日中アジア平和懇談会 (日中アジア平和懇談会-H14.6.30-発言要旨 H14.6.27)
日中間の貿易、投資、為替相場は、今後の日中の経済協力関係、ひいてはアジアの平和にとって重要な問題であると考えられるので、これらの展望と課題について意見を述べる。
1. 日中間の貿易、投資関係
現在、日本の多くの企業が中国に直接投資を行って工場を建設しているので、日本の国内では、日本経済が空洞化するのではないか、あるいは中国から日本への逆輸入で日本の産業が脅かされるのではないか、という懸念が表明されることがある。この「中国脅威論」は、極めて皮相的、部分的な観察に基づく誤った意見であり、深く全体を分析し展望するならば、この動きは日中両国の経済を共に効率化し、両国に繁栄をもたらし、アジアの平和の経済的基礎を強固にする動きであると考えられる。
しかしその為の大前提は、日中間で自由貿易体制が実現し、また為替相場が市場原理に基づいて合理的に形成されることである。
この二つの前提条件が実現すれば、日本と中国の産業構造は比較優位の原則に基づいて発展し、比較劣位の商品は相手国から輸入するようになるであろう。
何故なら、中国では大量の安くて良質な労働力と部品、原材料の確保が容易であるから、日本と中国の双方の企業にとって、繊維、自動車組立、機械組立、普及型電子部品等の労働集約型製造業は中国に工場を立地したほうが有利である。これによって、これらの製造業は中国で発展し、日本もその製品を中国から輸入するようになるであろう。
他方日本では、大量の安い資本と技術の集積があるので、高級電子部品、高級機械、将来の燃料電池、ナノテクノロジー製品、バイオテクノロジー製品などの知識集約型製造業は、日本で生産し中国へ輸出したほうが、日中両国にとって効率的である。
このように日中両国は、互いに補完的な産業構造を発展させる経済的条件が存在するので、自由貿易と適切な為替相場政策を維持する限り、両国の経済を同時に効率化し、共に発展させる事が出来る。
2. 日中の補完的関係を発展させる政策
このような比較優位の原則に基づく補完的な産業構造の発展は、両国いずれの経済をも効率化するが、その過程で、この関係を維持、発展させる為の政策的課題を両国が正しく解決しなければならない。
第一は、WTOのルールに従って自由な貿易を発展させることである。将来は、束アジアの中に自由貿易圏を作り、拡大させることも検討すべきである。
第二は、自由貿易の結果、比較劣位の産業は輸入品に圧迫されて衰退して行くが、これを日中間の保護主義的紛争の種にせず、WTOのルールに従い、時間をかけて国内問題として処理する事が大切である。
日本の企業が中国に投資して製造する部品、組立製品、農産物などは、中国にとっては同じ製品を以前から作っている中国企業を圧迫するライバルであり、日本にとっては逆輸入を通じて同じ製品を作る国内企業を圧迫するライバルである。しかしこれらの製品は、日本の技術と資本が中国の労働力と合体して初めて製造できる安くて良質の製品であり、日中両国の経済に利益をもたらす。従って、中国と日本の双方で発生する在来企業の衰退は、国内問題として両国がそれぞれ処理しなければ、両国の補完的関係の発展はない。
第三は、為替相場が市場原理に従って合理的に形成されないと、比較優位の原理に基づく補完的な産業構造が両国でうまく発展しない。
中国の元相場は、統計的に観察すると、事実上米ドルにペッグしている。しかしこれでは、円と元の相場が日中の経済関係を反映せず、日米の経済関係を反映するという意味で不合理である。
例えば、日本の対米黒字が縮小してドル高円安になった本年のはじめ頃までは、元も円に対して高くなり、中国は対日貿易上不利な立場に立った。逆に最近のように、日本の対米黒字が拡大し、また米国経済に対する不信感が高まってドル安円高が進むと、日本は対中貿易上不利になっている。
為替相場を完全に自由化し、市場にゆだねる為には、中国の国内に発達した為替先物市場と金利が自由に変動する発達した金融市場が存在し、日々刻々、自由に直先裁定取引と国際間金利裁定取引が行わなければならない。中国の金融改革の現状から考えると、ここまで行くにはまだ時間がかかるであろう。
従って、過渡的な措置として、米ドルのみでなく日本円とユーロの三つの通貨に対する為替相場を貿易取引の比重で加重平均した「バスケット方式」を元相場の決定に採用したらどうかと思うが、お考えを伺いたい。