地方に広く散らばっている個人や内需関連中小企業はあまり回復していない〈家計消費+6.5%、住宅投資−31.1%〉。



○ 企業の経済活動が活発で個人のそれは不活発である背景には、企業と家計の所得格差の拡大がある。この10年間に企業収益は増加したが、勤労者所得は減少した。



○ 何故か。最近3年間、ようやく雇用が増え失業率が下がり始めたので、勤労者所得減少の理由は雇用ではない





○ 原因は賃金の低下である。賞与が大きく減少し、定例給与も正規雇用(賃金単価が高く社会保険料の企業負担がある)から非正規雇用(派遣、請負、契約、パートなど賃金単価が安く社会保険料負担が無い)へのシフトに伴って下がっている。


○ 他方、企業、特に大企業は、バブル崩壊で発生した過剰な雇用、設備、借金を05年までに解消し、更に賃金を抑制しているので、バブル期を上回る売上高経常利益率をあげている。しかし、中堅・中小企業のそれはまだバブル期を上回っていない。


○ この間政府は、歳出削減が進まないために政府消費が拡大し、反面税収はピーク時(90年度)の60兆円から03年度には43兆円まで減少し、やや回復した05年度も49兆円にとどまっているので、赤字と債務は急増している。政府債務残高は840兆円に膨張(90年度は223兆円)、対GDP比率で他の先進国の2倍、160%へ。


○ 小泉政権は、この赤字拡大を少しでも小さくしようと、5年間に総額8.8兆円、単純に世帯数で割ると一世帯当たり17万8202円の国民負担増加を図った。夫婦子供2人、年収439万円の標準世帯で計算すると、14万7005円の負担増となる。



○ 家計の負担はこれだけではなく、消費者物価と地価も上がり始めた。



○ これに伴いゼロ金利の時代は終わり、金利も上昇し始めたが、預金金利よりも住宅ローン金利の方が足早に上がっているので、家計には不利。





○ このように、勤労者所得が減少している下で、国民負担の増加や物価と金利の上昇が起っているので、世論調査では、この5年間に暮らし向きが悪くなったという人が良くなったという人を24%ポイント上回っている。特に50歳台が深刻。



○[結論]
これから先、私達の暮らしはどうなるのか。図2〜4を見ると、雇用、賃金、勤労者所得は最悪期を脱して改善し始めている。従って、今後@景気上昇が持続し、A大幅な国民負担の増加が無ければ、暮らし向きは徐々に良くなって行くだろう。
しかし、政府債務残高対GDP比率の上昇を止め、徐々に引下げるために、政府は今後5年間に14兆円の財政赤字削減を図ると言っている。
この14兆円の赤字削減が、社会保障費、地方交付税、公共事業費、人件費などの理念なき一律削減と、国民負担の更なる増加(所得税増税、社会保険料引上げなど)で行われると、景気は悪化し、暮らし向きも一層悪くなるだろう。
政府の仕事を思いきって民間と地方自治体に移すような構造改革によって歳出削減が図られない限り、私達の暮らしの前途は楽観出来ない。