民主党鳩山グループで講演(H16.10.25)
─レジュメおよび鳩山さんとの質疑─


   10月21日(木)午前11時30分から12時30分まで、鳩山由紀夫さんに招かれ、民主党鳩山グループの「第20回政権交代を実現する会勉強会」で、同グループの国会議員を前に講演を行った。以下は、その際の講演のレジュメと、講演後の鳩山由紀夫さんとの質疑応答である。

「どうなる日本経済 ─ 景気論、改革論、歴史論」(レジュメ)

1.景気循環から見た回復の特色(図表1,図表2)
(1)04年度の経済
イ、輸出リード型の特色が突出。設備投資も輸出関連に偏る。
ロ、雇用者報酬が減少する下で、貯蓄率を引き下げて消費を維持。
ハ、財政支出削減の反面、5兆円のビルトイン・スタビライザー効果。
ニ、「流動性のワナ」に陥り、金融の量的緩和政策は効かず。

(2)今後の推移
イ、米国、中国などの成長減速で、輸出の伸びが落ちているため、本年7〜9月期以降の成長率は低い。ただしゲタの関係で04年度平均成長率は3%台。
ロ、来年度は更に輸出関連設備投資の伸びが峠を越え、反面雇用者報酬の抑制が続いて個人消費と住宅投資が立ち直らないので、1%台成長へ。
ハ、ビジネスチャンスを生み出す規制緩和が進んでいないので、国内需要関連設備投資は立ち上がらない。
ニ、不良債権比率が多少下がっても、自己資本比率規制と介入行政の下では銀行はリスクを取って貸出を拡張しない。

2.経済改革は進んだか
(1)民間の自助努力
イ、大企業は人、物、金の節約で損益分岐点操業度を下げ、低成長に対する抵抗力が強まった。新しいIT技術革新も生まれた。
ロ、大手銀行の不良債権処理、自己資本充実が進んだ(除UFJ、りそな)。
ハ、地域銀行と中小企業の改善は立ち遅れている。

(2)政府の改革
イ、官主導から民自立へ:部分的地域的実験的な「構造改革特区」でさえ各種「業法」にひっかかって効果挙がらず。
ロ、中央支配から地方主権へ:僅か3兆円の「三位一体改革」という入口で大もめ。
ハ、官業の民営化:道路公団の民営化は形だけで中身変わらず。郵政公社は2017年までにどうするのか霧の中。
ニ、社会保障改革:保険料と自己負担を上げ、給付を下げることの繰り返しで抜本改革なし。所得税定率減税の打ち切りと消費税引き上げという増税路線へ。

(3)結論
   輸出が引き金となって民間の自助努力が実り、景気は一時的に回復したが、政府の改革が進んでいないので、国内経済の回復に点火せず、輸出鈍化と共に景気もしぼみ、持続的成長につながらない。

3.産業文明史から見た21世紀の日本
(1)第1次産業革命(18世紀後半〜19世紀後半、素材型)、第2次産業革命(19世紀後半〜1970年代、加工組立型)に続く第3の時期:産業化後(post-industrialization)の時代、「脱産業化」の時代

(2)産業化によって実現した「物の豊かさ」を前提に「心の豊かさ」を求めて多様な生き方を追求する時代(取り敢えず技術的基礎はIT、IS)。

(3)多様な生き方から生まれる「ニーズ」に応える「供給サイド」が産業化時代の規制で動けない。そこから混乱や停滞が生まれる(例えば各種の教育、医療、介護、育児・保育、農業、対個人サービス)。


[鳩山由紀夫さんとの質疑応答]

質問(鳩山)
政権を取る為に、今の民主党の体制で欠けているものは何か?

答(鈴木)
   基本的な政策を練るシンクタンク機能ではないか。
   政策調査会やその傘下にある「次の内閣」の各部会は、目先の法案審査や対案となる議員立法の準備に追われがちである。若い議員も同時並行的に開かれる部会を渡り歩き、知識を吸収することに精一杯になる。代表や政調会長の周囲に政策通の若手議員を集めるやり方も、一つ間違えると派閥的になり、ボトム・アップの党内伝統に反する。
   本当に脱官僚の能力を持つ政権を作るには、政策調査会とは別のシンクタンクを作るべきではないか。
   民主党の新しいシンクタンクは、政権奪取後に直面する重要な政策課題について、予め外部の専門家と民主党の専門議員から成るプロジェクトチームを作り、具体的に考える組織としてはどうか。
   このシンクタンクは政策調査会と表裏の関係にある党内組織とすべきであろう。あくまでも政策調査会を手伝う別働隊であり、政策指向の強い組織とすべきであろう。シンクタンク側はプロジェクトチームのテーマについて政調会長と十分な協議を行って共通の目的意識を持つべきであるし、政調側はシンクタンクの成果を全議員で消化し、実戦に活かすべきである。
   そうすれば、来るべき総選挙の「マニフェスト」はもっと説得力のある力強いものになり、民主党に「脱官僚」の政権担当能力が本当に備わって来るであろう。

質問(鳩山)
政権を取った時、真っ先に手をつけるべき政策は何か?

答(鈴木)
   経済政策に限って言えば、官主導・中央支配の仕組みを改める改革に一斉に着手すべきであるが、比較的時間がかからず、経済成長促進の即効性も高いのは、民間の経済活動を縛っている規制の撤廃である。
   小泉内閣の「総合規制改革会議」(宮内義彦議長)の提案や「構造改革特区」の自治体提案は、所管する省庁の反対で、1割も実現していない。これらの規制撤廃・緩和の提案を直ちに実行に移すべきではないか。
   また、各省庁が所管業種を縛っている各種の「業法」は原則として廃止し、「市場法」のような一般的なルールに置き換えるべきではないか。
   事業補助金と結び付いた各省庁の「中期計画」も原則として廃止し、事業補助金は使途を決めないで自治体に一括交付すべきではないか。中央省庁は、中央政府にしか出来ない国家的プロジェクトに特化すべきである。
   以上のような規制撤廃・緩和は、民間に投資機会や雇用機会を生み出して経済成長を促進し、同時に中央省庁の仕事を減らして財政赤字の削減につながり、この面からも成長促進の効果を持つ。
   脱官僚政権と言う以上、民主党が政権を取った時は、このくらいの事は直ちに着手すべきである。