消費増税で公共投資か (『金融財政ビジネス』2012.8.20号)

 消費増税法案が成立しても、本当に増税が実施されるかどうかは、まだ分からない。付則には、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずるという、いわゆる「景気条項」が盛り込まれているからだ。また20年までの平均経済成長率は、名目で3%、実質で2%程度を目指す数値目標も記載されている。
 この数値について野田佳彦首相は、「政策努力目標」だとし、2〜3%の経済成長が実現しなくても、増税の判断は妨げられないとしているが、最終決定が行われる13年秋の首相が野田氏である保証はない。
 5%の消費税率引き上げは、13・5兆円の消費増税となる。これを全額、年金、介護、医療などの社会保障費に充て、その分だけこれ迄社会保障費を賄ってきた国債発行額を減額すれば、相当大きな成長率の押し下げ効果がでる。
 定性的に考えると、13年度に消費税引き上げ前の駆け込み需要で成長率が上振れするが、14年度にはその反動と家計の実質所得の減少、消費税を転嫁できない中小零細企業の減益によって、成長率は大きく下振れする。15年度には上期に二度目の駆け込み需要による上振れ、下期に家計所得と企業収益の減少による下振れが交錯する。そして、13〜15年度を通計すれば、駆け込み需要とその反動は相殺されるから、実質家計所得の減少と中小零細企業の減益の影響だけ、成長率は押し下げられ、この効果は16年度以降にも残る。
 これらの数値が定量的にどの程度になるかは、様々のシンクタンクの推計に任せるとして、一つの参考になるのは、97〜98年度の経験である。97年度予算は消費増税で5兆円、所得減税打ち切りで2兆円、社会保険料引き上げで2兆円、公共投資削減で4兆円、計13兆円の財政赤字を一挙に減らそうとした。その結果、96年度に消費増税前の駆け込みもあって2・9%に達していた実質成長率は、97年度にゼロ成長、98年度にマイナス1・5%成長、99年度もプラス0・7%成長に押し下げられた。
 この不況は、97〜98年の大型金融倒産を含む金融恐慌、97年秋のアジア金融危機で増幅された。しかしこれらは、巨額の不良債権の存在など経済の基盤が弱い時や、海外経済にリスクがある時に財政緊縮政策を強行した報いとも言える。現在も、国内はデフレ基調を脱していないし、海外にはユーロ危機、米国経済回復の遅れ、新興国の成長減速などがある。内外にリスクがある時には、財政赤字圧縮の成長押し下げ効果が大きくなる危険性があるのだ。
 民主、自民、公明の3党合意で消費増税法案に加えられた付則18条2項には、消費増税で消費税収が増えて「財政の機動的対応が可能となる中」、経済が落ち込まないよう「成長戦略や、防災、減災」に金を重点的に回すと書いてある。これを受けて自民党では「国土強靭化基本法案」による10年間2百兆円(4分の1が国費)の公共投資構想がでており、公明党も「防災・減災ニューディール」を言いだした。
 消費増税の成長押し下げ効果を小さくするためとは言え、消費増税で国民から吸い上げる血税を公共事業に使うのか。消費増税に賛成する国民は、年々増加する社会保障費を賄うために受け入れる積りなのに。
 いまは消費増税よりも成長戦略による持続的成長を優先するべきではないか。仮に増税する場合も毎年1%ずつ小刻みに税率を上げ、年間の成長下押し効果を小さくし、また駆け込み需要を持続させる方法もある。消費増税で社会保障費から浮いた分は、公共事業ではなく、国民が負担する予定の復興増税10・5兆円に振り向け、復興債を償還して復興増税をやめる手もある。