景気と金融情勢の展望・消費者金融の使命

─日本消費者金融協会:関東・東北支部合同研修会(「JCFA関東支部レポート No.196」H17.5.20)─


   5月13日、恒例となった東北地区・関東・関西支部合同経営研究会が盛岡市のホテルメトロポリタン盛岡において開催された(参加30社48名)。講師は元衆議院議員で鈴木政経フォーラム代表の鈴木淑夫氏。来賓として衆議院議員の達増拓也氏、岩手県貸金業協会の晴山卓美会長らをお迎えし、「景気と金融情勢の展望、消費者金融の使命」と題する講演をお聞きした。以下は講演の概要である。


景気は踊り場ではなく調整局面にある

   昨年あたりから、日本経済はこれから持続的な成長期に入るといわれるようになった。だが本当にそうだろうか。バブル崩壊から過去2回にわたる好景気があったが、いずれも景気を持続的成長には至らなかった。3回目はあるのだろうか。
   実質GDPは2002年第2四半期から上昇し出したが、04年第2四半期から下降に転じ、二期連続でマイナス成長となっている。また景気動向指数にも景気後退の様子が見て取れる。政府は景気は踊り場というが、現実には景気調整局面にあると認めるべきであろう。
   なぜ持続的成長に結びつかないのか。そこには@米国・中国の成長減速や電子部品の世界的在庫調整、原油価格等の高騰に伴う輸入増などを背景とする純輸出の減少、A輸出関連投資のピークアウトや内需関連の投資機会不足等による設備投資の伸び率鈍化、B雇用者報酬の伸び悩み、年金等の先行き不安等による個人消費の伸び悩み、C公共投資の削減にあまりに偏りすぎた、マクロ経済政策の無策などの主要因がある。日本経済は失速すべくして失速したのであり、このことは1年以上も前から予測されたことである。 

下期からは景気再上昇の期待もあるが…

   とはいえ、今年度の下期を中心に再び景気は上昇する期待が持たれる。日銀短観からも、下期からの景気好転を予測する製造業経営者が多いことが伺われる。その理由としては、電子部品の在庫調整の完了や原油価格の下落予想、さらに米国と中国の成長維持などへの期待が高まっていること。また血のにじむ努力の結果、企業収益が好転し、雇用者報酬の回復、非製造業など国内関連の設備投資の底入れ、配当増加による株価回復などへの期待も高まっていることから、景気調整は短期で完了すると見る人々は少なくない。
   しかし問題点がないわけではない。ひとつは世界経済の拡大の鈍化である。アメリカでは双子の赤字を背景とする金利の引き上げが相次いでおり、経済成長の鈍化は必至である。中国もインフレが進み、また非産油途上国では原油価格高騰に伴う貿易収支悪化による成長の抑制が起きると考えられるからである。
   もうひとつ、個人可処分所得がどこまで増えるかという点がある。まず、昨年4-6月期以降の成長停滞を背景に、雇用がどこまで回復するかという問題。企業も、ボーナスなど一時金の増額はしてもベースアップは断固拒否している。さらに大きな問題として、国民年金保険料や雇用保険料、厚生年金保険料の引き上げ、定率減税の引き下げ、住民税配偶者特別控除の廃止など、家計を圧迫する施策が目白押しであることも見過ごすわけにはいかない。

公的部門の改革の遅れが問題の根本に

   これらについての最も根本的な問題点は、何といっても公的部門に関する改革が、民間部門に比べて大きく遅れていることにある。改革の戦略的ポイントは、@規制の行き過ぎを緩和して政府の仕事を減らし、民間のビジネスチャンスを増やす、A地方の行政改革を行って簡素化し、地域住民の意向に添ったスリムな行政機構を作る、B閉鎖的な仲良しクラブ的な民間企業の経営モデルを変える――という3つである。このうちBは民間の自主努力によって着実に変わってきている。しかし@とAについては、相当思い切った手を打っていく必要があるにも関わらず進んでいない。
   たとえば郵政民営化も、郵貯と簡保は民業圧迫の観点から分割縮小などの改革が必要だが、郵便サービスは重要なナショナルミニマムであり社会インフラである。そのネットワークを公共目的のために活用しないでどうするのか。こうした切り分けも明確にしないまま、ただ民営化の話を進めるのはおかしい。
   いずれにしても、行政のスリム化や、少子高齢化時代に備えた各種社会保障制度の整備が先送りされた中では、年金制度の破綻や増税への不安感から、たとえ今年度後半に景気調整局面を脱したとしても、成長は実力以下にとどまり、長期停滞からの脱出は難しいのではないかと考える。

金利は需給の実勢に基づいて決めるもの

   最後に金融情勢の展望について述べておきたい。日銀による量的緩和政策とゼロ金利政策は、まだ当分の間続くものと思われる。理由としては、国内のデフレギャップとコスト引き下げ努力が続き、年内は消費者物価の前年比が継続的にプラスにならないと考えられることだ。また最近、国債の買いオペにおいて入札の“札割れ”が起きているが、日銀としては日銀当座預金の操作目標を引き下げることはあっても、金融引き締めに転じることはない。ただし都市中心部で地価の上昇が見られるが、これが完全に底入れしたときに政策がどう動くか注意深く見ていた方がよい。
   もうひとつ、消費者金融の役割についてだが、銀行は明らかに斜陽産業だが金融サービス業は成長産業である。特に消費者金融は、企業における資金余剰がみられる一方で個人部門は最近資金不足気味であり、明らかにニーズがある。また個人の可処分所得も伸び悩んでおり、家計の資金ニーズは拡大している。
   日本銀行にいたときからの持論だが、金利は需給の実勢を知った上で上限を規制すべきである。金利を人為的に引き下げさえすれば国民は喜ぶという考え方には私は反対である。これではヤミ金融を蔓延らせ、禁酒法時代のアメリカのように悪い奴が儲かり国民は困るという状況を生んでしまう。今後の金利見直しに際しては、皆さんもこれ以上の金利引き下げは国民のためにはならないと自信を持って主張されるべきだし、私もそうした論陣を張っていきたいと考えている。