日中アジア平和懇談会 (日中アジア平和懇談会- H14.7.1 - 発言要旨 H14.6.19)

1、 アジア経済情勢

 最近のアジア経済を全体としてみると、アジア通貨危機によって80年代以来の大躍進が、97年央から98年にかけて止まったが、金融面の混乱が収まるにつれて99年から再び成長が始まった。01年には米国の景気後退の影響を受けて成長は1時鈍化したが、本年に入って再び立直っている。
 以下では、日本、中国、その他の東アジア諸国に分けて経済情勢を要約しよう。

(1) 日本経済

 日本は91年までの十年間、先進国の中で最高の平均4・1%成長を維持していたが、その後01年までの十年間は経済が停滞し、平均成長率は僅か1・1%にとどまった。この経済停滞の引き金は、バブルの崩壊に伴う資産価格の暴落で、1025兆円にも達する資産(不動産、株式)の価値が失われたことである。このため企業や金融機関で負債超過が発生し、投資や融資の意欲が失われた。また個人も資産が小さくなり、消費の意欲が失われた。

 しかし、この資産価値の喪失は1過性であり、経済停滞の引き金ではあっても、その持続的原因では必ずしもない。現に日本経済は96年に3・5%成長まで回復した。

 経済停滞の持続的原因は、経済システムが新しい経済条件に適合できなくなったことである。

 日本の経済システムは、@官が民を指導し、A中央が地方を支配し、B閉ざされたグループを構成して経営を行う(系列取引、メインバンク制、株式の持ち合い等)、という3つの特色を持っていた。この特色は、中央官庁が先進国の制度、技術、法律などを導入して民間、地方、企業に教え、先進国にキャッチ・アップする上ですばらしい機能を発揮した。

 しかし70年代に日本が先進国に追いつくと、中央官庁は真似るべき手本を失い、指導力が低下した。規制緩和によって@官主導から民自立へ、地方分権によってA中央支配から地方自治へ、システムを改革し、民間と地域住民の創意工夫の力を解放し、中央政府は防衛、警察、司法などに集中する小さな効率的組織に変わるべき時を迎えた。

 また世界では技術革新により、情報化、市場化、グローバル化のメガトレンドが発生した。日本のビジネス・モデルは、これ迄のB閉ざされたグループ内の経営から開かれたグローバル経営に変わるべき時代を迎えた。

 しかし残念なことに、日本ではこれらのシステム転換が遅れている。それが日本の経済停滞の根本的原因である。同時にこれは、今日の日本の政治が構造改革を模索している歴史的背景でもある。

 昨年4月に発足した自民、公明、保守連立の小泉内閣も、民主、自由、社民の3野党も、共に構造改革が急務であると主張している。しかしその内容は1致していない。国民の構造改革に対する期待は極めて強いが、現在のところ構造改革が軌道に乗って日本経済の持続的成長の展望が開けるには至っていない。取り敢えず、01年度のマイナス1・3%成長のあと、本年度は若干のプラス成長になるかという段階である(政府見通し0・0%)。


(2) 中国経済

 中国経済は、92〜95年の4年間に2桁の成長率を示したが、その後現在までは7〜9%の成長に鈍化している。

 92〜95年の2桁成長は、明らかに行き過ぎた投資とバブル状態の投機に触発された加熱状態であり、金融引締め措置が取られたのは適切であった。市場経済では、このような行き過ぎた加熱が起これば、必ずその反動で経済は停滞に陥る。中国経済も例外ではない。

 96年以降現在までに金融は緩和され、本年に入ると20%を超える公共投資の伸びで景気を下支えする事によって、7%成長を維持している。

 このような成長率の鈍化は、少なくとも次の3つの要因によるものと思われる。
 第1は92〜95年の過剰投資によって設備ストックが過大となり、ストック調整にともなる民間設備投資の減退が起こっていることである。これは循環的要因であるから、ストック調整が終われば解消するであろう。

 第2は4大国有商業銀行の国有企業に対する不良債権(GDP比約20%)を中心に、不良債権全体がGDP比30〜45%(IMF推計)と巨額に達していることである。これは日本の不良債権(大銀行でGDP約4%)よりも巨額であるばかりではなく、その解決には国有企業と国有商業銀行の大改革を必要とするので長期間を要し、そのデフレ効果は大きいと推測される。

