公約のベスト・ミックスに期待 (『金融財政ビジネス』2012.12.17号)

 この原稿が読者の目に触れる頃には、総選挙の結果が判明しているに違いない。どの党も単独過半数を取っていないか、仮に自由民主党(以下、自民)が取っていたとしても、参議院で単独過半数を占めていないから、連立、あるいは政界再編の話し合いが始まることだろう。その場合、各党の公約は少しずつ違っているので、小異を残して大同に付かなれば話し合いはつかない。その結果、様々の公約の中からベスト・ミックスが出来上がり、それを実行する連立、ないしは政界再編が行われるのが、最も望ましい。
 日本経済の高目(例えば2%以上)の持続的成長を実現することが、デフレの収束、国民生活の向上、財政赤字の削減、社会保障制度の持続性維持、東日本大震災の復旧・復興、エネルギー問題の解決など総てを容易にするいわば大前提であり、国際的な経済、外交、防衛関係を日本に有利に展開するための基盤である。
 90年代以降、とくに21世紀に入ってから、日本の経済成長率は平均1%にも満たなくなったが、その主な原因は、供給側と需要側の双方にある。供給側では、生産年齢人口の減少に伴う就業者数の減少と、生産性(就業者1人当たりの実質GDP)の低下である。需要側では企業が将来に悲観的となって期待成長率が下がり、資金があっても投資と雇用を増やさないことである。
 日本未来の党(以下、未来)が、女性の就業率を高めるための女性・子育て支援に重点を置いていることは、生産年齢人口減少の下でも就業者を増やし、成長率を高めるために極めて適切な政策である。民主党(以下、民主)がエネルギー、環境、医療・介護、農業などの成長戦略産業の規制緩和、研究開発支援に力を入れ、また民主、日本維新の会(以下、維新)がTPP(環太平洋経済連携協定)を含むFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の国際協定網の拡大に前向きなことは、生産性向上という方向性において適切な政策である。
 需要側については、民主、自民が総選挙後の本年度大型補正予算に言及しているほか、自民が「国土強靭化」、公明党(以下、公明)が「防災・減災ニューディール」のための中期大型公共投資を公約している。この方向性は良いのだが、気になるのが財政赤字の再拡大である。自民と公明は「税と社会保障の一体改革」で、消費税率の引き上げによって社会保障費を賄ない、財政赤字を縮小すると言っている筈だ。自民は公約には明記していないが、国会討論から判断すると、消費税引き上げによって浮いた社会保障費の財源を、財政赤字縮小に当てず、公共投資拡大に当てる積りのようだ。これなら消費税増税に伴う需要不足で成長率が下がることは防げるが、カネに色は付いていないから、消費増税で公共投資を拡大することになる。国民はそれを知っているのだろうか。
 消費増税による成長率低下を回避するため、未来は増税の凍結を公約し、行政による規制と無駄を徹底的に排除して財源捻出と経済活性化を図るとしている。これは3年前の民主の公約と同じであるが、民主政権に出来なくても未来には出来るのであろうか。
 自民と維新は、日銀法を改正して金融緩和を一段と進め、成長率を高めると公約しているが、期待成長率が低下しているため、企業はカネがあっても投資と雇用を増やさない現状では、効果に疑問がある。
 経済成長率を高める適切な政策を公約した複数の党が、小異を残して政策のベスト・ミックスを打ち出すことを期待したい。それによって国民の期待成長率が高まってくれば、これ迄の金融緩和の効果で、本当に成長率が高まってくるであろう。