日本経済、景気後退か再上昇か
─「どうなる日本経済」パートU(H17.4.15)─


   4月15日(金)午後6時から8時まで、東京神田の駿河台にある日本大学理工学部1号館2階の会議室において、NPO法人「提言・政策を勉強する会」の主催する講演会に講師として招かれ、「日本経済、景気後退か再上昇か」というテーマで講演と質疑応答を行った。
   このNPO法人主催の講演会には、昨年10月8日(金)にも講師として招かれ、「どうなる日本経済」というテーマで講演と質疑応答を行ったが、その折に私が予想したとおりの論理とプロセスで、日本経済は失速し、現在調整局面にある。このため、「どうなる日本経済パートU」として、今後の日本経済の展望について、再度の講演を依頼されたものである。
   私は以下のレジュメにそって話を進め、「本年度後半に調整局面を脱したとしても、緩やかな成長しか出来ないだろう」という結論を述べた。その後、勤め帰りの熱心な聴衆との間で、以下のような活発な質疑応答が行われた。


<講演のレジュメ>

<レジュメ>
1. 景気調整局面に入った日本経済
(1) 03〜04年景気回復の特色
   イ. 大企業の経営改革の成果 ─ その光と影
      (イ) 競争力を立て直した輸出リード型回復。設備投資も輸出関連に偏る(図表1・6)。
      (ロ) 人件費節約で雇用者報酬が減少(図表2)。高齢者の貯蓄率低下で消費を維持(図表3)。
   ロ. マクロ経済政策の無策
      (イ) 公共投資削減(図表1)、税収減=財政赤字拡大のビルトイン・スタビライザー効果のみ。
      (ロ) 「流動性のワナ」に陥り、量的緩和政策は効かず。
(2) 04年後半から現在までの景気失速
   イ. 純輸出の減少(図表1)
      (イ) 米国と中国の成長減速
      (ロ) 電子部品・デバイスの世界的在庫調整
      (ハ) 原油価格や素原材料の高騰に伴なう輸入増
   ロ. 設備投資の伸び率鈍化(図表1)
      (イ) 輸出関連投資のピーク・アウト
      (ロ) 内需関連の投資機会不足
   ハ. 個人消費の伸び悩み(図表1)
      (イ) 雇用者報酬の低迷(図表2)
      (ロ) 年金などの先行き不安

2. 本年度以降の日本経済の展望
(1) 短期調整完了に伴なう再上昇期待
   イ. 純輸出の再拡大期待
      (イ) 電子部品・デバイスの在庫調整完了(年央頃)
      (ロ) 原油価格の50ドル/バーレル以下への下落(原油産出国の増産と消費国の備蓄回復期待)
      (ハ) 米国と中国の成長持続
   ロ. 企業高収益からのスピル・オーバー期待
      (イ) 雇用増加・ボーナス増加に伴なう雇用者報酬の回復期待(図表4)
      (ロ) 非製造業など国内関連の設備投資底入れ、回復予想(図表5・6)
      (ハ) 配当増加に伴なう株価回復期待
(2) 再上昇期待に潜む問題点
   イ. 05年世界経済の拡大鈍化
      (イ) 米国の双子の赤字に伴なう金利引上げ、成長鈍化
      (ロ) 中国のボトル・ネック・インフレ抑制に伴なう成長鈍化
      (ハ) 非産油途上国の貿易収支悪化に伴なう成長抑制
   ロ. 個人可処分所得は本当に増えるか
      (イ) 04年4〜6月期以降の成長停滞が雇用に与える悪影響の懸念(図表1)
      (ロ) 一時金増額のみでベースアップを認めない経営側の態度
      (ハ) 国民年金保険料・雇用保険料引上げ(4月)、住民税配偶者特別控除の廃止(6月)、
             厚生年金保険料引上げ(9月)、定率減税半減(06年1月)、累計82,760円(標準世帯)
(3) 根本的な問題点─民間部門に比して遅れている公的部門の改革
   イ. 小さな政府を目指す行政改革=公的部門の雇用削減・賃金抑制が進んでいない。
   ロ. 人口減少・高齢化の下で持続可能な基礎年金・高齢者医療・介護の社会保障制度の確立が先送り
         されている。
   ハ. 上記のイとロを欠いたまま増税路線に入れば、日本経済は大きな政府と民間の非活性化によって決定
         的に停滞する。
(4) 結論
   本年度後半に景気調整局面を脱したとしても、年金破綻や増税路線の不安が重くのしかかり、実力以下の1〜2%成長にとどまるのではないか。


<質疑応答>

[問]
   財政再建の重要性如何?
[答]
   財政再建は日本経済の再生にとって不可欠の課題であり、早く着手しなければならない。しかし現在のように「小さな政府に向かう歳出削減」が行われないまま、社会保険料引上げ・社会保障給付削減と増税の路線に入って行くと、国内経済が沈滞して税収が伸びず、悪循環に陥って財政再建は失敗するであろう。
   規制撤廃と地方分権で中央政府の仕事と人員を2〜3割カットし、他方地方自治体は都道府県を縮小・再編して役割を減らし、人口20万人以上の市を基礎自治体として無駄を排除するなどの抜本的な行政改革に直ちに着手すべきである。それによって、中央・地方を合わせた全体の歳出を大きく削減することが、財政再建の第1歩でなければならない。

[問]
   金融の量的緩和、ゼロ金利政策は今後どうなるか?
[答]
   原油、鉄鉱石などの素原材料や鋼材などの中間財は企業段階の取引で値上りしているが、家電製品・自動車などの最終材の価格には転嫁されていない。このため企業物価指数は前年比で上昇に転じたが、消費者物価指数は下落を続けている。
   これは、最終材の段階の需給が景気調整局面で緩和したままなので、原料コストの上昇を販売価格に転嫁できないためだ。
   消費者物価が前年比で上昇しない限り、量的緩和・ゼロ金利の政策に変更はないであろう。但し、「30〜35兆円」という量的緩和の操作目標は、金融システムが安定化している現状では下方修正されるかも知れない。これは金融引締めとは違う。

[問]
   郵貯民営化で350兆円の金はどうなるのか?
[答]
   既に受け入れた郵貯や簡保の金は、引続き政府が保証し、満期と共に返済されて行くので、心配する必要はない。その金は、政府保証のない新しい郵貯・簡保に再預入されるか、民間の他の金融商品に向かう。350兆円が消える訳ではない。放っておいても、日本全体の資金循環の中で、国債、財投債、財投機関債や民間の金融商品に向うことになる。