民主党政権の2つの欠陥 (『金融財政ビジネス』2011.7.21号)
09年秋に政権交代が実現し、「万年与党」の自民党が退いて民主党が政権の座に就いた時、その後の民主党の支持率低下、参院選と統一地方選の連続敗北、今日の政権大混乱を誰が予想し得たであろうか。今にして思うと、かつて福田康夫元首相(自民党総裁)と小沢元民主党代表の間で大連立の話が出た時、「今の民主党には政権を担う能力が無いから、政権与党の経験を積む必要がある」と述べた小沢氏の見方が当たっていたのかも知れない。
民主党政権には、「何のために政権交代をしたのか」という根本的な戦略目標、いわば政権交代の大義が欠けている。万年与党の自民党を引きずり降ろし、同党がやってきたことを「今度は民主党がやる」といった程度のことか、それとも自民党があぐらをかいていた日本のシステムを刷新するということなのか。
09年の総選挙における「国民の生活が第一」というスローガンとマニフェスト(政権公約)には、日本のシステム刷新の気迫が感じられた。国民はそれを支持したのではなかったのか。企業収益率はバブル期のピークを上回って最高を記録していたが、雇用者所得は10年前の水準にも回復していない状況の下で、「国民の生活が第一」のシステムに変えるという訴えが国民の心に響いたのではないか。
自民党が「ばら撒きの4K」と非難する子供手当などは、そのための政策ではなかったのか。教育、雇用、医療など人間の尊厳を守り、国民生活の基盤を強化する戦略目標が、マニフェストには見えていた。
しかし、この2年たらずの間に野党のばら撒き批判に遭うと、マニフェストをズルズルと無原則に後退させ、法人税率の引き下げなど自民党政権がやっていたことを民主党が代わって行うだけの政権交代に変わっていったのではないか。「脱小沢」という権力闘争で「政治とカネ」に関する自民党との違いを示すという姿勢も「独り善がり」にすぎず、国民の心に響いていない。
戦略目標の欠如と並ぶ第二の欠陥は、行政組織を使う能力のなさである。官僚主義への反対、規制緩和は正しい。万年与党だった自民党の下で、官僚が時代遅れの規制を墨守し、国民生活と経済活動の発展を阻げ、時には政治家に正しい情報を伝えず官僚主導の大失政を犯した例(98年の金融危機)を総点検し、規制の改革、無駄の排除、官僚主導政治の根絶を図る行政システムの改革を実行することは、民主党政権に期待された役割である。
しかし、改革を実施する新たな規制は必要であり、その担い手は官僚である。いかなる政権も、官僚を使わずして行政組織を動かし、新しい政策を実行することは出来ない。官僚主義反対、規制緩和だから、規制を担ってきた官僚を排除するというのは馬鹿げている。
民主党政権は、唐突に新政策を言い出すことが多過ぎる。その極めつけは、最近のエネルギー政策に関する菅首相の思い付き発言だ。首相が突然ストレステスト(耐性評価)の実施を言い出したため、海江田経済産業相は梯子を外された格好になって停止原発再稼働の努力が水泡に帰し、佐賀県玄海町の岸本英雄町長は一度容認した運転再開を撤回した。これで今夏の電力不足による経済復興の減速は決定的となった。
行政も組織で運営される以上、事前の根回しで互いに意思の疎通を図り、感触を掴むことは円滑な運営にとって不可欠である。とかく市民運動家、弁護士、松下政経塾の出身者は、人前で解説したり論争することは上手でも、組織の中で人を動かす人情の機微に欠けるのではないか。
ポスト菅政権は、少なくともこの二つの欠陥を深刻に反省し、改めないと、いずれやってくる総選挙で大敗北を喫するだろう。