野田首相は夢と希望のある増税論を (『金融財政ビジネス』2011.12.26号)

 恒例の年末税制改正論議の中で、今年は一番大きな声で聞こえてくる言葉が、「増税」である。しかし、実は本年度も来年度も法人税、所得税、消費税に「増税」はない。それどころか、本年度の法人税は、実効税率で30%から25・5%へ引き下げられる。来年度から3年間は、復興債償還財源の一部として10%の付加税が課せられるが、それでも実効税率は28・05%に上昇するだけで、昨年度までの30%に比べれば減税である。
 それなのに、「増税」が声高に語られるのは、再来年(13年)からの所得税や10年代中頃からの消費税の増税があるからである。このため、多くの民主党国会議員は、地元に帰ると「増税の話はかりではないか」と支持者に叱られるという。
 12月中の主要紙の全国世論調査で、野田内閣の支持率と不支持率が逆転し、不支持の方が多くなってしまったのも、この辺と関係があると思われる。各種の世論調査によれば、「復興財源のツケを将来世代に回さないために、ある程度の増税はやむを得ない」とか、「高齢化に伴って増大する医療、介護、年金、子育て支援の経費を賄うために、消費税率の引き上げはやむを得ない」ということに、国民の過半は反対していない。
 国民が不満に思っているのは、一つは「増税をする前に、国会議員の定数削減、公務員の人件費カット、国の地方出先機関の統廃合、特別会計とその先にぶら下がっている諸法人の整理など、徹底した行財政改革によって歳出の無駄を減らしていないではないか」という点だ。
 もう一つは、「野田内閣は何をやろうとしているのか、どうやって国民生活を向上させようとしているのか、国民に十分説明していない」ので、「政策や指導力に期待できない」と感じている人が増えていることだ。
 本年度と来年度は「減税」をするというのに、再来年度や10年代半ばからの「増税」を声高に叫ぶのは、大震災からの復旧、復興で生じる財政赤字と、高齢化に伴う社会保障費の増大で生じる財政赤字を、そのまま放置しないで穴埋めするという「財政規律」を示したいからであろう。財務省の影響力を感じるが、官僚ならばそれで良い。
 しかし、政治家であるならば、「財政規律」が目的であるかのように、そこで思考停止しては困る。「財政規律」を含んで、もっと大きく国民に将来の「夢」を語り、「希望」を与えなければならない。それが決定的に欠けているために、良い政策を押し進めようとしているのに、野田内閣の支持率はジリジリ下がっているのだ。同じ「増税」を語るにしても、夢と希望のある将来像の中に増税を位置付ける考え方がある筈だ。
 増税には経済活動と国民生活を押し下げる増税と、それらを支える増税がある。前者は増税で得た資金を総て国庫に納め、財政赤字を縮小するだけの増税だ。これは経済を萎縮させる。ギリシャなど財政金融危機にあるユーロ圏周辺国が、為替相場切り下げが出来ない中で、所得効果だけで双子の赤字を縮小する政策が、これだ。日本の97年度予算の7兆円増税もこれで、マイナス成長と金融危機の引き金となった。
 しかし、再来年度以降の所得税増税と10年代半ばからの消費税増税は、若干の時間差はあるが復旧復興の支出や社会保障支出に充てられる増税である。これは復旧復興や社会保障改革という「夢」に充てられる増税で、高所得層から低所得層への所得再分配効果を持つ移転支出として設計すれば、成長促進と安心な社会の実現という「希望」もある。
 野田首相は「国民目線」に立って、徹底した行財政改革、斬新な東日本の復興計画、安心できる社会保障制度の確立、という「夢」と「希望」のある将来設計の中に、「増税」を位置付けて欲しい。