対照的な内外金融政策 (『金融財政ビジネス』2024.12.9日号、小見出し加筆)
【正反対の日本と米欧の金融政策】
米欧は利下げ局面、日本は利上げ局面と、内外の金融政策が今逆方向に動いている。22年から始まった世界インフレに対する対応が、米欧と日本で正反対だったからだ。
【米欧は輸入インフレに利上げで対応】
ウクライナ侵攻で加速した今回の世界インフレは、先進国に資源価格上昇に伴う輸入インフレを引き起こしたが、米欧各国は直ちに22年春から金利を引き上げ、輸入インフレの国産インフレ転化を最小限にとどめた。22年秋に一時前年比2桁に達したインフレ率は23年には1桁に戻り、24年には物価目標の2%に向かって徐々に低下している。米国もユーロ圏も、物価上昇率の抑制により実質所得の落ち込みを最小限にとどめたので、成長率がマイナスに陥ることはなく、第2次石油ショック後のようなトリレンマには陥らないで済んだ。
【日本は輸入インフレを奇貨としてデフレ脱却を企図】
他方日本は、22年からの輸入インフレを奇貨として、国内の予想インフレ率と賃金上昇率を高め、長年のデフレ基調から脱出しようとして、異次元金融緩和のマイナス金利政策を24年3月迄続けた。その結果、米欧諸国との金利差が拡大して大幅に円安が進み、輸入インフレの圧力が一層強まった。国内では予想物価上昇率と賃金上昇率が高まって国産インフレが発生し、22年に始まった物価上昇は23年に一層加速した。このため23年度の実質雇用者報酬は減少し、実質消費支出の減少を中心に24年度1〜3月期の実質GDP前年比はマイナスとなった。トリレンマである。インフレ抑制ではなく、長い間のデフレ基調からの脱出を最優先とした日本だけが支払ったコストである。
【利上げで国産インフレを抑えた米欧は利下げ局面へ】
トリレンマを防いだ米欧諸国のインフレ率は、物価安定目標の2%に近づいているので、欧州では欧州中銀が本年6月以降3回、、英蘭銀行は8月と11月の2回利下げを行った。また米国の連邦準備制度も9月と11月に利下げに転じた。米欧先進国では、利上げによるインフレ抑制のコストとして、景気後退を招かぬよう利下げで景気の軟着陸を図ることが課題となっている。
【日本は輸入インフレ要因が持続】
デフレ基調を脱するために、23年中も概ね3%台の消費者物価上昇率を許容した日本は、24年に入っても2%台後半の上昇率が続いている。8月には一時3%を記録した。3月にマイナス金利を改めたにも拘らず、、欧米との金利差縮小は小さく、円安傾向は改まらなかった。7月の0・25%への利上げでようやく円安の行き過ぎは止まったが、円安修正は進んでいない(輸入インフレ要因持続)。
【根強い国産インフレ要因】
国内では大幅な春闘ベア率が実現し、名目雇用者報酬の前年比は、4〜6月期に前年比+3・8%、7〜9月期に同+3・6%となった。これで民間需要主導型成長の条件は整ってきたが、反面労働生産性向上の裏付けがないと物価上昇圧力が強まる(国産インフレ要因の強まり)。
【日本はもっと早いテンポで利上げを】
日本銀行の「展望レポート」(24年11月)では、消費者物価上昇率が24年度は2%台半ばとなり、25、26年度には2%程度に軟着陸すると見ているが、前記の輸入・国産インフレ要因から見て、果たしてそうなるであろうか。もっと早いテンポで利上げをしなくても大丈夫か。
【物価目標の2%は高過ぎる】
仮に2%に軟着陸しても、真の物価は上がっている。物価指数の基準時固定に伴う上振れ誤差を1%弱とみて、2%の指数の上昇は真の物価の1%強の上昇を意味する。国民は物価上昇に伴う不公正を免れず、企業は物価上昇の反映と価格体系の変化の識別がつかず非効率を免れない。
物価目標を2%から引き下げることを、真剣に考えるべき時である。