 第3はWTO加盟にともなう輸入品の圧迫である。特に綿花、小麦などの農産物と自動車、電子部品、電気機械、1般機械などの技術集約型製造業で多くの雇用機会が失われよう。
 以上の3つの不況要因のうち第1の設備ストック調整は早晩終了する。第3のWTO加盟は、中国の牧畜業、漁業、繊維やアパレルなどの労働集約型製造業に良い影響を与え、全体として中国の産業構造を合理的な国際分業に沿って効率化するので、恐れる必要はない。第2の不良債権問題だけが難しい問題であるが、これは社会主義経済の負の遺産の精算という構造問題であるから致し方ない。

 しかし、中国経済がWTO加盟の良い効果を活かし、また西部大開発によって地域格差の拡大を押さえながら7%以上の成長を維持していくならば、国有企業の改革と国有商業銀行の不良債権処理も着実に進むであろう。


(3) その他の東アジア経済

 アジアNIEsとASEAN諸国の経済は、通貨危機の打撃から立直った99年から再び発展を始めたが、01年には米国景気後退の影響から輸出が減少し、成長率は大きく鈍化した。とくにIT部品やその組立工場が多い韓国、台湾、シンガポールなどのNIEsでは、落ち込みが大きかった。

 しかし、世界的なIT部品の在庫調整が終わり、米国景気も回復し始めたため、アジアNIEsの輸出は再び伸び始め、本年に入って成長率は高まっている。


2、 東アジア諸国の経済関係

(1)日本・中国・アジアNIEs・ASEAN諸国の相互関係
中国経済が発展すると、将来、日本と中国の経済が競合関係に立つという「中国脅威論」を唱える者も居るが、この考え方は間違っている。日本と中国が今後自由な貿易関係を維持することが出来るならば、日本の対中直接投資の効果もあって、日本と中国の産業構造は相互に補完的な関係に立ち、共に発展するからである。

 日本は知識集約型製造業(高級電子部品、高級1般機械、燃料電池、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー等)を発展させ、中国は労働集約型製造業(繊維、自動車組立、機械組立、普及型電子部品等)を発展させ、日中の製造業は相互に補完し合って共存共栄の関係に立つであろう。

 アジアの経済関係において将来問題になるのは、日中関係ではなく、中国経済とASAN諸国経済との関係であろう。何故なら、ASEAN諸国の国際貿易上の比較優位は、中国と同じ労働集約型製造業にあり、従って中国とASEAN諸国の産業構造は競合関係に立つからである。

 具体的に言えば、日本が直接投資によってアジアに普及型電子部品工場や自動車、機械等の組立工場を建設する場合、中国とASEAN諸国のいずれを選ぶかという問題が常に存在している。

 その場合、中国はASEAN諸国に比べて、大量の安くて良質な労働力と部品・原材料の確保が容易であり、また国内に成長性の高い広大なマーケットを持っているという店で、有利である。ASEAN諸国は直接投資の多くが中国に向かうのではないかと脅威を感じている。

 次に中国と韓国、台湾、シンガポールといったアジアNIEsとの関係は、日中関係と中国・ASEAN諸国関係の中間に位置する。しかしどちらかといえば、日中の補完的関係に近く、中国・ASEAN諸国との関係ほどの深刻な競合関係は薄い。


(2)平和なアジアの経済関係のために ― 結論

 日中経済関係や中国・NIEs経済関係を相互補完的に発展させ、また中国とASEAN諸国との競合的経済関係を緩和させる基本的な政策は、アジア内部の自由貿易関係を発展させることである。その意味では、中国のWTO加盟は大きな前進であり、また日本とシンガポールとの自由貿易協定締結は野心的な試みである。

 アジア内部の自由貿易が進展すれば、比較優位の原理に基づく補完的な産業構造が各国の間で形成される。その過程では、比較劣位の産業の衰退が起きるが、経済全体としては効率化が進むのであるから、衰退産業に対しては各国が国内問題として処理し、国際間の経済紛争にしない努力が必要であろう。

 またアジア内部の自由貿易が進めば、中国内部の成長性に富む広大な市場は、アジアの共通財産となるので、中国と競合関係に立つASEAN諸国の経済にとっても良いことである。それによって産業構造の競合による緊張関係が緩和され、アジアの平和的経済発展に寄与すると期待される。

 最後に、アジアの平和を守る経済的基礎の1つとして、環境問題に触れたい。我々は地球という1つの船に乗った兄弟姉妹である。地球温暖化問題に示されるように、地球環境の維持は各国共通の政策課題である。

 21世紀のエネルギー源は、化石燃料を燃やす火力発電、自然環境を破壊する水力発電、生活環境を脅かす原子力発電からクリーンな燃料電池に切り替えていかねばならない。そのための技術援助や天然ガス・パイプライン網の建設支援などを、アジア諸国の間で真剣に検討しなければならない。