計画的移民の受け入れ (『金融財政ビジネス』2016.1.25日号)

 日本の経済成長率は、2千年代に入ってから、先進国中最低の平均0・7%程にとどまっている。アベノミクスが始まった13〜15年も同様である。この調子で行くと、世界経済に占める日本のシェアは低下を続け、世界における日本の発言力は、経済のみならず、政治や安全保障の面でも低下を続けよう。
 実質GDP成長率を@就業者1人当たりの実質GDP成長率(生産性上昇率)と、A就業者数の変化率に要因分解して、日本と主要先進国を比較してみると、@の生産性上昇率は、2千年代に入ってからも、日本はそれ程遜色がない。しかしAの就業者数の変化率は、2千年代に入って日本だけが減少傾向にあり、他の先進国は程度の差はあれ増加を続けている。この違いが、2千年代の日本の経済成長率を先進国の中で最低にしているのである。
 日本の就業者数の減少傾向は、日本の生産年齢人口の減少を反映した動きである。しかし、生産年齢人口の減少は、日本に限ったことではない。ドイツを中心に、ユーロ圏全体の生産年齢人口の増加も頭打ちだ。戦後のベビーブームや幼児死亡率の低下、平均寿命の劇的上昇などによって、生産年齢人口の増加率が人口全体の増加率以上に高まって、世界の経済成長率を高めた(人口ボーナス)。しかしこの現象は2010年頃にピークを迎え、以後は少子高齢化で生産年齢人口の増加率が低下して人口全体の増加率を下回っている(人口オーナス)。これはユーロ圏だけではなく、米国やブラジル、タイ、中国などの新興国でも始まっている。
 それにも拘らず、米国、英国、ユーロ圏などの先進国では、日本のような就業者数の減少は起こっていない。これは、計画的に移民を受け入れることによって、生産年齢人口の減少を補い、就業者数の増加を維持しているからである。
 アベノミクスでは、成長戦略(旧第3の矢)で生産性の向上を図り、女性と高齢者の労働力率を高めて(新第2、第3の矢)、就業者数を増やそうとしている。いずれも経済成長率を高める政策として適切である。しかし、成長戦略は歴代内閣が口にしながらなかなか実効が挙がらなかった。アベノミクスにも今のところ成果はない。女性と高齢者の就業参加を増やしたとしても効果は一時的で、継続的に生産年齢人口の減少を補うことは出来ない。
 将来の人口の推計(出生・死亡中位)と労働力率の見通し(10年の値で横這いと仮定)から試算した就業者数の年平均変化率を見ると、10年代は0・7%減、20年代は0・8%減、30年代は1・2%減となっている。他方、就業者1人当たりの実質GDP成長率(生産性上昇率)は、この25年間の年平均でせいぜい1%程度である。生産性上昇率を飛躍的に高めることに成功しない限り、今後15年間はゼロ成長に近づき、30年代はマイナス成長に転落することになる。
 日本では移民の受け入れに消極的な意見が多い。日本はユニークな文化と習慣を持つ国なので、移民を受け入れると社会的摩擦が大きくなるという意見を聞くことが多い。特に政界では、移民推進は票に結び付かない上、反対が多いのでタブーに近い。
 現行の外国人研修制度は、アジア諸国の「人づくり」を目的とした国際協力の制度であり、3年間日本の現場で技術・技能を身につけた後母国に帰すこととしているが、実際は日本で働き続けたい人の失踪が増えている。この制度を根本的に転換し、計画的な移民受け入れを開始してはどうか。そうしなければ、日本は世界の中で地盤沈下を続けるばかりとなろう。