財政政策の機動的出動を (『金融財政ビジネス』2019.8.19日号、小見出し加筆)

【今日の事態を予見していた6年前の政府・日銀「共同声明」】
 2013年1月、発足直後の第2次安倍内閣と日本銀行の間で交わした「共同声明」を読み返してみると、まるで今大切な政策を提言しているかのように読める。例えば、「日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面の不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とある。
 この時に恐れていたように、6年半経った今も2%の物価目標は達成されておらず、日銀の「展望レポート」によれば、21年度になっても達成できない見込みである。しかし反面では「金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因」は、恐れていたように出ている。地方銀行、年金基金、生命保険会社などの収益悪化、資産内容劣化は進んでおり、また金融システム内部では市場機能低下に伴うシステミック・リスクが蓄積されている。

【「共同声明」は金融政策を支援する財政政策の機動的出動を想定】
 この「共同声明」は、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」と題されており、本文中には「政府および日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組む」「政府は、機動的なマクロ経済政策運営に努める」と書かれている。従って、金融政策の運営だけではマクロ経済政策の目標達成に時間がかかり、持続的経済成長を脅かすリスクが蓄積されている現在のような局面では、当然財政政策が機動的に出動して経済成長を持続させることを想定している。
 その際「共同声明」は、「財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」として、機動的財政出動が長期的な財政再建路線を逸脱しないように釘をさしている。

【財政にはいま機動的に出動する余力がある】
 この点、実際はどうであったか。一般会計予算の国債依存度は12年度の49%から19年度の32%に下がり、基礎的財政収支赤字の対GDP比率は、12年度の5.5%から18年度の2.8%に下がっている。このため、経済全体の資金循環構造では、家計と企業の資金余剰が合計して30兆円程ある下で、一般会計の資金不足が12年度以前の40兆円程から18年度は11兆円程に縮小したため、バランス上、海外部門の資金不足が数兆円から19兆円程に拡大している。日本は毎年20兆円ちかい対外資産超過を生み出し、世界一の資産超過国を続けている。
 このような資金循環構造の背景には、この6年半の間、成長率が金利を上回っており、税収や収益の伸びが債務残高の伸びを上回っていたという事実がある。逆に言えば、経済の持続的成長によって金利水準が成長率を上回るに至る迄は、消費増税を棚上げして財政の機動的出動をしても、財政再建に逆行しない。

【財政出動の中身まで書いていた「共同声明」】
 財政出動の中身についても、「共同声明」は「革新的研究開発への集中投入、イノベーション基盤の強化、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員し、経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する」とある。本当にこれらを6年半に推進していれば、今の日本経済の姿はかなり違っていただろう。
 日銀の推計によると、6年半の間、潜在成長率は0.7〜0.9%弱に停滞している。全要素生産性(TFP)の伸びが鈍化し、潜在成長率への寄与度が0.7%から0.1%へ落ちたため、資本ストックの寄与度がプラス0.1%から0.5%に上昇し、労働投入の寄与度が不変(就業者数の増加と労働時間の減少が相殺)であっても、潜在成長率は停滞したままであった。消費増税を棚上げし、TFPを引き上げる財政の機動的出動が、この点でも望まれる。