景気後退瀬戸際の日本 (『金融財政ビジネス』2012.10.22号)

 日本経済は、にわかに変調をきたしている。
 鉱工業生産は年初来弱含みで推移していたが、ここへ来て5月と7月、8月に大幅に低下し、製造工業生産予測調査によると9月は更に大きく下落したあと、10月はそのまま底を這うという。この予測通りになると、10月の水準は年初の1月に比し8%も低くなる。
 鉱工業出荷も生産とほぼ同じように低落しているが、出荷の内訳を国内向けと輸出向けに分けてみると、輸出向けは4月から緩やかに減少し続けているのに対し、国内向けは4月まで増加傾向を辿ったあと、5月から急落している。年率成長率も本年1〜3月期の5・3%から4〜6月期の0・7%へ4・6%ポイント鈍化したが、内外需の寄与度は内需が3・6%ポイントの低下、外需が0・9%ポイントの低下と内需不振の影響が大きい。
 足元の日本経済の変調は、輸出の不振に加えて、これまで成長を支えてきた国内需要がにわかに下振れし始めたためと見られる。
 9月調査「日銀短観」では大企業製造業の業況判断DIが悪化したが、その背景には本年度の売上計画が、国内売上を中心に下方修正され、つれて増益率の見通しが大きく下振れした事実がある。また大企業製造業の本年度設備投資計画(ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)が下方修正され、雇用人員判断の過剰超幅が先行き拡大する。
 いまエコノミストの見通しは二つに分かれ、一つは日本経済は既に景気後退に入っており、7〜9月期に続き10〜12月期もマイナス成長という見方だ。もう一つは7〜9月期はマイナス成長でも、10〜12月期は、海外経済が持ち直して輸出が立ち直り、プラス成長に戻るので、現状は回復の足踏みに過ぎないと見る。
 8月現在、輸出(通関ベース)は前年比5・8%の減少であるが、大きく落ちているのはEUを中心とする西欧向けの28・2%減と中国を中心とするアジア向けの6・8%減で、米国向けは10・3%増えている。EUは今年中はマイナス成長と見られているから、年内に日本の輸出が立ち直るとすれば中国向けが中心であろう。しかし、中国の成長減速が底を打ったという証拠はないし、昨今の日中対立が経済活動に及んでいる現状をみると、遠からず中国向け輸出が立ち直り、日本経済を牽引するとは到底考えられない。
 そうなると、秋の臨時国会で特例公債法案を通して本年度の予算執行を確実にし、更に本年度の補正予算を成立させて国内需要を刺激しないと、現在の回復足踏みが景気後退へ傾いていくリスクは高いと言わざるを得ない。しかし、野党の自民党と公明党は、解散・総選挙の約束をしない限り、これらの法案を通さない態度に固執するのであろうか。
 政界にはいま大きな認識の誤りがあるように見える。当面の景気・物価下振れの主因を内需の落ち込みではなく、以前からの外需不振のせいだと考え、対策は財政政策による内需刺激ではなく、一層の金融緩和・円安促進だと考えていることだ。
 現在の実質GDPはリーマン・ショック直前に比べて、まだ低い。他方、この4年の間に設備投資は続いて供給能力は伸びているから、需給ギャップは著しく拡大し、消費者物価(除生鮮食品)の前年比下落幅は再び拡大傾向にある。9月調査「日銀短観」でも、生産・営業設備判断の「過剰超」と販売価格判断の「下落超」が続いている。ここから更に内需不足による景気後退に陥っていけば、デフレ解消は明年はおろか、消費税増税予定の14年度にも難しいだろう。政局に夢中な民自公三党は、自ら消費税増税の道をふさごうとしていることに気付いているのか。
(10/11記)